正解のその前

「あのね、仮に日記を破ったとしてもページは二〇〇枚。それも三十秒以下でそれだけの数、破れないし挟めない。だいたいわたしはカバンごとひっくり返して中身も全部見たの。でもなかった。ボディーチェックも完璧……」


「ちなみにカバンにあったのは?」


 つい口を出してしまったぼくをきっと睨む。


「一人は筆入れと、教科書三冊と、グニャグニャの英和辞典だけ! もう一人は空っぽ。置き勉かもねっ!」


 そう言って杜さんは窓辺にある机のもとに行き、その脚を蹴った。机はガゴンと音を立て左右に揺れる。察するまでもなく「この机の持ち主よ!」と言いたいのだ。


 ぼくは多少物怖じをしながらも机の中を覗き込んだ。見れば中にはぎっしりと教科書やノートが敷き詰められている。もしやと思い教科書に手を伸ばせば……、


「無駄。机の中も全部ひっくり返したけどなかった。もう一人のもね」


 なるほど。それなら机の中を探しても無駄足になるだけ。止めておこう。

 だけどこれで残る可能性は……。


「教室のどこかに隠されたか……」


 ぼくは今一度、辺りを見回した。

 中学校の時は教室の後ろにロッカーがあったけどこの高校にはない。教室内にあるものと言えば教卓とクラス全員分の机くらい。あとは……。


「他の机の中も広瀬くんを待っている間に全部見た。ゴミ箱の中も」


「そっか、流石に仕事が早いね」


 そうぼくは笑顔で言ったのだけれど杜さんは、

「感想はいい。考えて」

 とのこと。


「……」


 仰せの通りに、考えますとも。

 ぼくはあごに手をやり考えた。


 まず今日の放課後、杜さんの机の上に置いていた日記が消えた。

 犯人は二人組の男子生徒で、日記が消えるまでは三十秒もなかった。

 男子生徒の持ち物も調べたが有りはせず。

 つまり日記は外に出ておらず、未だこの教室のどこかにある。

 しかし机や教卓も探したが教室のどこにもない……。


 いや、本当にそうだろうか?

 この教室、決して大きくはないが流石の杜さんも隅々までは見ていないはず。

 本当はまだなのではないだろうか。

 もしそうだとすれば……。


 消えた日記は文庫本サイズ。

 そして厚みは二〇〇ページほど。

 時間は数十秒。

 その場しのぎに最適な隠し場所。

 ぼくが犯人なら……。




「……」




 なるほどね。

 わかったかもしれない。

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