第2話 残念美人



 地下室から地上へと戻り、少年から詳しい話を聞くサラ。


「ふーん、なるほどねぇ」


 少年の口から語られたのはありがちな権力争いだった。兄弟で次期皇帝の座を争い、一方が一方を暗殺しようと刺客を放ったと。


「人間っていつまで経っても進歩しないわねぇ。いや訂正。創作方面ではちゃんと進歩しているわね。その他がダメダメだけど」


 やれやれと肩をすくめるサラ。


 そんな彼女に少年は戸惑いの目を向ける。彼も皇族であるので『後宮で日々祈りを捧げる耳長族の美女』についての噂は聞いていた。

 それが、実際会ってみればこれ・・だ。


「はぁ……あの、お姉さんは『耳長族』というものですか?」


「耳長族というのは可愛くないわね。ここはエルフと呼びなさい。あなたが思うよりずっと由緒のある名前だから」


「は、はぁ、えるふ、ですか……。お姉さんは可愛いというより美人系なのでは?」


「あらあら、その年でもう口説き文句を? かっわいいわねぇ。邦ちゃんを思い出しちゃうわ」


「邦ちゃん、ですか?」


「うん。初代皇帝の邦ちゃん。あ、最近だと高祖と呼ぶんだっけ?」


「――――」


 高祖。

 初めてこの大陸を統一し、大華国を建国した大英雄。そんな偉大なるご先祖様を『邦ちゃん』と親しげに呼ぶサラに絶句するしかない少年であった。


 そんな、常識の埒外に対する驚きによって緊張の糸がほぐれたのか――


 くぅう、と。


 少年のお腹が鳴った。


 くす、っと小さく笑うサラ。


「敵に追われてご飯を食べる暇もなかった?」


「……お恥ずかしい」


「子供がそんな言葉遣いをしないの。『おねーさん、おなかすいたー』と言えばご飯くらい出してあげるんだから」


「…………」


 生まれたときから皇族として生きてきた少年からすれば、そんな物言いをするサラは新鮮な存在であった。これが普通の母親――いや、お姉ちゃんというものだろうか?


 正直に言えば恥ずかしさがある。

 しかし、初めて感じた『姉』という存在に、少し素直になってみたいと思った少年であった。


「……お、お、おねーさん、おなかすいた……すきました」


 顔を真っ赤にしながらお願いしてきた少年に、サラはまるで欧羅の聖母のごとき笑顔を浮かべながら頷いた。

 顔こそ聖母であるが内心は「よっし可愛い! ご褒美です!」であるが。


 いい物を見せてもらったサラは、もはや大華国で使う者もいるかどうかという『空間収納ストレージ』から以前の宴会の余り物を取りだした。鳥の丸焼きやら、牛を焼いたものやら、豚を煮たものやら。


 ちなみにこの料理はずいぶん前のものなのだが、空間収納ストレージに入れておけば時が止まった状態で保存できるので衛生的にも問題はない。……ただし、衛生観念が未熟なので調理時点で食中毒の原因菌が混じっている可能性はあるが。


 そのあたりについても対処の経験があったサラは念のために鑑定眼アプレイゼルで食事の鑑定を行った。特に問題はなかったので安心して少年に食べさせる。


 突如として現れた豪勢な食事に最初は戸惑っていた少年だが、空腹には逆らえないのかバクバクと食べ始めた。


 机の上に両肘を突きながら、そんな少年を見守るサラ。


 見た目は慈愛溢れる良いお姉さんだが、内心は「あー! 可愛い! 女の子と見間違うほどの美少年がおいしそうに食事をする場面は萌えるわね!」である。






※お読みいただきありがとうございます。面白い、もっと先を読みたいなど感じられましたら、ブックマーク・評価などで応援していただけると作者の励みになります! よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る