分解修復勇者~裏切られ勇者は異世界を謳歌する~

@free123456789

第1話 召喚された者が必ずしも友好的とは限らない

「よくぞ来てくれた! 勇者たちよ!」


 数段高い場所から偉そうな老人がこちらを見て興奮しながら告げた。


 先程まで数学の授業中だったはずだ。


 俺はいつものようにボーっとしていると教室の床に突然、巨大な紋様が浮かび上がったと思ったら太陽を直視したみたいに目がやられた。


 そして気が付けば、これだ。


「私は、この国の王であり、諸君を召喚した者だ。諸君には、特別な力が宿っている。それらを鑑定しどうか魔王討伐に役立たせてくれ」


「何言ってんだ!? クソじじぃ!!!」


 国王の物言いに切れたのか、クラスで最も体格が良い男子が詰め寄る。確か彼は……誰だっけ?


「涼介! 落ち着けって!」


 そうだった、佐藤涼介。坊主頭の野球部だ。いつも俺を見ると舌打ちしてくる奴だ。


 どうせなら舌じゃなくて球を打てばいいのに。


 彼は変わってるなぁ。


 そして彼を抑えているいかにも主人公のような見た目の男子は、高橋翔太。成績優秀、運動抜群。文句無しのリーダーだ。


 1人でいることが多い俺に話かけてはグループに混ぜようとしてくる。


 彼の行動に別の目的があることは分かっている。俺からすると全くもって迷惑極まりない。


 何より誰が好き好んで佐藤の所にいかないといけないのか。


「離せ翔太!突然こいつらに拉致られたんだぞ!なのに何も説明が無く偉そうにするだけ!お前は何も思わないのか!?」


「確かにそうだ。……だけどきっとあの人にも事情があるんだよ!そうじゃなきゃこんな大胆な行動を取るわけがない!だから一旦、落ち着いてくれ!」


「……ちっ。わかったよ」


 おお。あの佐藤を宥めたぞ。ちょっと感動的だな。


 それにしても高橋は頭花畑か?


 国王は俺たちを勇者と呼んだ。追加で魔王も。そこから分かることは、対魔王戦力もしくは周辺国への牽制が目的か。


 どちらにしても高橋の雰囲気から察するに国王がやむを得ない事情があって召喚したんだと思ってるいるのだろう。


「すまん。勝手に召喚したことは謝ろう」


「謝るだけかよ!俺たちを元の世界に帰せ!」


 佐藤の言葉を契機に他のクラスメイト達も便乗する。


 家に帰りたいだの、ネットしたいだの、ゲームしたいだの様々だ。


 唯一何も言っていないのは、隣りの席の橘美咲だ。


 彼女を一言で表せば、暴ry、じゃなくて深窓のご令嬢だろうか。


 橘財閥の1人娘。長い黒髪にキリっとした目つきの大和撫子だ。武術を嗜んでおり、俺は毎日吹き飛ばされている。


 やっぱり暴力おn、


 ガンッ!


「いっ……」


「何か言ったかしら?桜木春君?」


「いえ……。何も……」


「そう。それよりもこの状況。春はどう見る?」


 こ、こいつ。人の足を踏んでそれよりもって、人の心とかないんか?


「ん?」


 ひぇ、おっかねぇ。異世界に来てから感覚が研ぎ澄まされたんじゃないか?


「それで?どう思うの?」


「あぁ~。憶測でいいか?」


「ええ。構わないわ」


「そんじゃ、まず俺たちの現状ね。拉致られたのは確実。それも集団で一斉に誰にも気付かれることなく」


「これが共有された明晰夢である可能性は?」


「それは無い。俺とお前が同じ夢を見るなんて気持ち悪くて考えられ、ブフォッ!」


 思いっきりブローを喰らった。

 なんでやねん。美咲、いつも俺に気持ち悪いだの、変態だの言ってるじゃないか。


 なんで美咲はよくて俺は駄目やねん。なんでやねん。


「話が逸れたわね。続きをお願い」


「あ、あぁ。明晰夢なら想像したことが実現するはずだが……。してないことからこの状況は現実だと思った方がいいだろう。それに五感から感じ取れる情報があまりにもリアルすぎる」


「それもそうね」


 ああ、本当に。昨日の柔道の時に感じたあの膨らみは忘れられない。明晰夢ならよかったなぁ。二重の意味で。


 美咲から鋭い視線を送られたので続きを話す。


「そして国王の目的。皆ボケっとしてて聞いて無かったかもしれないけど俺たちのことを勇者と呼んでた。そして魔王討伐に向かって欲しいと。魔王討伐とやらが嘘だとしても周辺国への圧力が目的の可能性もある。どうやら俺たちには強力な能力が備わってるらしいし」


 そう言って国王とクラスメイトたちを見つめる。


 どうやらクラス内で話はまとまったらしい。


 国王が言うには、現状返還方法が無く唯一の方法は魔王討伐だけであること。


 その代わり、魔王討伐までの間、衣食住を保障するとのこと。


 衣食住が完備されるならと高橋は納得しクラスを説得した。


 俺たちは、怪しまれないようにクラスに混じりながらヒソヒソと話していたが、いつの間にか決まった今後に頭を抱えたくなる。


 隣りを見ると美咲も頭が痛そうにしている。


「……、どうやら当たりのようだな」


「ええ本当に」


 何納得してんねん。高橋、もっと頑張れよ。


「橘さんと桜木君もそれでいいかな?」


「ああ、問題無い」「ええ、問題無いわ」


 問題無いわけながない。


 国王の近くにいたザ・魔法使いというローブを着た男が声を上げた。


「皆様には、こちらの世界へ渡ってきた際、女神の祝福を受け強力なスキルを授かったはずです。『ステータスオープン』と発言してください。ご自身の能力が分かります」


「皆! 不安なのは分かるけど、ここは僕を信じて従って欲しい!」


「翔太君が言うなら……」


「ありがとう、花子!」


 他のクラスメイトも高橋に従ってステータスを確認していく。


 流れに沿って俺もステータスを確認する。


「ステータスオープン」


―――――――――

名前:桜木春

年齢:18

種族:人族

職業:学生

Lv :1

HP:50

MP:50

攻撃力:F

防御力:F

魔法防御力:F

素早さ:F

器用さ:EX

知力:EX

幸運:F

エクストラスキル:多言語理解

ユニークスキル:分解修理、学習

スキル:家事

称号:異世界人

―――――――――


 ステータスの平均値がどのくらいか分からないから何とも言えないが、少なくとも器用さと知力以外オールFであるためあまり良くないだろう。


 周りを見渡すと皆、突然自分の目の前に透明のボードが出現したことに驚いていた。


 今なら美咲の阿保面を拝めるかなと思い美咲を見ると特に同様せず、ボードを見ているのが分かった。


「見てもいいか?」


「構わないわ」


 そう言って美咲のボードを見ると驚愕のあまり阿保面をさらけ出してしまった。


――――――――――――

名前:橘美咲

年齢:18

種族:人族

職業:学生

Lv :1

HP:500

MP:400

攻撃力:S

防御力:S

魔法防御力:S

素早さ:S

器用さ:S

知力:S

幸運:S

エクストラスキル:多言語理解、武神

ユニークスキル:明鏡止水

スキル:武術

――――――――――――


「お、俺と違う……」


「そうでもないわ。どうやら春だけが違うそうよ」


 そう言って美咲は、他のクラスメイトたちのボードを指さす。


 俺もつられてクラスメイトのステータスボードを盗み見ると軒並みBまたはAであることが分かった。


 中にはオールAだったりSとAのみという者も居た。


 そんな中、3人はと言うと――――。


「翔太、すげぇな!オールSじゃないか!」


「ありがとう。涼介だって知力と器用さ以外オールSじゃないか」


「当たり前だぜ!俺の攻撃力がSじゃなかったら何だって話だよ!」 


「花子も凄いね」


「ありがとう、翔太君!」


 どうやらあの3人はステータスに恵まれたようだ。


「それでは勇者の皆さま。ステータスを確認させてください」


 そう言ってローブを着た男が1人1人ステータスを確認していく。


 ローブの男は、はじめにあの3人を見るとそのステータスの高さとスキルに驚いた。


 どうやら彼らは、それぞれ<勇者>、<聖女>、<拳聖>スキルを持っていたらしい。


 勇者や聖女は職業だと思うけど、スキルには色々と種類があるのだろうか。


 その後、ローブの男はクラスメイトたちのスキルを確認していく。


 どれも異世界において優秀なスキルや逸話が残っているユニークスキルだったらしくローブの男は確認していく度に目を滾らせた。


 そして残るは、俺と美咲の2人になった。


 ローブの男は、美咲のステータスを覗くと高橋のステータスを見た時と同じくらいの驚きを見せた。


「ステータスオールS!それに武術を極めし者が持つエクストラスキル<武神>!」


「あまり近付かないでくれる?唾が付くから」


 ローブの男は興奮のあまり唾を飛ばしながら美咲に近付いてしまったことで罵倒を受けてしまう。


 可哀s、いや可哀想じゃないな。


 落ち着いたローブの男は、最後に俺のステータスを確認する。


 明らかに落胆した様子を見せ、俺に告げる。


「あなたのステータスは凡人以下ですね。器用さと知力が見えませんが、それを加味しても他オールF。他の勇者様と同じ領域には到底……」


 そう言われた後、俺はローブの男に哀れみを含んだ目を向けられた。


 どうやら俺のステータスは凡人らしい。


 別に良いのではないだろうか。もとより俺は魔王討伐などに参加せず、途中で抜け出して異世界を満喫しようと思っていた。


 折角、実家から逃れられたんだ。それなら自分の人生を謳歌するしかないだろう。


 今後の人生について考えていると煩わしい声が俺の元まで届いた。


「がり勉野郎は精々、俺たちの足を引っ張らないようにな」


「……」


「何か言えよ!」


「いや、悪い。ボーっとしてた」


「ちっ」


 俺は適当にはぐらかしたが、どうやら佐藤はお気に召さなかったらしい。


 その後、何を思ったのか佐藤は美咲へと話かけた。


「美咲。そんな奴じゃなくて俺たちに付いてこい」


「遠慮しとくわ。それと気安く名前で呼ばないでもらえるかしら?」


 美咲に断られた佐藤は悔しそうに顔を顰め高橋たちの所へと戻って行った。


 その後、メイド長と呼ばれた初老の女性に各自部屋へと案内された。


 個室となっているらしく美しい容姿をしたメイドと執事をそれぞれあてがわれた。


 もしかすると勇者が間違いを起こすことを期待し、情でこの国に縛る腹積もりなのだろうか。


 仮に情で縛ってこようとしてきた場合、魔法で縛り付けることはできないと思っていいかもしれない。


 そんなことを思いつつ、美咲と別れ部屋へと入った。その時「気を付けなさいよ」と言われたが、それはお返した。


 部屋に入った途端、メイドがこちらへと近付いてきたが俺は拒否し部屋を追い出して鍵を閉め眠りについた。


 

















 

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