第3話 秘めた想い
「……っとあぶねえ。ここにも敵がいたか……」
3階にもエイリアンが数体いる。俺は近くの部屋にいったん身を隠し、モスの繭を戸棚の中に隠した。
「エイリアンを一掃してくる。モスはここで待っていてくれ」
俺はまた拳銃に弾を装填し、静かにエイリアンたちに近づいた。
「チカイ、チカイ、チカイ」
俺のにおいを嗅ぎつけて集まってくるエイリアンたち。数体密集したところで俺は一気に奴らの前にかけ出た。
「俺はここだ!」
「イタ、イタ、イタイタ!」
「イタイタイタイタイタ!」
「これでも喰らえ!」
エイリアンの密集しているところに向かって銃をぶっ放す。疲れが溜まっていくのか、引き金を引くたび体が後ろへ引っ張られそうになる。
「マユ、ヨコセ! マユ、マユヨコセ!」
「くそっ、弾が足りない」
エイリアンの肉は分厚く、身体を貫通させることができない。2体のエイリアンを仕留めそこなってしまった。
「ヨコセ!」
「ぐわっ!」
弾を詰め込もんだタイミングでとびかかってくる一体のエイリアン。そのまま俺を押し倒し、馬乗りになって頭を食らおうとする。
「やめっ、俺なんか食ってもうまくないぞ!」
「ウガッ!」
大ぶりの右腕がエイリアンの頭にクリーンヒットし、こめかみから緑色の血を吹き出す。
「アアァァァァ!」
力の抜けた右手をがっしりと掴み、引きちぎろうとしてくるエイリアン。
もう一匹の仲間たちも俺の右腕を狙い、ストロー状の口を突き刺そうとしていた。
「やばいやばい、それはやばいって!」
ハエ型エイリアンの唾液には強い酸が含まれている。下手をすればそのまま全身を溶かされてしまうほど危険だ。
「くそっ、もう右腕は捨てるしかない!」
何とか体を伸ばして拳銃を拾い、右腕に向かって引き金を引く。
鼓膜が破れそうな轟音とともに、俺の右腕は吹き飛んだ。
「ギギ、ギィイ!」
右腕と一緒に勢いで怯むエイリアンたち。俺はその隙に1体のエイリアンの口に銃口を突っ込む。
「悪いな、そっちはすでに義手なんだ」
引き金を引くとともに、左腕全体に爆発出来な衝撃が走った。
「ってぇ! やっぱり片腕で撃つのは無茶だな!」
「ギギャァァァァァ!」
「うわっ⁉」
しぶとくしがみついてくる最後のエイリアン。その際に強い酸を含んだ口が俺の左足をかすめた。
「いってぇ! この野郎」
掴みかかったエイリアンの頭に再び銃口を向け、長至近距離から弾をぶっ放す。
「ああっ! いてぇぇ!」
左腕に半端じゃない衝撃がかかる。思わず涙が溢れそうなその痛みをこらえ、俺はモスを残した部屋へと走った。
「モス、無事だったか……うう、痛い」
足についた酸はすでにズボンを食い破り、左くるぶしを真っ赤に火傷させている。
「腕ももう使い物にならんし、これ以上逃げ回るのは無理だな……」
火傷はどんどんひどくなり、左脚を引きずって歩くことしかできない。腕も残った右腕ともう力が入らない左腕とで、この大きな繭を抱えるので精いっぱいだ。
「せめてリンカさんに、一言好きって言えたら良かったな……」
俺はぼんやり、リンカとデートで行った遊園地のことを思い出していた
「遊園地⁉ 行ってみたい行ってみたい行ってみたい!」
「いや、モスは無理だろ。見つかったらただ事じゃあ済まないぞ」
「カバンの中で大人しくしてるからさぁ。ジェットコースターとかテレビで乗ってみたかったんだ」
モスはエイリアンにしては珍しく(?)家にいる間ずっとテレビを見ていた。地球の文明や文化を理解するのに一番手っ取り早いからと言っていたが、実のところ本を読んだりするのが面倒だったからだと俺は睨んでいる。
「わかったよ。じゃあ行ってみようか」
俺は遊園地に行った日の帰り際、リンカに告白するつもりだった。だが最後に入ったお化け屋敷でエイリアン事件が発生。それどころではなくなり、リンカに告白する機会を失ったまま、ここまで来てしまった。
「そういえば結局モスは俺の荷物の中に入ってたから、ジェットコースターに乗れなかったんだよな」
おそらくモスは産まれてからずっと、空を飛ぶということに憧れていたようだ。その気持ちがジェットコースターに乗ってみたいという気持ちに影響したのかもしれない。
モスはずっと、成虫になることを楽しみにしていた。
まるで小さな子どもが将来の夢を語るように、いつも「この星の王になって、自由に空を羽ばたくんだ」と豪語していた。
「いつの間にか俺も、モスの夢に惹かれていったんだ」
「そうだ……俺とモスの夢を、こんなところで終わらせるわけにはいかない!」
こんな体になってしまっては、さっきまでみたいに素早く動くのは不可能だ。だがあと階段を2階分上がりさえすれば、屋上にたどり着ける。
「俺はまだ動ける。だからモス、諦めないでくれ!」
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