双閃のシュプレンドル【前編】京都弁バージョン

一条蒼

第1章 第1話 夢から夢

高層ビルがよおさん建ってます大阪淀屋橋(おおさか・よどやばし)の街に、おカルはんはなんでかわかりまへんけど巨大な山羊のモンスターとして立ってはったんどすわ。




視線を上げたら、頭上には冷たいビル群が果てしのー続いとって、ほんでそのガラス窓に自分の異様な姿が映っとったんどす。




尖った角、黒い毛並み、野生の獣のような筋肉……「なんで僕、山羊になっとんや?」とおカルはんは混乱してはる。




そしたら、突然目の前に現れたんは、きらびやかな衣装に身を包んだ一人の魔法少女やったんどす。


光をまとって、頭には天使の輪っか、背中には白い翼、そんで輝く瞳でおカルはんを睨みつけるその魔法少女はんは、容赦なく魔法の杖を振りかざしはって、怒涛の攻撃を仕掛けてくるんどす。




「ちょ、ちょっと待て!何も悪いことしてへんのに、なんで僕が!」とおカルはんは叫びはりましてんけどね、魔法少女は聞く耳を持ってくれませんでしてん。


何が理由かもわからへんまんま、おカルはんはただひたすらに逃げ惑ったんどす。




魔法少女はんに追いかけられ攻撃されてはるおカルはんは、夢ん中やのに、体感として痛みを感じ始めたみたいどす。






自分の筋肉がやばいぐらい引き裂かれる感覚が、夢やのになんでこんなリアルなんやろう?






逃げ切れずついに追い詰められて、力尽きたとこで魔法少女の最後の一撃を受けるおカルはん。






そんで、倒れ込んだおカルはんのねきには、同じように傷ついた仲間の牛モンスターが横たわっとったんどす。




途方に暮れたまま、おカルはんはその牛はんの顔に視線を合わせ、思わずキスしてしもーたんどす。




「いや、なんでキスする相手が魔法少女やのおて牛の方やねんな……」とおカルはんは内心でツッコんだんどすけど、そん時、ふーんわりと青空に包まれる感覚がしたんどす。




透き通るような、どこか幼い子供の声が遠くから聞こえてくる。




「君は一人やない。誰も一人なんかやないんや」




遠くから響いてくるその声は、まーるで誰かがカルはん、いやおカルはんだけやのおて「みなさま」のことを呼んでいるかのようやったんどす。

せやけど、その意味をおカルはんが知るのはずーっと先のことになります➚。






その言葉に包まれるようにして、おカルはんは悪夢から目を覚ましはったんどす。








はじめての恋人との別れを経験し、ただでさえ重たい気分を抱えてはったおカルはんに、さらに追い打ちをかけるような出来事が続いていてましてん。




彼女はんに「さよなら」と告げた日ぃのことは、今でも鮮明に思い出せるみたいどす。


あの時感じた孤独と虚しさが、まるで染み付くようにおカルはんの心の中に残ってるみたいどすな。




毎日が重たくて、何してはっても心が晴れへん。






せやけど、それだけでは終わらんかったみたいどすわ。




彼女はんと別れた後も、しがみつくように働き続けたブラックな職場の工場が、今月で倒産するという知らせがおカルはんに届いたんどす。




おカルはんは、深い失意とともに職を失うことになりましてん。


人生の落とし穴にずるずると落ちていくような感覚――そこから抜け出す術も見えへんまんま、おカルはんはただ日々をやり過ごすしかなかったみたいどすなあ。




どうしても前に進む気にはなれへんかった






そんなおカルはんの日々は、だんだんと悪夢に侵されるようになってしもうたんどす。



心の不安が形を成したかのように、毎晩毎晩、奇妙な夢を見るようになったみたいどすわ。




「特にさっきの夢はひどかった、、、」おカルはんはそない呟きはりました。




夢にしては、やけに鮮明で現実感があった。




でも、なんでかわかりまへんけど記憶が曖昧で、どんなに思い返してもぼんやりとしか浮かへんみたいどす。




目ぇが覚めたおカルはんは、呆然としながら夢の内容を思い返してはりました。


「キスする相手が魔法少女じゃなくて牛の方かよ……」とそないな事を呟き、自己嫌悪に襲われる。




魔法少女との対決、訳も分からへんうちに理不尽に襲われる自分……それだけやなくて、意味不明なキスシーンまで夢に出てくるとは。


自分がどこに向かおうとしとんのか、おカルはんにはまるで見えへん気分やった。




「いっそモンスターになって何もかも壊したい気分やわ……」




ふと、今日は「メイク講習」を受ける予定やったことを思い出す。


「せや、少しでもかわいなって、自分を変えようとしとったんやったな。さっきの夢に出てきた魔法少女みたいになれたらええなあ」

気を取り直し、おカルはんは意を決して難波(なんば)に向かう準備を始めたんでした。






「いっそ女の子になれば、、、可愛い女の子になれば誰かが僕を愛してくれるんとちゃうかな」




そんな安直な期待とともに。




彼の中でくすぶる不安と夢の余韻を振り払うように――








「メイク研究会の講習を受けることで、自分を変えんねん」と決意を胸に抱き、場所を調べて向かう。




少しでもかわいなれれば、心が晴れるかもしれへん。


男であるボクが女っぽい外見になれば人から愛されるかもしれへん。




でも調べた住所にある難波(なんば)のレジャービルの一室のドアを開けてたどり着いたその場所は、予想もしーひんかった光景が広がっていたんどす。




そのレジャービルの一室のドアをあけたとき一瞬、空間が歪むような感覚がしたんどす。

頭がふーんわりとしたまんま、僕はドアを開けとった。










そこは薄暗い、まるで洞窟の中のような土壁の廊下やった。周囲は不思議なオーラに包まれている。




一応教室だとか作業所という文字の部屋はいくつかあるけどそれらの部屋の中には、見たこともない魔法陣や奇妙な機械が並んでて、空気は異様な緊張感で満ちとった。


「ここ……どこ!?」思わず呟いてまう。




普通のメイク講習の雰囲気は微塵もない。


周囲には魔導士の姿をした人々が行き交い、何やら真剣な面持ちで会話を交わしとった。




「君、何もんや?」突然、後ろから重厚な足音が近づくのを感じた。


振り向くと、黒いローブを纏った数人の魔導士たちがこちらを見てる。


彼らの視線には警戒心が漂ってて、何かを察知したような表情をしとった。


僕はただの失業者で、魔導士に興味があったわけちゃうのに……。




混乱した頭の中で、彼らの言葉が一つ一つ理解できていく。ここは魔導士たちの聖域……らしい。


そんな場所に、普通の人間が簡単に入ってしまうなんて、ありえへん。


てかそもそも魔導士なんておんの?また夢!?








「えっと……メイクの講習を受けに来たんですけど……」言葉が喉に詰まる。


なんでここにおるんか説明する間もなく、彼らは僕を取り囲み、身柄を拘束していった。




「スパイか!?」


驚愕の声が上がる。




まるで悪党に捕まったヒーローのような気分やった。




そん時、部屋の奥から一人の赤毛の女性?かイケメンな男性なのかよく分からへん、けど綺麗な人が現れた。また、外人とも日本人ともつかへん顔立ちの彼女(彼?)は威厳を漂わせた姿で、ゆっくりとこちらに歩み寄る。




「止めろ、その子を解放しろ。」その声には不思議な力が宿っとった。




周囲の魔導士たちも彼女の言葉に従うように、一瞬硬直した。




「きみ、名前は?」赤毛の女性(男?)、その魔導士が聞いた。

彼女の眼差しは鋭く、僕の内心を見透かすかのようや。




「カ、カルです……。普通の人間です。メイクの講習会があるって聞いて予約して来たんですけど……難波のレジャービルのドアを開けたらここにいたんですわ」

震える声で答えると、彼女はふっと微笑んだ。




その笑顔には何か、安心感と同時に不思議な魅力があった。


「普通ちゃうな、君の魔力は強い。


どこのドアを開けたのかは知らんけど、ここは大阪府箕面(みのお)市の地下に隠された魔法施設。


その様子やと偶々ここの座標にアクセスしてしまったみたいやね。


そんな事例は聞いたことあれへんけど、あり得ないとも言われへんな。


もし偶然ここにたどり着いてしまったんやったらキミには魔導士の才能があるってことなのかもしれへんな」




その魔導士の言葉に、僕の心臓が高鳴った。




「私はイェシカ。カル君。魔導士としての訓練を受けてみーひんか?ここにたまたま来てしもた理由を君ですら知らんねんやろけど、それはおそらく君自身の中に答えがある。それを知るためにも。」




その瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。




職を失い、彼女とも別れた後、まさか異世界のような場所で新たな道を与えられるとは思ってもみーひんかった。








僕は今、自分の人生を変えるチャンスを目の前にしてるんや。




想定してたメイク講習会とは全くちゃうけど、、、それでもええわ




「はい、頑張ります!」心の奥底から湧き上がる希望に満ちた声が出た。




イェシカは優しく微笑み、僕の背を押してくれる。




イェシカが微笑んだ瞬間、カルはなぜかその場の空気が変わった気いがした。


彼女(彼?)の笑顔にはどこか不思議な力が宿っているようで、その瞳に見つめられると、普段なら感じないような安心感が胸の中に広がる




イェシカは中性的な姿をしとったけど、その声はどこか渋くて、毅然とした印象を与える。




魔導士の存在など都市伝説の一つだと信じていた僕が、目の前にいる彼女の存在に目を疑った。


イェシカの声はまるで、魔法のように僕の心に直接響いてくる。




新たな人生が始まろうとしている。

失業した20代の男が、今度は魔導士としての修行を受けるため、箕面(みのお)市の地下で新たな冒険の扉を開くことになるとは、思いもせーへんかった。




「君のような才能が、この連盟には必要やな。」彼女の言葉に、僕は心が躍るのを感じた。




イェシカは周りにいた他の魔導士(?)たちに言った。


「この子は私が訓練する。Bランク以上の魔導士には適合者認定を与える権限があるはずやからそれを使わせてもらうわ。」と




これまでの苦しみが、今や新たな希望へと変わろうとしとる。カルとしての人生が、魔導士としての未来に繋がる瞬間やった。

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