お祝いをしよう!
遊月奈喩多
祈り、祝福、救済、眠り。
「お祝い! お祝いしよう!」
草花が根雪の下で春を待つ寒い日。人形のポーラは声をあげました。
綺麗な金色の髪をふわふわ舞わせて、サファイアの目をキラキラさせて、 周りにいる仲間たちの顔をぐるりと見回して、もう一度「お祝いだよ、お祝い!」と言います。あまり勢いよく回ったので、手足についた操り糸が胴体に絡まって、危うく転んじゃいそう!
「わわわっ!」
「危ないよ、ポーラ」
ポーラを支えたのは、トレーネ。いつも元気なポーラを優しく見守ってくれる人形です。真っ黒い髪に、オニキスの瞳。スラリと背が高くてお姉さんみたい。ポーラはトレーネのことが大好きです。
トレーネは、ポーラに尋ねます。
「お祝いって、何のお祝いなの?」
「お祝いは、お祝いだよ! お祝いのときって、みんな笑顔だもの、素敵なことなんでしょ?」
おや、ポーラはお祝いがどんなものか、よくわかっていないみたい。けれどトレーネにもポーラの気持ちがわかったので、ポーラの「お祝い」を手伝うことにしました。
「お祝いするならプレゼントがほしいよね」
「プレゼント?」
首を傾げるポーラに頷いて、トレーネは優しく笑います。
「そう、贈り物。何がいいと思う?」
「うーん……」
ポーラは困ってしまいました。お祝いをする気持ちはあったけれど、プレゼントを用意していなかったのです。
「どんなのがいいかな」
「それはポーラが考えなくちゃね」
「えぇ、そうなの?」
「ポーラがお祝いしたいんだから、渡す贈り物もポーラが考えた方がいいと思うな」
どうしよう。ポーラは頭を悩ませます。
それを見たトレーネが言いました。
「ポーラがお祝いしたいのは誰?」
「もちろん、アンだよ!」
ポーラははっきり答えます。
アンは、素敵な女の子。晴れた空のように青い瞳はいつも輝いていて、銀色の髪もとっても綺麗。
それに何より、とっても優しい子。
トレーネも、ポーラも、アンのお家のお人形です。ううん、ふたり以外の人形たちも、アンにとっても大事にされて、温かい笑顔を注いでくれるのです。
そんなアンが、みんな大好き。
だからアンが嬉しくなるようなことがしたくて、ポーラが思い付いたのがお祝いでした。楽しいお祝いをできたら、きっとアンも喜んでくれるはず!
まずはアンのプレゼントを考えよう。
みんなでたくさん話し合いました。
「アンは何を貰ったら嬉しいかな?」
ポーラは考えます。最後に遊んだとき、アンは小さな電話を使っていました。そうだ、電話には相手が必要です。ポーラたちと電話できたら、アンも喜んでくれるでしょうか?
もちろん、ポーラだけでなくトレーネたちも一緒です。みんなに話してみると、口々に「楽しそう!」という返事。やっぱりみんな、久しぶりにアンとお話がしたいみたい。
ポーラたちは、自分たちの電話を見つけることにしました。おもちゃ箱から抜け出して、真っ暗なお部屋を歩きます。 前にお外で遊んだときよりちょっとだけ歩きにくくなったお部屋は、きっとアンが成長して大事なものが増えた証でしょう。
おもちゃの電話がたくさんある箱を見つけたポーラは、すぐみんなに渡してあげました。
これで、準備完了。
アンに、みんなでお祝いのメッセージを送ることにしました。
どんなメッセージがいいかな?
お祝いだもの、素敵な言葉がいいよ!
みんなで楽しく相談中。
ポーラは、ずっとリボンを首を巻き付けたまま部屋でぼんやりしているアンを見ながら思います。
きっと素敵なお祝いするから、そうしたらまた遊ぼうね。
今日は素敵なお祝いの日。
世界中のみんなが、幸せでありますように。
そうして、今日も明けない夜が更けていくのでした。
お祝いをしよう! 遊月奈喩多 @vAN1-SHing
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