第四章 ~『楽しい食事と警告』~
蛇の絵が玄関に飾られてからというもの、
後宮のあちこちで噂され、作者である
仕事終わりの時間のため、夕陽が回廊の柱を赤く染めている。
すると、
「待たせたかな?」
「いえ、私が早く着いただけですから」
実際、待ち合わせの時刻よりも随分と早い時間だった。二人共、待ちきれずに早く来てしまったのだと知り、穏やかな空気が流れる。
「あの、
「君が才能を発揮した結果さ。私は少し手助けをしただけだよ」
謙遜する
「あの、お礼にご飯をご馳走させてくれませんか」
「気にしなくても良いのだが……」
「これくらいはさせて頂きたいんです」
遠慮するものの、
「分かった。ご馳走になるよ」
「では食堂で夕飯にしましょう」
二人は並んで回廊を歩き、夕暮れの静かな庭園を抜けていく。空は赤から黒へと移り変わりつつあり、足元の石畳には竹笹の影が揺れている。
やがて食堂の明かりが見え始めると、香ばしい匂いが風に乗って漂ってきた。
(美味しそうですね)
扉を開けると、活気ある声と食器の触れ合う音が耳に飛び込んできた。天井から吊るされた赤い提灯が柔らかな明かりを放ち、中央には丸卓がいくつも並んでいる。それぞれに料理を囲む人たちの姿もあった。
「
「ないね」
「なら普段は食事をどちらで?」
「う~ん、なんと言えばいいんだろうか……」
「ご注文はお決まりですか?」
振り返ると、食堂の給仕をしている女性が笑顔を浮かべていた。
「
「
「ではそうしますね」
蒸し鶏の前菜から始まり、茶籠から湯気が立ち上る小籠包、黄金色の焼き餃子や、炒め物の青菜も届いた。
「とても美味しそうだね」
「味は私が保証します」
「それなら信頼できそうだ」
料理の美味しさと他愛ない会話を楽しみながら、二人の間に心地よい時間が流れていく。
香ばしい焼き餃子を一口頬張ると、外はカリッと、中はジューシーな食感に思わず笑みが溢れる。小籠包から溢れる熱々のスープも、青菜の炒め物のシャキシャキとした歯ごたえもすべてが絶妙だった。
鋭い目つきと冷ややかな雰囲気を纏った女官、
「随分と楽しそうね」
「なにか御用でしょうか?」
「用というほどのものじゃないわ。ただ、あなたの高い評判も長くは続かない。それを伝えに来たの」
その言葉に
「どういう意味ですか?」
「あなたに黒い噂が流れているの……描いた絵が周囲に不幸を呼ぶってね」
「根拠のない噂でしょう。なら私が気にする必要はありませんね」
「いいえ、根拠ならあるわ。なにせ、そう占っったのは
「
「この話を聞いても生意気なままなのね……」
「媚びないのは私の長所ですから」
「――ッ……ふん、きっとこの後、
挑発を受けても
「どうして、そんなに余裕なのよ?」
「私の絵は既に多くの人の心に残っています。仮に撤去されたとしても、その感動は消えたりしませんから。それに……」
「撤去はされないと思いますので」
「なぜそんなことが言い切れるのよ!」
「あの場所を管理しているのは
「……お、覚えてなさい!」
去っていくのを確認すると、
冷めない内に楽しもうと、二人は改めて料理に集中する。穏やかな時間を過ごす彼らに、もう横槍が入ることはなかった。
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