第7話 魔力の使い方
「いやはや、お嬢様の成長は末恐ろしい。鍛錬を始めてまだまもないと言うのに、すでに動きに磨きがかかってきました」
「そうかな?自分ではあんまり実感してないけど……」
鍛錬を始めて二週間。
私はすっかり温厚な日本人を辞め、剣と魔法を扱う異世界の住人と化していた。
聖水が獲得できない件は、現在ばあやに頼んで対応中。続報を待つ!
なので私は、じいやとの鍛錬にひたすら精を出すことにしていた。
なお、私はまだじいやから一本も取れていない。
魔法書を読み漁り、使える魔法を全て使ってもなお、じいやは軽々と乗り越えてくる。
もしかしてこの爺さん……ゲームの時は序盤の対戦方法を教えるキャラだったから、弱点とか存在しないのか?
「? どうかなさいましたか?」
「なんでもな〜い。じいやに弱点とか無いのかなって考えただけ」
すると、師匠兼この家の執事長は顎に手を当て、辺りを何度も確認。
確認を終えて指を鳴らす——緑色の幕が私たちを覆い隠した。
なんだろう。色合いからして防御魔法の一種か何かかな?
「……お嬢様、誰にも言わないと誓っていただけますか?」
「急にどうしたの?」
「ですから、私にも当然弱点がある、ということです」
「んなっ!?」
なるほど……強者は自らの弱点を知っている、というやつだね。
となれば、これは聞くしかあるまい。
だって私は次期領主だから。決してじいやをボコボコにしたいわけじゃ無い!!
私が小さく頷くと、じいやは耳を近づけるように手招きをした。
「……私の弱点はですね、純粋な魔力による強化による暴力なのですよ」
「強化による暴力?」
じいやは頷くと、魔力で作った薄い板を一枚手のひらに乗せた。
「お嬢様は幼い頃、氷上を御当主様と歩いた記憶がありますか?」
「……部分的にある」
厳密には、前世の私なのだけど。
家族でスケートに行った際、めちゃくちゃ滑れる父に支えてもらいながら滑った記憶はある。
もっとも、じいやにはそれが伝わるはずがないのだが。
「私は戦闘中、常に魔法の上を走っています。魔法というものは便利でして、硝子〈ガラス〉よりも表面が滑る板を作り出すことも可能。分かりやすく視覚化したものが、この板というわけです」
「ほぇ〜。だから氷上を滑るように移動ができるってわけね」
「ご察しのとおりでございます」
幾千幾万の小細工をしても、たったひとつの絶大な火力には到底敵わない。
話によれば、じいやは小手先のテクニックで攻めるタイプ。
私と戦う時は常に走って窓を絞らせないし、正面から突っ込んでくる時は勝てる勝算がある時のみ。
このスケートダッシュくらいなら私にもできそうかな。練習すれば移動手段にも使えるかも。
私が頭の中でメモをしていると、緑色の幕が閉じて消滅した。
「お嬢様、私の話はお役に立てましたか?」
「うん。じいやの走り方を練習してみるよ」
「それは何よりです。いざという時はこの走り方で逃げてくださ——」
じいやが口を開け、私の後ろを指さして固まった。
振り返ると、そこには立派なツノが生えた……ように見えるばあやと時計——朝食の時間はとっくに過ぎている。
ばあやの表情はとてもニコニコとしている。ニコニコと。
「お二人とも、朝から随分と長話をされていましたね。どんな内容か気になりますわ」
「ば、ばあや!?じいや、ど、どうすれば——」
振り返ると、そこにはジジイの姿はなかった。
いつの間にか私とばあやの視線をくぐり抜け、家の中へと走っていた。
改めてみると、確かにじいやの靴底には緑色の板が貼り付けられている。
「はぁ……お嬢様を見捨てて逃げるだなんて、執事長失格ね」
ばあやはひとつため息を吐くと、右手の拳に魔力を集めて地面に叩きつけた。
凄まじい衝撃波が辺り一体を襲い、私は耐えきれずに尻餅をつく。
「ぬおぉぉっ!!」
打ちつけたお尻をさすっていると、じいやの悲鳴が少し遅れて聞こえてきた。
視線をずらすと、離れたところでじいやは地面にダイブしていた。
目を窄めてよく確認すると、さっきまで綺麗な板で覆われていたじいやの靴底がバキバキに破壊されていた。
なるほど、これが純粋な魔力の暴力か。
最期に自らの命を投げ打って教えてくれたことに対して手を合わせる。南無。
まだ死んでいないじいやに念仏を捧げていると、ばあやが懐から一冊の本を取り出した。
題名は——『聖水目録』!
「お嬢様、お探しの本が見つかりましたよ」
「本当っ!?」
ある王妃が言った。
パンがなければおやつを食べれば、と。
私は言う。
聖水がなければ作ればいいと!!
電界転生〜超高難易度のゲームの主人公に転生したので、前世よりも生きるのが大変です @namari600
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