第2話 俺のユニークスキルがチートな件について
眩しい光が部屋全体に広がると同時に俺は、スマホのアラーム無しに自然と起きることができた。
日光を浴びると勝手に起きることができると前に動画で見たが、本当だったとは。
ルーティーンのニュースチェックをしようと思ったが、ネットが繋がらないことを思い出した。
オフラインで使えるアプリは、植物図鑑と国語辞典、そしていくつかの政治書籍だろうか。あとは、料理のレシピ本かな。
どうやら昨日の時点でスマホを持っている人は俺だけだったらしいため、出すことはなかった。出したら取り上げられそうだったからだ。例えば、佐藤なんかに。
高橋も「ここは公平に行こうよ」とか言って取り上げそうで怖い。
最新のソーラー充電器もあるため、実はこれからもスマホに困ることは無い。ネットが使えないだけで。
今日の予定をチェックリストに追加しながら制服を着ていると、部屋の外からノック音が聞こえた。
「ハル様、お迎えに上がりました」
「分かった。今行く」
部屋を出ると他のクラスメイトがどこかへ向かっていることが分かった。
昨日と同じメイドに案内されながら移動する。
大きな食堂であった。
俺が最後だったらしく、入ると同時に何人かに見られた。
クラスメイトをバレないように観察しているとメイドを見る度に顔を赤くさせる男が何人か居た。
既にメイドの虜となったようだ。
佐藤もその一人で壁際で待機している綺麗なメイドを見て顔を赤くしている。
美咲はもういいのだろうか、と俺は思ったが彼の恋路は端から破綻していたのでどの道だったか。
真実を知る前に可愛いメイドが手に入って良かったな。
閑話休題。
一見すると美味しそうな料理の数々であったが、昨日から続く件を考えると到底食べる気になれなかった。
昨日は魔法による縛りは低いと思ったが、よくよく考えると食事に薬を仕込むことなど可能だ。
毒検知のスキルを持っていない現状、他人、それも利用しようとしてくる相手が用意した食べ物など到底受け入れられない。
それは隣りに座っている美咲も同じだったらしく、スプーンを手に取るだけで食事に口を付けていない。
そうこうすること数分、何人かの兵士と思われる格好をした人と佐藤よりも体格が大きい男が入ってくると俺たちに向かって話かけた。
「聞いてくれ勇者諸君。君たちは、強力なステータスとスキルを持っている。しかしレベル1のままでは弱いままだ。そこで、今日から基礎訓練を行い1週間後に王国から一番近いダンジョンへ向かってもらう」
「分かりました」
「む。お前は確か、<勇者>を持つ者だったか。勇者たちを上手くまとめてくれ」
「皆、聞いての通りだ。俺たちはこれから1週間基礎訓練を受けることになった。ただ、どうしても無理な者は言って欲しい。戦闘を免除してもらおうと思う。……よろしいですよね?」
「あぁ、勿論構わない。だが、ダンジョン遠征には付いて行ってもらう。戦闘に参加しなくともレベルを上げることは可能だからな」
「分かりました」
高橋が機転を効かせたことで戦闘が苦手な人は参加しなくてもいいらしい。
「どうする美咲?」
「私は訓練に参加するわ」
「そうか」
「あなたはどうするの?」
「俺は図書室に行く。異世界の情報が知りたい」
「それもそうね」
俺は訓練の辞退を告げる為、高橋の元に向かった。
彼は複数人のクラスメイトに囲まれ楽しそうに話していた。
「高橋、さっきの話だが、俺は訓練を辞退しようと思う」
「桜木君か。無理に参加する必要な無いからね。分かった」
「あぁ、よろしく頼む」
「ハッ! 足手まといは――」
「またな」
「おい!」
高橋に辞退を告げた俺はメイドに図書室まで案内してもらった。途中で邪魔が入ったが、華麗にスルーして切り抜ける。
図書室は地方の小さな図書館程度の大きさであった。
気になった本から手にとって読んでいく。
1冊目はこの国についての歴史書であった。
不思議なことに読めないはずの文字が読めている。
これもエクストラスキル<多言語理解>の影響なのだろう。
唯一、他のクラスメイトと同じものだ。
本を読み進めていくと王国について分かって来た。
レイヴァンハート王国。
建国500年を誇る大国であり、大陸北西部に位置している。
北は魔王領、南は帝国領、西は海に面している。
元々、魔王領だった土地を当時、皇太子であった英雄王レイヴァンハートが開拓し、王国を建国したらしい。
そのため魔王からしたら土地を奪った相手として、帝国からは属国的な存在なのに大国となりこちらへ影響力を持つようになったとして、争いが起きている。
東には、大森林が広がりその向こう側には、いくつもの国が乱立する戦国時代となっているらしいが、この本には詳しく載っていない。
海側に至っては浅瀬で漁をする程度であり、海の向こう側に行く技術は無いらしい。
中々、ハードな立地となっていることが分かった。
この国の現状を知ると勇者を召喚して戦力が欲しいのは分かるが、それに従ってやる通りは無い。
俺は自由に生きたい。
そのためにも俺は、与えられた手札をまず知ることから始める必要がある。
訓練に参加しなかった本当の理由はこれだ。
手札は隠してこそ効果がある。
★★★
数時間が経った。
それまでに読んだ本は多岐に渡る。
英雄王の伝説、この国の特産物、帝国との小競り合いについて、魔物の種類などなど。
そして今、ようやく目当ての本を見つけることができた。
「スキル辞典……」
スキル辞典だ。
何故か最重要とも言うべきスキルについて書かれている本が見当たらなかった。
読んでいくとまずスキルの概要について書かれていた。
スキルとは神が与えた祝福であり、以外にも取得しやすいらしい。
スキルには戦闘・戦術スキル、魔法スキル、職業スキル、生活スキル、パッシブスキル、その他・特殊スキルにカテゴリーされる。
更に2つの階級に分かれている。
通常スキルとエクストラスキルだ。
エクストラスキルとは通常スキルの進化系であり、1つでも持っていると冒険者ランクで言えばAランク上位に君臨することができる。
そして一部の選ばれし者が持つスキルがユニークスキルである。
<勇者>や<魔王>などが該当する。
似たようなスキルはあれど全く同じスキルは存在せず、まさに唯一無二のスキルだ。
そのためユニークスキルについての情報は少なく研究が進んでいないらしい。
「ユニークスキルについて調べる前に無能扱いって……あ、ステータスか」
ユニークスキルが千差万別なら何故、特に調べる前に無能と切り捨てたのか疑問に思ったが、俺のステータスが器用さと知力以外、オールFということを思い出した。
ステータスが見たいと思ったからか、突如頭の中にステータス画面が表示された。
―――――――――
名前:桜木春
年齢:18
種族:人族
職業:無職
Lv :1
HP:50
MP:50
攻撃力:F
防御力:F
魔法防御力:F
素早さ:F
器用さ:EX
知力:EX
幸運:E
エクストラスキル:多言語理解
ユニークスキル:分解修理、学習
スキル:家事、速読、空腹耐性
称号:異世界人、読書愛好家
―――――――――
どうやらステータスは言葉に出さなかった場合、脳内に表示され秘匿することができる。
直ぐにバレる嘘だが、勇者たちのステータスを知られているため既に遅い。
それに、今は衣食住を保障してくれる相手だ。
端から信用せず独り立ちしようとする者以外は、スルーするだろう。
それよりもステータスに変化がある。
職業が学生から無職に変化している。
確かに今は訓練にも参加せず、王城に勤務しているわけでもなくただ自分のために時間を消費するだけだ。
間違いでは無いが、不満が無いわけでも無い。
ステータス値にも変化がある。
幸運がFからEに上がっている。
いつ上がったのか分からないが、昨日のメイドの件、朝の食事の件、そしてスキル辞典を見つけられた件を考えると幸運のステータスが上がるのも分からなくはないか?
称号も読書愛好家が新たに追加されている。
称号とは自分の行動によって付く物なのだろうか。
例えば、犯罪をすれば、犯罪者と表記されたり。
そして一番の変化はスキルが増えたことだ。
<速読>と<空腹耐性>だ。
<速読>に関しては、恐らく興味の沸いた本を片っ端から読んでいたから付いたのだろう。
また<空腹耐性>は、朝から何も食べていない状態で長時間に渡り読書をしていたからかもしれない。
だが、それにしても簡単にスキルを取ることができている。
それは恐らく―――。
「ユニークスキル<学習>……」
はじめ見た時は、勉強しかできない俺への当てつけかと思ったが、この世界においてはどうやら強力な武器となるかもしれない。
特に意識していないかったことを考えるとこのスキルはユニークパッシブスキルに該当するのだと思う。
<学習>を意識的に使えばどうなるのだろうか。例えば、訓練に参加している時に意識的に使うとか―――。
これは試しがいがありそうだ。
それに<器用さ>と<知力>がEXなのも大きいだろう。
スキル辞典を見つける前にステータスについて簡単にまとめられていた資料があった。それによると最低ランクはF、最高ランクはSであることが分かったがEXがどこに該当するのか分からなかった。
これは感だが、EXはSランクの上だと思う。
情報源は、今までやってきたゲームの知識だが。
閑話休題。
もう一方の<分解修復>はどんなスキルなのだろうか。
字面的に分解して直すのだろうが、どのレベルまでできるのだろうか。
例えば、料理を<分解>して料理と薬に<修復>する―――など。
「……やってみよう」
俺は司書にスキル辞典の持ち出しを許可してもらった後、小腹が空いたとメイドに報告し部屋まで持って来てもらった。
頼んでいた通り、運ばれた料理は軽食であった。
呼吸を整えてユニークスキルを使う。
「<分解>」
料理が材料に戻るイメージをしながら目を瞑り呟いた。
そっと目を開けると様々な食材に<分解>されていた。
「よっしゃー!」
あまりの嬉しさに久しぶりに大声で喜んでしまった。
「如何なさいましたか!?」
「い、いやなんでもない。気にしないでくれ」
どうやら部屋の外まで聞こえていたらしい。
適当に誤魔化した後、机の上に並んだ材料を見る。
どれも日本で見たことのある野菜や肉にとてもよく似ていた。
それと薬のような物は見当たらなかった。
集団よりも狙い撃ちしやすいこの状況で薬を盛っていないことを考えると料理は安全と判断していいのかもしれない。
だがこれからも注意することに越したことは無い。
あとはこの料理を元に戻せるかどうかだが―――。
「<修復>」
目の前にあった材料が早送りのように交ざっていき元の軽食に戻った。
この<分解>から<修復>までの作業を瞬時に行うことができれば、食堂で食べることができる。
「<分解修復>」
試しに材料の一部を抜くイメージで詠唱してみると指定した材料が抜けた料理ができた。
これで当面の間は食事に困ることは無い。
他にもできる物はあるのだろうか。
例えば、地面を掘ることができれば脱出することができるのだが。
「<分解>」
イメージ通り一人通れるぐらいの穴が床に空いた。
これを掘り進めればいつか王城を脱出することができる。
俺は穴から出た後、床が陥没しない程度に<修復>し誤魔化した所で力尽き、何とかベッドまで向かって眠りについた。
分解修復勇者~裏切られ勇者は異世界を謳歌する~ @free123456789
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