彼に救世の旅を任せ、僕は裏ルートを開拓する。
シィーゼン
第1話 今世からのお別れ
振り返って考えてみれば、事故の多い1日だった。
僕は新社会人22歳、都市部で働くサラリーマン。
死んだ顔をして何とか採用試験を乗り越えて、
研修と試用期間を終えて、無事に部署へ配属されてしまった。
知らない業務、明文化されていない社内ルール、キレる上司、
初見殺しの死にゲーをやらされている気分でなかなかに精神へくるものがある。
これが社会人か。
しくじらないように、やらかさないように、間違えないように、
毎日毎日高所で鉄骨を渡るような気分で8時間の業務と残業、
数時間の通勤時間で遊びのない日々を送っている。はぁ、学生時代に戻りたい。
「お疲れ様です〜」
咳の止まらない先輩、しわしわなネズミの様な顔をした上司を横目に、
業務を終えてタイムカードを切り、オフィスビルから脱出する。
自動ドアが開き、新鮮で冷たい風を吸い込んだ瞬間が、一番生を感じる。
業務が終わり、仕事から解放されたルンルン気分で大型商用施設が併設された駅へ向かう。
帰れると思うと疲れた体も軽く感じる。さあ、歩いて行こうか。
歩行者信号が青になったことを告げる、カッコウの鳴き声が耳に入ると同時に足を動かし、
横断歩道を渡ろうとすると、視界の端に捉えた爆走するトラックにビビってしまい
及び腰で元の歩道へ戻ってしまった。
トラックは赤信号を無視して交差点をつっきっていったが、
幸いにも横断歩道を渡る歩行者は私だけでけが人もなく、
向かい側の歩道へたどり着いた頃にはそういう危険な事もあるさと、
自分を納得させて興味を失った。
先ほどのトラックで命の危険を感じたこともあり、神経が過敏になって、
落ち着かなくなる。駅までの道にある工事中のビルの下を歩くと
身体が押されるほどの強い風がビルの間を通り抜ける。
「ガシャン、キィー、ゴンゴンゴン」
金属の甲高い音が鳴り響き、嫌な予感がした。
急いでその場から離れると、案の定足場が崩れて歩道が残骸で覆われていた。ひぇ。
何度か危機を乗り越えて駅の近くまでたどり着けた。
駅の入り口を視界に収め、列車に乗ることだけを考える。
電車の出発時刻から大幅に遅れていたので、走ることに必死になっていた。
そのため、夜の暗闇から何かが落ちてくることに気がつかなかった。
「ヒュゥー、ドォゥン」
突如として頭に重い衝撃が走ると同時に視界が暗転する。
薄れゆく意識の中で一つの声が聞こえる。
「ようやく還りましたか勇者よ、あるべき場所へ戻りなさい。」
知らないはずなのに、懐かしい声に戸惑いつつも意識を失ってしまった。
彼に救世の旅を任せ、僕は裏ルートを開拓する。 シィーゼン @Syizen
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