第四章 ~『蛇の絵の呪い』~
朝の冷たい空気が廊下を満たす中、
昇り始めた日の光が柱を照らし、その影が石畳の床に伸びている。静寂に
耳に届くそのリズムには覚えがあり、
朝日に照らされた彼の表情は、いつもの穏やかさを失い、少し険しいものに見えた。
「
その表情から只事ではない何かを感じ取り、
「実は少々、まずいことが起きていてね……
「そんなことが……」
「私についてきて欲しい」
「分かりました」
近づくと、集まった女官たちの視線が一斉に
重たい空気に包まれる中、それを破るように人混みを掻き分けて
「あなたのせいで不幸が起きたわ」
「私のせいですか?」
「ええ。その蛇の絵の呪いのせいで、皆が部屋を荒らされたの」
ある女官は室内に飾っていた花瓶を割られ、ある女官は衣服を引き裂かれていた。被害が複数の部屋に及んでおり、自作自演の可能性も低いと、
「もう一度言うわ。この問題はあなたのせいよ」
「呪いだと信じるだけの根拠があるのですか?」
「蛇が通ったような跡が残っていたの」
「……それだけなら誰かが荒らした可能性もあるではありませんか?」
「それがありえないの。だって被害者の部屋には鍵がかかっていたもの」
「鍵ですか……」
「そう。私たちはみんな外出中だったの。その間、鍵は宿舎の管理人に預けていたわ」
頭の中に管理人が容疑者として浮かぶ。だがそれを察したかのように、
「ここの管理人は長年勤めてきた人で、皆からも信頼されている。部屋を荒らすとは思えないな」
「そうですか……」
「私達は管理人さんを信用しているわ。でも密室で事件が起きた。それも蛇の絵が飾られた直後によ。これはもう呪いよ。
「やはり私は納得できません」
「これほど状況証拠が揃っているのに?」
「はい。なにせ現場を見ていませんから。それさえ確認できれば、私も信じることができます」
現場を調べれば、密室を生み出した謎を解けるかもしれない。
「だめよ」
「どうしてですか?」
「私たちはこれから滅茶苦茶になった部屋を掃除しないといけないから忙しいもの。ねぇ?」
「ここは一度引こう。無理に話を進めても状況を悪化させるだけだ」
「分かりました……」
場の空気から
外に出ると、冷たい空気が二人を包み込み、それまでの重苦しい気持ちが少しだけ軽くなったように感じられた。
「余計な口出しをしてすまなかったね」
「いえ、
「そう言ってもらえると助かるよ。それで、君はあの絵が本当に呪いを引き起こしたと思うかい?」
「私は信じていません。
「呪いが部屋を荒らすはずがない。間違いなく、犯人は人間さ」
「人間の犯行なら容疑者を絞り込むのは簡単ですね」
「最有力候補は
(裏にいるのが
そんな風に思考を巡らせていると、ふと、一人の女官が近づいてくる。その態度はどこか遠慮がちで、周囲を警戒するように目を配っている。そんな彼女に
「あなたは先程の宿舎にいた……」
「部屋を荒らされた被害者の一人です」
女官の声は小さく、まるで誰にも聞かれたくないかのように小さい。
「どうかされましたか?」
「あの場では言えなかったのですが、私の部屋を調べてくれませんか?」
その申し出に
「とてもありがたい申し出です。でもなぜ?」
「私、霊的なものが苦手で……呪いだと信じたくないんです。人間の仕業なら、それをはっきりとさせたいんです」
彼女も心の底では人間がやったと疑っていたのだろう。その申し出に
「ありがとうございます。必ず、手がかりを見つけてみせます」
「では、私についてきてください」
宿舎に戻る
女官に案内されるまま、廊下を進んで、突き当りの部屋に辿り着く。扉を開け、室内に足を踏み入れると、荒らされた惨状に息をのむ。
衣服や布団が床に無造作に投げ出され、机の上にあったはずの文具や書類も散乱していた。
さらに奇妙なことに荒らされた床には、蛇行するような跡が残されていた。その跡はまるで蛇が這い回ったかのようにくっきりと浮かび上がり、
「これが蛇と関連付けられた理由ですね……」
「その跡があったから、皆、呪いを信じたんです」
「でも、これは蛇が通った跡ではありませんよ。もし本物の蛇が通ったなら、鱗が落ちていたり、爬虫類の匂いが感じられたりするはずですから……」
「なるほど」
「そして決定的なのは倒れている本棚です。蛇にこの大きな家具を動かすことはできません」
「この蛇行したような跡は、部屋を荒らした犯人が細長いものを引きずるようにして細工したものです。決して呪いによるものではありません」
人間の仕業だと断言する。だがそれで周囲を納得させるには、もう一つ解決しなければならない問題があった。
(あとは鍵の謎さえ解ければ……)
思案する
「やはり、そうでしたか……」
「謎が解けたようだね」
「はい、密室のトリックも証明できます」
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