雨の間にだけ活動するはずの泥棒が、なぜか今回ばかりは
海野幻創
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売れない作家がいた。
親の遺した屋敷に引きこもり、遺産で食いつないでいた。
最近、大雨になると現れる泥棒が出没している。雨の音で侵入したときの音がかき消され、足跡も痕跡も消えてくれる、そんな雨の日を狙う泥棒だった。
作家は寝る間も惜しんで執筆をしているため、そのニュースを知らないままだ。
泥棒は余りにも成功し過ぎてしまったため、大雨の日になると住民に用心されるようになり、仕事に行き詰まってしまった。
次を最後の仕事にしようと獲物を探し始めると、人の出入りもなく、雨が降っても戸締まりを怠ける無用心な家だと、作家の住む大きな屋敷に狙いをつけた。
そして記録的な豪雨の日が訪れた。
泥棒は雨の中身体を濡らしながら作家の屋敷へと侵入すると、当たりをつけた金庫のある部屋へたどり着いた。
無事に最後の仕事を成し遂げた泥棒は、安堵しながら部屋を見渡した。そこは書斎を兼ねているようで、机の上にパソコンが乗っている。
最新式ならこれも売れるかもしれないと目をつけた泥棒は、パソコンをチェックすると、画面の中にある書きかけの原稿が目に留まった。
泥棒は何気なくその原稿を読み始めた。
泥棒はろくに小説など読んだことはなかったが、読み始めると面白いものだと夢中になった。
泥棒はそのまま夜が明けるまで読み続け、最後まで読み切ってしまった。
その頃には既に雨は上がり、空は晴れ渡っていた。
起き出した作家は、ようやく書き終えた原稿の推敲に入ろうと書斎にやってきた。
そこで目にしたのは、自分の小説に感動して涙を流す泥棒の姿だった。
喜んだ作家は、自分の小説に感動してくれたお礼だと言って盗んだものを全部くれてやり、通報もしなかった。
泥棒はまんまと戦利品を手にしたうえに、最後の仕事も捕まることなくやり遂げることができた。
しかし欲が出てきた泥棒は、再び盗みを再開しようとした。
どこを目標にしてどのように盗もうかと計画を立てていると、頭の中に読んだばかりの小説の文章が浮かんできた。
浮かぶままにそれをパソコンに起こし始めた。泥棒は止まらなくなり、それから三日三晩続けてキーボードを打ち続けた。
その作品を誰かに見てもらいたくなった泥棒は、出版社の公募に応募してみることにした。
するとあれよあれよと賞をとり、出版にこぎつけ、泥棒はいつしか泥棒をやめて作家になったのだった。
一方売れない作家は、書いた原稿を編集者に送ったが、梨の礫で連絡は来ず、再び別の作品を書くために引きこもる生活が始まった。
自分の書いた小説が賞を取り、泥棒が自分の作品をも盗んでいたことは知らないまま、作家は自分の才能のなさに絶望しながらも、執筆をやめられずにせっせと書き続けていた。
雨の間にだけ活動するはずの泥棒が、なぜか今回ばかりは 海野幻創 @umino-genso
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