イチゴの風味と美味い生地
ぼくは
「あー、うん。そうだね。それならアンケートをもらわなかったのは出席番号順で管理したかったんじゃないかな? 例えば中途半端に番号十九番をもらっても後で差し込むのは面倒だよね」
「いいえ、それは違います」
話の途中、杜さんはそれだけを言って静かに季節のフルーツジュースを飲み始めた。
「違います」
「……」
どうやらそれ以上のことを言うつもりはないらしい。
未だ根に持っているのかぼくに対して敬語なのも気になるけど、言うつもりがないならその先は考える他ないだろう。
ぼくは手元のアンケート用紙に目を落とす。
……あ、そっか。
「これはアンケートか。名前はおろか出席番号の記入欄もないんだね」
「その通りです」
こくりと頷く。
「だから番号順にアンケートを管理していたとは考えられません」
なるほどね。杜さん、未だ先生を悪く言ったのを根に持ってるのね。
ぼくはさもさり気なしに季節のチュロスを頂戴する。
「それなら回収が来週の月曜日っていうのに意味がありそうだね」
考えながら言う。
「日本史の授業は月曜の今日と、明日の火曜と、金曜日……。来週の月曜って何かイベントでもあったかな?」
「いいえ」
杜さんはふるふると頭を振った。
「ありません」
「そっか。じゃあ、曜日自体にはなんの意味もなさそうだね」
言いながらチュロスを
……おや? このチュロス、ぼくが思っていたほど甘くない。それに良い感じに鼻から抜けるイチゴの風味ともっちりサクサクな生地が絶妙に相まって美味しいじゃないか。若干指に赤いイチゴのパウダーらしきものが付くけど、味自体は変にくどくないし結構美味しいかも……。
「あ。だけどね広瀬くん」
ふと、思い出したかのように杜さんが言ってきた。いつの間にか敬語は終わっている。
「今週の金曜日だったらあるの。先生の会議が。それで午前授業だから午後の日本史はなくなるはず。あ、それとその会議には若林先生も参加するみたい。会議のついでに私物の回収もするって話だし」
へえ。産休の先生までお呼びして会議とは、かなり重要そうだ。何を話し合うかまでは興味ないけど午前授業で帰れるのは嬉しい限りだ。
まあ、それはさて置き。
つまるところその先生は特別月曜にこだわりはなく、金曜日に授業がないからその結果として、その次に授業のある月曜の回収を考えている……と、そう推理するのが妥当だろう。
明日回収するにはまだ早く、来週の月曜だと良い頃合い。
「……」
ぼくは指に付いたパウダーを拭いて、今一度アンケートを見た。
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