第5話 アンブッシュ
「じゃあ、順を追って説明してくれる~? オーバー」
09部隊とサヤは廃家の中に留まっていた。キシューは部屋の中にあったボロボロの椅子を窓際にまで持っていき、それに腰掛けると割れたガラスと窓枠の間から外の風景に目を凝らしていた。カイとトサは床に腰を下ろし、上半身は壁に預けていた。少し体を動かすと古びた木材の軋む音が鳴った。シバとサヤは食卓の側にあった薄汚れた椅子にそれぞれ座っていた。
シバは無線連絡を行い、ボスに報告を行っていた。
「巫女の生き残りであるVIPを護衛しつつ、禁足地に到達。VIPの協力によって周辺の幻術を解除した後、ターゲットを破壊します」
「ん~、場所さえ分かれば、航空支援でいけるけど?」
「VIPの話だと禁足地には高レベルの幻術が掛けられているようです。なのでまずはそれを解かないといけません」
「そっか~、解呪するにも近づかないとね~」
「はい、なので我々が禁足地まで行くしかありません。その後はアローによる爆撃も可能かとは思いますが」
「おっけ~。航空支援も少く済めば良いんだけどね~。うち、予算カツカツだから」
「心中お察しします」
「ありがとね~。じゃあ、引き続きよろしく~。ファーマー、アウト」
シバは無線を切る。暗い廃家の中に涼しげな風が入り、同時に家の軋む音が小さく響く。一瞬の間、サヤは目線をキョロキョロさせると、その目はシバの背負う無反動砲を捉えた。
「それで祠を壊すの?」
サヤが指を差す。シバは一瞬自分の背負っている砲に目をやると、ストラップ部分の位置を直しながら首を横に振った。
「いえ、祠は航空支援で破壊します。要は飛行機からの爆撃ですね。背中のやつはお守りみたいなものです」
「そいつ、いつも携行式の無反動砲を持っててな」
トサはそう言いながら手振りでサヤに合図する。
「お守り? じゃあ使わないの?」
サヤが聞く。
「いえ、そういうわけでは。もしもの時は使いますが」
「ああ、前に違法ゴーレムを吹き飛ばしてたよな。それで」
トサの言葉にシバは頷いた。
「爆撃がダメだったらどうするの?」
サヤはカイとトサを交互に見ながら言った。
「保険として強力な爆弾をトサが持っているので、もしもの時はそれを使います」
サヤの目線がトサに移る。
「すごい爆弾なの?」
「いや、違うな」
「え?」
「ヘキソーゲンを主成分として各種カムイトルエトロ類を配合。爆薬の安定性も抜群で安全に取り扱える。ちょっとした隠し味も入れて舐めたらチョコミント味がするし、対霊焼滅能力も抜群。つまりオリジナルブレンドの”特別にスゴい”爆弾だ」
サヤはシバに目線を向ける。シバは苦笑いで返した。
「サヤって言ったね。祠の破壊方法がそんなに気になる?」
キシューが聞くとサヤの表情が少し険しくなる。
「当たり前でしょ。こっちは故郷を荒らされてるんだから必死。よそ者には分からないだろうけど……」
少しの沈黙。たまらずトサが口を開く。
「まぁ、安心しなって。空爆に強力な設置型爆弾、さらにお守りとして無反動砲。保険はバッチリ。何ならもっと詳しく――」
「やめときな。これだからマニアは……」
キシューは外の風景から目を戻し、小さく吐き捨てた。トサの眉間にしわが寄る。
「なんだよ! 良いだろ。それに――」
隣に座っていたカイが制止する。トサの肩に手を置くと小さく首を横に振った。
「何も知らん奴に爆弾の説明をしたら、ああいう反応になる」
「でも02部隊の奴らにはウケてたぞ」
「あの変態共を基準にするな」
「トサは人とのコミュニケーションが苦手なのです。お許し下さい、VIP」
シックルはウォッチャーのボディで廃家の外の壁に張り付き、窓越しにサヤに話かけた。サヤは初めて見るクモ型のロボットに驚き、その様子を察したシバが口を開く。
「彼はシックルと言って支援AIです。大丈夫、僕達の味方です」
サヤの表情には不信感が若干残っていたが、何とか状況を飲み込んでいることをシバは読み取った。その最中でもシックルの機械音声は止まらなかった。
「いいですか、VIP。あの男の言うことは聞き流して下さい。気遣いが出来ず、人の心が分からない哀れな個体なのです」
シックルはブリーチング用とは別の緑色のレーザーをトサの胸元に照射した。
「それに私へのセクハラも! ああ、なんて恐ろしい」
トサが返す。
「気遣いができないのはお前もだろう。ポンコツめ!」
「自分が気遣いができないのは認めるのか……」
カイがボヤくとトサはバツが悪そうに周りを見渡した。シックルだけはお構い無しだった。
「失礼な! 私ほど空気が読める支援システムもありません。今もまさにそうです。あなた達がご歓談している最中にも私は健気に見張りと偵察の行い、向かってくる敵も見つけたというのに――」
「はいはいどうも……待て、今なんて?」
トサの表情が変わる。
「ですから、見張りと偵察をしてたら敵を見つけて――」
「そういうのは早く言え!」
「今、言いました」
トサの言葉を皮切りに09部隊の面々に緊張が走る。廃家内の空気感が一気に変わり、サヤとシックル以外の四人はきびきびと動く。
「シックル、敵の発見はいつですか?」
シバはアサルトライフルの安全装置を外した。
「約15秒前、方位280、230メートル先に20名確認」
トサは残弾確認を行うと、窓の外にいるシックルに目線をやった。
「まったく、お前の気遣いは刺激的だな!」
「システムへの称賛を検知」
「皮肉に決まってんだろ!」
「キシュー、そっから何か見えるか?」
カイの問いにキシューは黙って首を横に振る。
「まずは僕が出ます。サヤさんはここで待機して下さい。何があっても外へ出ないで。身を屈めて、頭を低くしてください。シックル、VIPを任せます。何かあれば無線で連絡を」
サヤは緊迫した状況から言葉も出ず、目を見開いたまま首素早く縦に振った。シックルは「了解」と返事をすると、壁を這って割れた窓から廃家内に潜り込む。
09部隊の4人は出入り口のドアの前に集まる。シバが目配せをすると他の三人は頷いた。
最初にシバがドアをゆっくり開け、その隙間から外を確認する。草木の合間にわずかな違和感を探す。しかし何もない。徐々にドアを押し広げて見渡す範囲を大きく取る。外へ身を乗り出すと銃を構えながら素早く周りを見回し、廃家の壁を背に膝を付いた。
小さく「クリア」の言葉が聞こえると、廃家内の三人は、シバに続いて外へ出る。
「カイは正面を。キシューは南西の岩場へ、あそこは少し高くなっています。僕とトサで間を埋めます」
09部隊は廃家を後にすると横へ広がるように展開し、位置に付く。それぞれが岩場や立ち木、草花と地面の窪みに身を潜めた。お互いの距離は離れており、自然物の隠蔽もあって辛うじて視認できる程度であった。無線が入り、それぞれが「スタンバイ」と一言、報告を入れる。
それからは、静かだった。聞こえるのは風とそれに揺れる枝葉と草花、わずかながら鳥の鳴き声。日差しも優しく木々を照らし、地面には生き生きとした木漏れ日が舞う。だが09部隊にとってそれはノイズだった。美しい風景の中から敵を見つけ出さねばいけなかった。
数十秒の後、無線が入る。キシューの声だった。
「敵を視認。約10名」
「シックル、報告と合わねぇぞ」
カイの言葉にシックルが返事をする。
「二手に分かれています。第1陣はこちらへ接近。第2陣はそこから南方、方位190へ移動。木の密度が高く、第2陣はアローからは現在追跡不可」
小さな足音が09部隊の耳に入る。草花を踏み、落ちた枝を折る規則的な歩みがわずかに聞こえ、確実に近づく。しかしその姿はまだ見えていなかった。
シバが無線を入れる。
「キシュー。敵の武器は見えますか?」
「ほとんどは近接武器、ただ3人は銃を所持してる。ショットガンが2人、ボルトアクション式のライフルが1人」
「了解。キルゾーンに入るまで引き寄せます。カイとトサは敵が視認できたら報告」
2人は「了解」と小さく返事した。
10秒ほど待つと、シバの目線の先、木々の隙間から村人たちがぞろぞろと現れる。その内の2人にシバは見覚えがあった。それはここに辿り着く途中で自分がナイフで刺殺し、キシューが撃ち殺した2人だった。よく見ると服や顔には乾いた血が付いたままだった。
「敵部隊の先頭、僕とキシューで殺した村人がいます。思ったより蘇生が早い」
カイとトサが無線に答えた。
「敵を視認。あちゃー、起きた後に増援呼ばれたか」
「こっちも敵を視認。こいつら殺したら、さっさと離れちまったほうが良いな」
後続の村人も視界に入る。シバはアサルトライフルの位置を少し直し、先頭で歩く村人の胸元に照準を合わせると無線を入れた。
「各員、狙え。スリーカウントで射撃開始。……3、2、1」
乾いた音が静寂を切り裂く。わずかな閃光が弾丸の到来を告げ、村人の肉と骨に食い込んだ。勘の良い物はとっさに木の後ろに隠れるか、地面に伏せる。それでも数人が倒れ、銃撃が止むことはない。
「あそだ!」
一人の村人がそう叫ぶと手に持っていたショットガンを乱発する。それに続いて他の者も撃った。銃を持っていない者は与えられた神の恵みと自分の勇気を信じて木々の中を走り、突撃する。銃弾に倒れず、自分の獲物がよそ者の頭をかち割ることを信じていた。
カイは冷静に村人の配置を読むと、銃口を左から右に流した。軽機関銃の絶え間ない銃撃が林と村人を薙ぎ払う。それになんとか飲まれず向かってくる村人をトサがアサルトライフルで狙い撃った。
「リロード!」
トサの合図、それと同時に村人が放った弾丸がカイの近くへ着弾し、土が舞い上がる。
「ショットガン、2時方向、来てるぞ!」
カイの言葉と同時にトサが目標を見据える。弾を入れ終え、「レディ!」と叫ぶと撃った。3発の弾丸が胸と腹部に入り、村人は手に持つショットガンと共に地面に倒れ込んだ。しかしそれは束の間で、血まみれの体で再び立ち上がると銃を手に取った。
「くそったれ」
カイは悪態を付きながら体をよじらせ、照準を合わせる。さらに多くの弾丸がショットガン持ちの村人を引き裂くともう一度、死体へ戻した。
シバは数人撃ち殺すと陰から身を乗り出し、視界を広く取る。カイやトサ、そして自分が倒した者たちが再び草木の中から起き上がる姿が目に入る。
「キリがねぇぞ!」
「胸と頭を狙ってください」
シバは普段よりも時間を掛けて狙いをつけると起き上がった村人の頭を撃ち抜く。それに追従するようにキシューの弾丸が胸部をえぐる。彼女の狙撃ライフルが消音器特有の銃声が小気味よく鳴る。
キシューはスコープ越しに起き上がる村人を見ると素早くその胸に2発放ち、倒れたところで頭を狙って再度2発放った。最中、シックルからの無線が入る。
「ハウンズ、アローより確認。敵の第2陣が左側面から接近」
シバはとっさにキシューを見ると大声で叫んだ。
「キシュー! 9時方向から敵」
キシューが狙撃ライフルを構え直すと身を隠していた岩場の反対側からぬっと人影が出る。それは素早くキシューの元に辿り着くと、大きく手斧を振りかぶった。
「死ね! よそ者」
キシューは素早く後ろに飛び退き、岩場から土の上に背中から落ちた。仰向けのまま狙撃ライフルを構えると相手の胸に3発撃ち込んだ。
さらに横から2人の村人が走ってくる。キシューは太もものホルスターからハンドガンを取り出して撃つ。周りに脅威が無くなった一瞬の隙をついて起き上がるとハンドガンをしまい、狙撃ライフルの弾倉を入れ替えた。
シバはキシューの側に駆け寄ると背を向け、お互いの死角をカバーする。再び生き返って走り寄る村人を撃ち殺すと無線を入れた。
「ハウンズ各員、後退します! シックル、ルート設定を」
「方位80へ移動し、そのまま雑木林を抜けて下さい」
「了解! シックル、ウォッチャーの誘導でVIPを先に退避。ハウンズ各員、後退しつつ制圧射撃」
09部隊の射撃がより一層激しさを増す。村人たちが何度も死んでは起き上がり、もう一度死ぬ。その中には損傷が激しく、すぐに蘇生しない者もまばらに出てきた。
後退の最中、林の奥から1つの弾丸が飛ぶ。それは螺旋運動をしながら接近し、シバの体へ当たった。衝撃が重くかかり、鈍痛と共に骨が軋む。息が止まり、足の感覚が無くなる
シバが倒れ込む姿がキシューの視界に入った。すかさず、シバの対角線上に目をやるとライフルを構えた村人を奥に発見した。キシューは素早く膝をついて、狙撃ライフルを構える。大きく息を吸い、焦点をスコープに移すと目を大きく開いて息を止めた。
村人は銃のボルトを引いて戻す。装弾を終えて構え直すとわずかな時間で狙いをつけて撃った。キシューは自分の頭の左上に弾丸が通るのを感じた。それでも体はビクつかず、照準はブレず、トリガーを引き絞る。放たれた弾丸はライフルを持った村人の頭部右上の頭蓋骨と脳を大きく削り取った。
キシューは駆け寄ると銃を置いて、シバの着ているタクティカルベストの内側に手を突っ込む。いくらまさぐっても、”温かな濡れ”を自分の手に感じないことにキシューは安堵した。シバは何回か咳き込むと大きく深呼吸する。
「大丈夫です、キシュー。防弾プレートで止まりました」
「良かったよ。ほら立ちな!」
キシューはシバの脇を抱えて起き上がらせる。二人は再び銃を構え直した。
「おい! 平気か?」
カイとトサが合流する。シバは手を上げて合図すると二人は頷いた。
すでに村人のほとんどが死んでおり、09部隊に立ち向かってくる者はいなかった。
「今のうちに逃げるぞ。ほっといたら、また生き返るからな」
トサはメガネを直すと銃を構え、周りを見渡す。その指摘の通り、すでに何人かの死体はもぞもぞと動いていた。
「急ぎましょう!」
シバが号令をかけ、09部隊全員が走り出そうとした瞬間、倒れていた数人の村人がまた起き上がる。しかし血まみれの体からは赤褐色の触手が無数に生えており、バランスを崩しながらも09部隊を狩ろうと駆け寄る。
「ああー! ホヨ様がぁ、私達を強く抱きしめてくれるぅー」
村人たちが叫び、向かってくる。全員笑顔だった。
「くそったれ! 何なんだあれ!」
カイは機関銃を構えて撃つ。何発もの鉛玉が変異した村人の体に衝突するが、さきほどと違ってまるで怯まず、歩みを止めない。
林の奥からさらに数人の増援が来る。
「やっと見つけたぁー!」
増援の先頭に立っていたのはあの金髪の村人だった。
「退却です! 走って」
シバは射撃を止めさせると、背を向けて全力で走った。他の三人も続く。
09部隊は林の中を騒音を立てて駆ける。時折、振り向いて銃弾をばら撒くが数発当たったところで村人は止まらなかった。何人もの変異した村人が突き出た触手をくねらせながら追いかける。そこに金髪の村人も混じっていた。
「シックル!」
シバが走りながら叫ぶ。
「アローからあなた達を見ています。その方向で走り続けて下さい。ウォッチャーがVIPと共に待機中」
「変異した村人多数に追われています。このままではVIPと合流できません。ルートの再計算を!」
「了解。再計算中……」
シバは振り向くとアサルトライフルを撃つ。その脇を部隊員の三人が走り抜けるのを確認すると、再度走り出した。
「シックルからハウンズへ。後退ルートを再設定、方位30度へ真っ直ぐ移動してください」
先行して走っていたカイが走る速度を抑え、方位磁石を取り出す。それから大きな声で「あっちだ!」と手振りをすると、部隊全員が統率のとれた魚群のように進行方向を変えた。
シックルからの無線が入る。
「ハウンズ。林を抜けて野原に出てもそのまま走り続けて下さい。駐留しているハンマーによる支援を行います」
09部隊は速度を緩めず走り続ける。目線の先、木々の数は急速に少なくなっていき、やがて開けた場所に出る。雑木林の中よりも鋭い日光が目に突き刺さり、わずかな地面の段差にみんな転びそうになるが何とか体制を立て直す。
部隊の4人は走り続け、林と野原の境界線から距離を十分に取った。その後、追ってきた村人たちの集団がぞろぞろと木々の間から這い出てくる。血まみれの体と触手を日差しがよりハッキリと照らした。続けざまに金髪の村人も野原に躍り出ると大声で叫んだ。
「俺はなぁーあれからホヨ様に強く抱きしめてもらったんだ! 銃が何だ、お前らなんかもう怖くねぇ。ぶっ殺して、捧げて、俺が一番になる!」
カイが負けじと叫ぶ。
「ビッグマウスも大概にしろ、田舎ヤンキー! 10年後に思い返して恥ずかしくなるのが目に見えてるぞ!」
トサが続けて叫ぶ。
「そうだそうだ! あとその金髪、似合ってねぇぞー!」
村人たちのいる場所から「うるせぇ!」と聞こえた。
「キシュー、お前も何か言っとくか?」
トサが促すがキシューは顔色一つ変えず、銃を構えるとスコープ越しに金髪の村人を狙い、1発だけ撃った。
向こうから「いてぇ!」と声が聞こえるとキシューはトサに目をやる。
「バカは殺すに限る」
トサは「お前も大概だよな……」と小さく呟くと、哀れみを含んだ表情を見せた。
村人と09部隊の束の間の睨み合いの中、無線が入る。
「シックルからハウンズへ。目標を補足、攻撃を開始。回避行動を推奨」
「伏せて!」
シバが叫ぶと全員が草花の上に伏せた。
09部隊の北北西にある木々が生い茂る小山の中腹、その枝葉の隙間に閃光が走る。山々に響く轟音と共に村人たちのいる林と野原の境界線で爆発が起き、火柱が上がってはオレンジの光を放つ。次に熱波と衝撃波が周りを押し退けた。
空中に舞った村人たち、あるいはその欠片が不快な音を立てながら地面に落ちる。それでもまだ数十人は生きていたが、眼の前の光景に恐れ慄いていた。しかし慈悲は無く、轟音は止まない。2回3回と爆発が起き、悲鳴が上がる。6発目を撃つ頃には、村人はいなくなっていた。逃げたか肉片になったかのどちらかだった。
辺りを煙と焦げ臭さが取り囲む。09部隊の眼前には燃える木々と所々えぐられた黒い地面が広がっていた。
09部隊はその後、ウォッチャーとサヤに合流した。サヤに爆発音について聞かれたが、カイが「どデカい打ち上げ花火さ。方向は下だったが」と言うと他3人が静かに頷いた。
一行はそのまま移動し、森の中へ入った。しばらく歩いて禁足地まであと数キロメートルのところまで来たが、もう日が落ちかけており、美しい夕日の赤々とした光が山を照らしていた。そんな最中、古びた山小屋が立っている場所を見つけた。明かりは付いておらず、さきほどいた廃家と同じく荒れ果てているのが遠目からでも分かった。
「今日はあそこで野営しましょう」
シバが山小屋を指し示す。近くまで来ると09部隊の面々は銃を構え、小屋の周辺を見て回る。その最中、山小屋の中から物音が聞こえ、それは09部隊の耳にかすかに届いた。カイは無言のままハンドサインで山小屋を指し示すと他の3人は頷く。
カイは出入り口のドアノブに手を掛ける。数秒待って、勢いよく開け放った。
眼の前には男がおり、手に持った角材を唸り声を上げながら振り下ろした。カイはとっさに銃身を前に出して打撃を防ぐ。男は勢いあまって前方に倒れ、それにつられてカイも背中から転倒した。
「くそったれ!」
カイは悪態を付くとそのまま体をひねり、自分に覆いかぶさっていた男を地面に押さえつけた。カイは馬乗りになると銃口をその男の顔に向ける。シバたちは急いでカイの元へ駆け寄る。組み伏せられた男は焦った様子だった。
「待て! 待ってくれ! アンタたち誰だ!?」
「そっちこそ誰だ!?」
カイが怒鳴る。
「誰ってこの村のもんだ! 住民に決まってるだろ」
09部隊はお互いに顔を見合わせた。今まで出会った村人と明らかに様子が違っていた。あの異様な殺意は目の前にいる男からは感じられなかった。
シバは人の気配を感じ、小屋の出入り口に目をやる。よく見ると小屋の中にも人がいた。ある者はすみっこに縮こまり、ある者は頼りなく金槌や角材などを構える。みんな恐怖の表情を浮かべていた。
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