第3話 残念クズエルフ



 しばらくして少年の食事は終わりを告げた。


「ありがとうございます。美味しかったです」


「はい、どうも。ちゃんとお礼を入れる子は好きよ私」


「す、好き……」


 とたんに顔を真っ赤に染める少年と、そんな少年を目の当たりにして「か゛わ゛い゛い゛っ!」と悶え転がりたくなるのを必死で我慢するサラだった。何という残念さであろうか。


 亀の甲より年の功。

 外見と内心の切り離しは完璧なサラは、心の中で悶えながら平然とした様子で少年に問いかけた。


「さて。これから君はどうする?」


「どうする、とは?」


「このまま皇族としての地位を捨て、庶民として生きるなら応援しましょう。無事に皇城から出してあげる。皇帝の地位を目指すなら……どうしましょうかね? あまりそういう権力闘争には巻き込んでほしくはないわ」


「…………」


 難しい顔をして押し黙る少年。そんな彼に対してサラは気づかれない程度の小さなため息を。


 ここで普段の彼女なら一個人に興味など抱かず、さっさと放逐していたはずだ。十分な金銭を渡し、場合によっては保護者や職を紹介していたかもしれない。


 しかし、この少年は、サラ好みの美少年であった。

 つまり、サラは、必要以上に干渉することにした。見た目が好みだからという理由で。エルフのクズである。


「……しょうがない。しばらく匿ってあげましょう。外で生きるにしても、平民としての基礎知識がないとすぐに野たれ死んでしまうでしょうし」


「い、いいんですか?」


「もちろん。ただし、条件があるわ」


「じょ、条件?」


「ふふふふふ」


 少年をその場に残したまま再び地下室へと戻るサラ。

 うきうきとした様子で戻ってきた彼女が手にしていたのは――かつての専属侍女が使っていた漢服だった。


「少年にはこれを着てもらいましょう!」


 途端に顔をひくつかせる少年。


「そ、それは女の子の服では?」


「大丈夫、似合うわ」


「いや似合う似合わないじゃなく」


「大丈夫。私、女装させた男性を『認識阻害』の魔術で女と認識させて後宮に住まわせた経験もあるから」


「な、何をしているんですか……?」


「昔のことよ。……あれそんな昔のことじゃないんだっけ? むしろ最近だった気も……。まぁとにかく、みんなそれぞれ理由があるのよ。その理由が気に入ったら手を貸してあげるだけで」


「は、はぁ……?」


「赤の他人のことはどうでも良くて。今重要なのは少年の身の振り方よ。――ここは後宮。男性を住まわせるわけにはいかないわ。だから女装してもらいましょう」


「でも……女装なんて……」


「それとも、切っちゃう? どことは言わないけど、ちょきんと。そうすれば正真正銘の『おんなのこ』で、女装だなんだと気にすることもないでしょう?」


 鉄バサミで「ちょきん」と切る動作をするサラ。想像してしまったのか内股になる少年。そんな少年の前でふりふりと衣装を振るサラ。クズエルフである。


 だが、残念ながら。いかなクズが相手であろうとも、少年には他に選択肢などなかった。


「き、着ます……」


「うんうん、素直な子は好きよ、私」


「好き……」


 微妙な顔をしながらも、素直に服を受け取る少年だった。








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