第2話 父親と前世と屍と
食事を終え、とりあえず気持ちもひと段落した私は、じいやに連れられて父親の部屋を訪れることにした。
じいやが扉をノック。内側から『入れ』と低い声が聞こえてきた。
「失礼します」
「し、失礼します」
開かれた大きな木製の扉の向こうにいたのは、立派な赤い髭が特徴の大男。
私の父親であり、アルガルド家の現当主のウェスバー・アルガルドさんだ。
父は私を一瞥すると、書類を書く手を止めた。
「話はすでにモルドから聞いている。随分派手に倒れてそうじゃないか」
「……その節は大変申し訳なく……」
じいや——本名モルドレックが再びしゅんと小さくなってしまう。
せっかく元の状態に戻したばかりだというのに、やってくれたな父親め。
さりげなく私はじいやのズボンの裾を小さく引っ張り、父に頭を下げる。
「お父様。今回の件、じいやは全く悪くありません。避けられなかったのは私の技量不足です」
「お嬢様……」
隣で鼻を啜る音が聞こえる。歳をとると涙もろくなるとはこのことか。
私の父親は、死ななければ万事オッケーというやや偏った思考の持ち主なので、これ以上この件を責めるつもりはなさそうだ。
というか、単に空いたじいやの枠を埋められる人材がいないだけなのだが。
「リエナ。今後はより一層の努力を怠らないように。モルドは引き続き指南役を頼む。ただし、三日間は念のために絶対安静だ。少し治安も良くないしな」
「例のアンデットの件ですね」
じいやの発言に父は大きく頷いた。
魔物とアンデットは似ているようで全く違う。
父はよく寝る前に戦場の話をしてくれた。
歴戦の戦士である父が言うのだ。私がどうにかできる問題ではないのだろう。
父はカップの中の紅茶を飲み干した。
「いいか、絶対安静だからな。仮に出かける場合はモルドを必ず伴うこと。何が起きても対処できるように」
「お嬢様の命、必ずやお守り致します」
*
なんか色々と忙しそうだったので『今日は大人しく部屋で寝ています』と伝えて私は書斎を出た。
じいやもメイド達もアンデットの件で離れてしまったので、私は一人自室にほったらかし。
やることも特にないので、前世の私を振り返ることにした。
私の両親は共に会社員。あと、兄がひとり。
年齢差が五つほどあったので、特に喧嘩とかが起きるわけなく日々を過ごしていた。
オタク街道を走るようになったのは中学生の頃から。間違いなくオタク友達ができた影響だ。
高校生になっても抜け出すことはできず、アニメや漫画、ゲームに没頭する日々。
身内に私を止める者はいなかった。
兄もオタク気質だったし、父や母もそれなりに理解のある人物だった。
考えてみると、私ってこれまでに色んなゲームをやってきたなぁ……。
人生のゴールに全力ダッシュしたあの日の二週間前にも、近所の中古品店でゲームを買ったばかりだった。
あのゲームはめちゃくちゃ難しかった。何度もデータを消してやり直したよ。徹夜で。
なぜ、私はあんなゲームに時間を無為に費やしていたのだ……それが原因で遅刻したし……。
後悔先に立たずとはこのことよ。
物語の舞台は剣と魔法が存在する中世っぽい世界、その端っこにある領地。
主人公はその土地を治める領主の娘。
基本的な遊び方は領地に攻めてくる魔物を倒すだけ、なのだが、そのゲーム『Fantasy and Destiny』、通称『F a D』は少し違う。
『F a D』は何をすれば良いのかが決して指示されない。
領地内は自由に行動可能。レベルも上げ放題。道具も作り放題。領民も自由に殺せる。
ただし、自分のとった行動でその後の未来が決まる分岐点がめちゃくちゃ多い。
初めて全クリした時には主人公の父親は死んでおり、母親は植物状態。領民の八割近くも失っていた。
おまけにセーブできるタイミングは章の区切りにあるオートセーブのみ。
そのくせボスがえげつないくらいに強い。倒されたらまた章の初めからやり直し。
最初のボスは……アンデットの姫だった。
確か、領地の近くにアンデットが出没するようなるのが最初のイベント……ん?
……これ、どこかで聞いた話だ……。
『アンデットが出たみたいなんだ』
鎧男もじいやも父もメイドも言っていた。
そういえば、主人公には名前がついていたな。
実は攻略に役に立つのではないかと思って、念のために覚えておいたんだよね。
確か名前は……リエナ……リエナ・アルガルド。
「……はぁぁぁぁぁっ!?!?!?!?!?」
屍人従えし亡国の姫君
レ・ゼンテ・エスボール7世襲来まで九十日。
超難易度ゲームの主人公に転生したせいで、ボス知識が全っ然役に立たない @namari600
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。超難易度ゲームの主人公に転生したせいで、ボス知識が全っ然役に立たないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます