第3話 ゲレンデヒーロー

「せ、せーのっ」


 サクラはゲレンデに挑戦した。

 するとスキー板が坂道を少しずつスピードを上げ滑り降りる。


「うわぁ、こ、怖いです!」

「サクラさん、ストックのグリップを外れないようにしっかり握っているわね」

「す、ストックってなんですか!?」

「両手に持っている棒よ。それを使って、スムーズに降りるの」


 隣にはポプラの姿がある。

 スキーに慣れているのか、スノーボードで参戦していた。

 スキー初めてのサクラをアシストすると、一つずつ説明した。しかしサクラにはよく分からない。


「あ、あの、ポプラさん」

「なに、サクラさん」

「私、どうやって滑ってるんですか?」


 サクラはとにかく体幹だけで滑っていた。

 そのせいか上手く滑り降りることができない。

 ただ真っ直ぐ、雪の段差にぶつからないことを祈りながら、サクラは猛スピードで降る。


「サクラさん、ブレーキです。ブレーキを掛けて!」

「わ、分かんないです!」

「あっ。くっ、こうなれば」


 ポプラはサクラが自力で止まれないことを察した。

 ドンドンスピードが上がると、気が付けば先に滑り降りている筈のヒマワリとツキカに追い付く。


「ふんふふーん、ん、……速っ!」

「今のはサクラさん!?」

「おいおい、アレマズくないか?」

「マズいなんて騒ぎではありません。早く止めないと」


 ヒマワリとツキカも止めようとする。

 しかし間に合わない。

 ただ滑り降りて行く姿を見つめるしかできず、サクラは止まることもできない。


「ううっ、どうしたら……えっ?」


 サクラの視界に小さな氷の粒が浮かんだ。

 ユラユラと風に舞うと、確かな見覚えがある。

 これは魔法だ。サクラはふと視線を右に向けると、スノーボードが雪の上を凍らせて、サクラの方に走って来る。


「アレは……」


 スノーボードを巧みに操る少女。

 ゴーグル越しで顔は見えない。

 しかし間違いなくサクラの方に向かうと、氷の道が目の前にできた。


「うわぁ、ぶつかる!」

「よっと」


 サクラは深く目を瞑った。

 ぶつかると確信し、死を悟った。

 しかしサクラの体はフワリと抱かれ、不意に風と共に雪の上を走る。


「大丈夫、サクラ?」

「その声、もしかしてセッカ?」

「うん。先に滑ってたから、迎えに行けなかった」


 現れたのは魔法少女の一人、冷気を操れるセッカ。

 得意のスノボーと共にゲレンデを凍らせてしまうと、サクラのことを支えながら滑り降りる。

 その姿はまさしくゲレンデのヒーロー。

 サクラは顔が赤くなる。


「他のみんなは?」

「まだ、上の方だよ」

「そう? それじゃあ先に降りて待ってよっか」

「う、うん」


 サクラはセッカに身を委ねた。

 下手なことをしてセッカの邪魔はしない。

 氷の道で彩られたゲレンデを駆け降りると、初めてのスキーは恐怖と興奮が混じり合った。

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