デフォルト⇔デフォルメ、曖昧な恋模様

まとめなな

デフォルト⇔デフォルメ、曖昧な恋模様

> ――絶対ありえない。そう思っていた。

> クラスメイトの北条サクラが、とあるオンラインゲームの世界で「姫騎士サク姫」と呼ばれる人物だったなんて。何より、俺自身もゲーム内では自称“最強の武者”として暴れ回る「エンペラー義経」として派手な言葉を操っている。リアルの俺はただの地味男子、彼女は大人しく清楚な地味女子。お互い“デフォルト”ではほとんど喋ったことすらない。

> だが、ゲームの中では“デフォルメ”された姿で息ぴったりのコンビ。その事実に気づいた瞬間、俺たちの世界が一気に激変した。


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### 【一】インパクトのある朝の再会


 ある朝、教室で北条サクラが俺の机の近くで教科書を整理していた。昨夜はオンラインゲームで一緒に高難易度ボスを討伐したばかりだというのに、リアルではほぼ会話なし。

 「……お、おはよう」

 思わず声をかけると、サクラはちらりとこちらを見て微笑む。

 「……おはよう、ございます」

 頬がわずかに赤い。やはりあの“サク姫”なのか? しかしリアルのサクラは地味めで控えめ。ギャップに思考が追いつかない。

 サクラはすぐに「じゃあ、私、席に戻るね」と呟き、離れていった。俺も気まずくなり、それ以上声を掛けられなかった。微妙な距離感こそ、これからの物語のプロローグになろうとは。


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### 【二】オンラインでの栄光とリアルの地味さ


 放課後、制服のまま家に戻り、PCを立ち上げる。舞台はファンタジー世界のMMORPG。俺のキャラ「エンペラー義経」は武者姿に豪華な鎧をまとい、仲間から「皇帝!」と持ち上げられる派手キャラだ。

 一方、北条サクラのアバター「サク姫」は白銀の甲冑に赤いマント。リアルの彼女とはかけ離れたカリスマぶりでギルドを仕切るリーダー役。

 「まさか、あれがサクラとは……」

 とはいえ、リアルの俺も地味なのに、ゲーム内では味方を引き連れ大暴れしている。


 昔から物語好きの俺は、現実で言えないことをキャラを通して表現するのが楽しみだった。サクラも同じように、現実とは正反対の姿をオンラインに投影しているのだろう。


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### 【三】ギルドチャットでの事件


 ログインすると、ギルドチャットが騒がしい。

 **メンバーA**「お、皇帝来た!」

 **メンバーB**「サク姫も同時にイン! 今日もよろしく!」

 **サク姫**「そろそろ氷城のゴーレム退治に行くわよ」

 俺も挨拶がてらチャットに入るが、サク姫に個別で話しかける勇気は出ない。リアルで気まずかったぶん、どう切り出していいか分からないのだ。

 結局、その日は全員でクエストに突入し、雑談もほどほどに終わってしまった。


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### 【四】「私たち、クラスメイトだよね?」


 数日後、放課後の廊下ですれ違ったサクラが突然声をかけてきた。周囲に人影が少ないのを確認すると、俺の腕を引っ張り、空き教室へ。

 「もしかして……エンペラー義経、だよね? 違ったらごめん」

 「うん……そう。気づいてたんだろ?」

 サクラは視線を揺らしながら頷く。

 「ゲームと現実は別と思ってたけど、やっぱり気になるよね……」

 「嫌だったら言って。リアルと混ぜられるの嫌かもと思って」

 「嫌ってほどじゃないけど、戸惑う。ゲームだといっぱい喋れるのに、こっちではどう話していいか……」

 確かに、オンラインでは“デフォルメ”された自分同士で盛り上がるが、現実での会話はほぼゼロ。ギャップに自分たちも混乱している。


 その後、サクラはノートを取り出し、「今夜のギルドイベントの作戦メモをまとめた」と差し出してきた。想像以上に緻密なマップやモンスターの情報が記されている。

 「よかったら放課後、一緒に作戦を考えたくて……でも、門限が厳しいから外で会えないし」

 「そっか。じゃあ、ゲーム内でプライベートチャットしよう」

 サクラは微笑んで「ありがとう」と小さく頭を下げる。すぐ目の前にいる“サク姫”の素顔に、俺は不思議な高揚感を覚えていた。


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### 【五】オンライン会議とリアルの意識


 夜、ゲーム内のギルド本拠地で合流すると、サク姫は個室マップへ誘導してくれた。そこで二人きりのチャットを始める。

 **サク姫**「火竜ミニボスは氷攻撃持ちだから、装備を厳重にしないとね」

 **エンペラー義経**「確かに。属性が逆転してる変わり種だしな」

 こんなふうに話していると自然体になれるのが不思議だ。


 しばらくして、サク姫が音声チャットに切り替え、一瞬ためらいがちな声を出す。

 「ねえ、私たち、リアルじゃ地味同士なのに、ネットではこんなに派手に振る舞ってる。二重生活みたいで変かな……」

 「でも、誰だってオンラインなら本音が言いやすい部分はあるよ。完全にウソじゃなくて、一面なんじゃない?」

 サクラは小さく笑って「そっか……ありがとう」とつぶやく。その声を聞くだけで、なぜか俺の胸が熱くなる。


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### 【六】曖昧な現実の接点


 翌日。クラスでサクラと挨拶を交わすと、周囲のクラスメイトが「え、あの二人って仲良かったっけ?」とざわつく。ちょっとした注目を浴びるのは苦手だが、サクラも廊下で友人から茶化されて真っ赤になっている。

 オンラインでは饒舌でも、リアルでは不器用。そんな二人を面白がる目もあるようだ。


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### 【七】笑いを誘う部活の助っ人劇


 週末、文化祭前の準備が進む中、演劇部の助っ人を頼まれた俺とサクラは大道具の壁セットを運ぶことに。

 「これ重いから、二人とも気をつけてねー」

 持ち上げた瞬間にバランスを崩し、「あっ……」「うわっ!」と同時に声を上げてしまう。結局、周りから「気が合ってないー!」と笑われ、サクラは「ごめん、私あんまり力なくて……」としょんぼり。

 「いやいや、むしろ俺の持ち方が悪い」とごまかす。アクシデントに動揺しつつも、なぜか二人して笑い合ってしまう。不思議と悪い気はしない。


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### 【八】迫る大型ボスイベント


 ゲーム内では大型ボスイベントが近づいていた。ボスを倒せばレア装備「銀薔薇の姫騎士甲冑」が手に入るらしい。

 サクラはどうしてもそれを手に入れたがっているが、問題は開催が夜10時から深夜1時まで。サクラの家は夜更かし禁止で、12時にはPCを切る必要がある。

 ギルドメンバー全員が作戦を練り「最短ルートでボスを呼び出し、サクラがいるうちに決着をつけよう」と提案。サクラは音声チャットで「ありがとう……!」と声を震わせる。オンラインのリーダー姿とは違う素直な弱音に、皆も燃え上がった。


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### 【九】リアルでのすれ違いと一歩踏み出す勇気


 一方、学校ではサクラが「近藤君と何かあるの?」と周囲にからかわれ、俺も「なんであの北条と?」と茶化される。お互い距離を取り気味になってしまい、雑談すら減っていく。

 「ゲームの中ではあんなに連携できるのに、リアルだとすれ違うばかり……」

 焦りと期待が入り混じったまま、イベント当日がやってくる。


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### 【十】イベント決行の夜


 夜10時。ギルドは一斉に雑魚敵を倒し、ボスを最速で出現させる。広がる魔法と剣戟の乱舞の中、サク姫が指示を出し、俺は攻撃を叩き込む。

 「盾役は前衛固定、後衛は回復頼む!」

 あっという間にボスのHPが削られ、サクラの必殺スキルが光を放つ。ギルドチャットに「ドラゴン討伐成功」の表示が流れ、サク姫が念願の甲冑を手に入れた。

 「やった……やったあ……!」

 興奮のままサク姫から個別の音声チャットが飛ぶ。

 「本当にありがとう……でも、もうすぐ0時だから落ちるね。明日、学校で……」

 通話が途切れると、俺は一瞬切なさを覚える。もっと一緒に祝福したかったのに。


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### 【十一】すれ違う想いと告白未遂


 翌朝、サクラは普段より早めに登校していた。ちらちらとこちらを見ているのに、なかなか話しかけられない様子。俺は思い切って近づく。

 「昨日はお疲れ。ボス戦すごかったな」

 「うん……みんなのおかげ。ありがとう」

 どこか言いかけては止めるような雰囲気。休み時間、自販機前で二人きりになれたとき、サクラは勇気を出したように口を開く。

 「私、姫騎士ってキャラに理想を詰め込んでたから、あれを手に入れられて本当に嬉しい。だけど、現実の私は地味で門限もあって、全然大したことなくて……」

 そこで言葉が途切れ、サクラは顔を真っ赤にする。伝えたいことがあるようだが、クラスメイトに呼ばれて会話終了。もどかしい空気だけが残る。


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### 【十二】文化祭前夜の準備と急接近


 文化祭前夜、ブース準備に追われ、トラブルで倒れかけた看板を俺が支えて何とかセーフ。二人して転ぶハプニングもあったが、むしろ一緒に苦労するのが楽しいと思える。

 皆が帰ったあとまで作業を続け、ようやく一段落。サクラは「あ、もうこんな時間……」と焦る。

 「門限あるのに大丈夫?」

 「……うん、急ぐけど。ごめんね、色々手伝わせちゃって」

 「いや、サクラがいないと成り立たないんだよ。ゲームも、こういう行事も。俺はそう思ってる」

 サクラは驚いたように目を見開き、少し笑って言った。

 「……ありがと。近藤くんはネットでも現実でも同じなんだね」


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### 【十三】文化祭当日、想定外のサプライズ


 文化祭が始まると校内は大賑わい。俺のクラスの縁日ブースもそこそこ人が来て、休憩がてら廊下を歩いていると、演劇部ステージで妙に歓声が響いている。

 「え……サクラ?」

 そこには白銀の甲冑姿で寸劇に出ているサクラが。まさに“姫騎士”そのもの。コメディ調の劇だが、ステージのライトに照らされる彼女は堂々としていて、妙にかっこいい。


 終演後、ステージ袖でサクラに声をかける。

 「すごかった。本当に姫騎士みたいだったよ」

 「や、やめて……恥ずかしい。演劇部の人に押し付けられたんだよ」

 そう照れながらも、満更でもなさそうに微笑むサクラに、ゲームの“サク姫”を重ねてしまう。


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### 【十四】曖昧な告白とこれから


 文化祭の夕方。クラスの片付けが一段落し、廊下にいたサクラを誘って渡り廊下へ。夕陽で染まる校舎が見渡せる静かな場所で、俺は覚悟を決めた。

 「オンラインの派手な自分も、普段の地味な自分も、どっちも俺だと思ってる。サクラも、姫騎士としてギルドをまとめる姿も、ここで笑ってる姿も――どっちもサクラだよな。俺は……その、両方含めて好き、なんだ」

 サクラは小さく息を飲んでから、頬を赤らめて言う。

 「私も……近藤くんのこと、同じ気持ちで見てる。ネットだけじゃなくて、リアルでも一緒にいたいって……」


 二人とも顔を真っ赤にしながら、言葉にならない思いを視線で交わす。はっきり「付き合って」と言うにはまだ照れが強いが、これが始まりだと思える。

 ――曖昧だった距離は少しだけ近づいた。デフォルトとデフォルメ、どちらの自分も認め合いながら、新しい関係がここから始まるのだ。


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#### (了)

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