四之宮さん
「教室の隅で絵を描いているタイプ」とだけ言えば、僕のことを説明するには十分だった。友達はいない。だけどひとりではなかった。
僕の視界にはいつも、全身から光を放つ「友達」がどこかに立っていて、僕を見守り、対話し、励ましてくれた。現実の友達は必要なかった。「友達」は僕のことをはじめからよく知っていて、絵を描くと上手いと褒めてくれた。だから僕は、教室の隅で絵を描いてばかりいた。
突然、僕は四之宮さんに声をかけられた。
「ねえ、美術部に興味とかない?」
四之宮さんは美術部だった。背が高く、堂々とした雰囲気の持ち主だった。僕は顔を上げようとしたが、四之宮さんの側で「友達」がチカチカと鋭い光を放っていて、それがまぶしくてまぶしくて、目を伏せながら喋ることになった。
「あ、いや……」
「もし気になったら言ってね」
そう言って彼女は、軽やかに身体をスライドさせて、後ろの席の別のクラスメイトにも同じことを言っていた。なんだ、と思ったが、それ以上に、喜びが大きかった。
そんな日だった。僕が、さっき述べたような「友達」の意外な姿を目撃したのは。
膝を曲げて座り込み、じっとその辺の空気でも見つめているかのような、物憂げな佇まい。ぞっとしたと同時に、何か気まずい気持ちに襲われた。
僕は思わずさっと身を隠し、やがて引き返して、別の道から家に帰った。そのときに僕は、自分の人生は自分の力で動かそうと、静かに決めた。別れを決意したのだった。
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