第5話 メイド喫茶
新しい建物が並んでいる。
十字KEYで進んでいるゲーム画面感覚。
LR、LR、清潔に掃除、日照権、建蔽率、
駅前は選挙公示期間中に多くの候補者等が演説をする。嘘だらけのマニフェストよりも、ちょっとした気配りや愛想が門外漢の心には触れる。
バスターミナル、高級ブティックやカラオケボックス、眼鏡店、布団屋、呉服屋。
居酒屋やファーストフード、消費者金融。道路上の巨木、オフィス・ビルの林立。
シーグラム・ビルの都市の祭典。秩序と境界の喪失。落下防止用の高いフェンス、緑化推進の屋上、この街の生命線のような電線。
富の発生とは、欠損と回復というシステムが、稼働したときにおこっていたのではないかという仮説がある。
パチンコ屋、英会話教室。毎日ポイント出してるだけで十分なくせに特別感出すのやめろ、クレイジーなドラッグストア。
おそらく、街を、見ているのだろう。一軒一軒の店を、眼に焼きつけるようにして見ている。道路標識、区画線、斜路、防護柵、それから立体横断施設。進行方向カメラで線を轢いたように進む舗装道路・・。
軌跡―――軌条・・・スムースな体重移動・・・。
ホログラフが
[
その、バスロータリーを歩きながら、美しい眺めが照らし出されている。眼や耳や鼻やそして咽喉の中に、視線が迷い込んでしまう。
魅せられ、心を動かされ、気が付くと街の表情、街の雰囲気を追っている自分に気付く。そしてこの全景は、記憶の中に入りこんで動いて―――ゆく・・。
相対化や体験の裏付け、知識、教訓、影響下にあるもの、極度なる羞恥感、自意識の過重、阿諛や追従、履歴書の下書き、それなりに優雅に着こなしてきた外面的人格、街路樹の茂みからこぼれる陽が、誰もいない歩道に光の斑点を作っている。道の脇の排水溝には落ち葉と、ボールペンぐらいの枝が、少し溜まっている。
「何処行くんだよ?」
「着いてからのお楽しみ」
―――そして
―――ふふふ、ハハハハハ、お
*
自分の笑い声からつい、夢野久作の『ドグラ・マグラ』の笑い声をつい考えてしまう。何かあの時代の見える形の笑い声の破壊力というのは、たとえば手塚治虫の漫画の笑い声のように、不思議なほど、神経にくるものが、ある。
関係がない。そうだ、まったくもって関係がない。
世界があんまりにも遠いから、もしかして鼓膜破れたんじゃないかって、何となく思った。メイド
おいしくな~れ、という一種魔法少女みたいな掛け声が聞こえたり、
もしかしたら、
「兄想いで毎日健気に頑張っちゃう、ちょっとドジで、エッチな妹メイドだけどよろしくにゃ~っつ・・・」
あ゛ァァァあああ〜〜〜〜〜っつ、ば、ば~かっ(?)
メドウゥサの首だか、サロメの首だかになった気がする。
しかし、完全に何も問題なく生きてる人なんて、案外いない。こういう非日常的な場所で、英気を養ったりするというのも何となく理解できた。
だが、ぼったくりバーなどとは違い、良心的であるらしい。入店と同時に、お帰りなさいませご主人様と言っておきながら、
(帰りはいってらっしゃいませ、と言うに違いないわけだが、)
初めてでいらっしゃいますでしょうかと聞かれた、
(覚えてねえのかよ、は、オラオラです、)
ご主人様のふりしたダミー人形と化しながら、そうですと答えると途端サスペンスドラマのような構図を考えるが、初めての人にと簡単な説明のチラシをもらった。
そこに書かれてある情報が真実かどうかを今現在推し測る術はないが、最小予算(入場料+ソフトドリンク)で千五百円程度で、食事やサービスも充分に満喫するなら三千円程度が目安らしい。
何だか一万円あれば、ディズニーランドで
メニューはアニメ系要素をふんだんに取り入れて明るい感じで、
(詳細は不明で、もしかしたら器が特殊だったりするかも知れない“エターナルフォースブリザードかき氷”とか、写真にモザイクをかけているがかろうじてビックサイズなのはわかる“生きるのつらぽよメンタルオワタ丼”とかがある、)
―――まあ、それだって、超高級ホテルの法外なレストラン価格ということはなかったし、曜日によって割引にしたり、SNSやインスタ映えを意識してか商品価格のまま据え置きで大盛りにしたりするサービスもあるらしい。ああいうのって女の子の可愛いとかゴージャスに極振りしたような、かの昔の見栄張るところの中国的文化だけど、太い客、常連客だけではなく、色んな客に来て欲しいと考えなければやっぱり難しい時代だ。イメージはやっぱり大切なんだろうな、と思った。
また喫茶店というだけあり、ケーキや、ドリンクも相当数の種類があり、オムライスしかないのだと勝手に思っていたが、ピザやパスタにハンバーグ、シーザーサラダ、チョコパフェなども注文できる。こうなると、たんなるメイドの格好をしている従業員がいるだけの、ファミレスといっても過言ではないんじゃないだろう―――か。
もちろんケチャップで絵を描くオムライスに、手で作るハートに、件の魔法呪文、チェキに、メイドとの簡単なゲーム対戦などで、たんなるファミレスの時給よりはるかに高給だとは思われるので、そんなの絶対に言えるわけはないのだが、この際、そう思うことにしよ―――う・・。
何事も、イメージである、逃げ出したい気持ちを抑える効果がある(?)
ただ小さな文字で、『ガブリエルでは、時折奇声や、叫び声が聞こえますが、心臓の悪いお客様は耳栓をして下さいね、おけぽよ』とか書いている(?)
説明書のように一切の良心的解釈を拒絶してい―――る、一文。
レーザーの正式名称はライト・アンプリフィケーション・バイ・スティミュレイテッド・エミッション オブ・ラジエーション・・・・・・。
―――
「それは破滅と再生の、
スクラップ・アーム・ヘッド・クラッシュ(?)」
―――
一言で言うと……湿度が高い。片眼がほとんど黒髪で隠れていて、出している方の眼は、隈がすごい。そして、腕は何故か左腕だけ包帯でグルグル巻き。首の側面からうなじにかけて、ヴィジュアル系バンドのロゴがタトゥーとして大きく刻印されている。地雷系というか、中二病設定なのか、そしてそれはもうカオスなん―――だ。
踏み入れてはいけないところへ、片足どころか両足入れてしまった。人間というのは、よくわからないものに踏み込んでしまうと恐怖を感じるものだ。
はぁ? 何だこの低音響かせているadoみたいな、
エネルギッシュな音は!?
こほこほ―――こほん、しかし、何事も社会勉強―――だ。
支払いは『お会計』ではなく『寄付(または寄付金)』や『給仕料』
説明のチラシによれば本格的なパティシェも働いているらしい。店員さんの可愛らしい女の子文字で、クリスマスケーキが美味しいのはこの店だけですよ~っつ、とか書いてあった。頭がバグりそうだったが、慣れるより他ない。
ただやっぱり小さな文字で、『うちのもっとも美味しいのはデスメタルケーキです、一度は注文してね、ハバネロに、からしに、わさびに、他企業秘密の特別なスパイスをたっぷり配合し、三日寝ていない人の眠気が吹っ飛ぶような苦味と辛みとえぐみの地雷系ケーキだぴょん。食べられなかったら口の中から舌引っこ抜いてケツの穴に突っ込んでやるから覚悟しておけよ、なのです(⋈◍>◡<◍)。✧♡』
―――
読んでいるだけで、胃袋がブラックホールに繋がっていなければ完食できないぞ。あと、コンセプトがハードで、ディープすぎるが、キャラ統一しよ、そこ(?)
ひっくり返した岩の裏側みたいなテンションで乗り切るしか―――ない(?)
「あの日・・・わたしは片腕を失った戦士で・・・、
あなたは、戦場に舞い降りた、デスメタル・カノン(?)」
―――やっぱり、
何か聞こえてはいけないものが、聞こえた。
お手洗いの長い
心細いのら、一人にしないで欲しかったうさぎ死ぬから。タイトルはこうだ、元大学四年生のぼっちは人生やり直しても情緒不安定に陥りがち(?)
ちょ、酔ってんのか、大きな声出して、神輿担いでんのか、
脳内にはチップが埋められてんの、洗脳なの、
マインドコントロールなの、何かの宗教か、
死ねばいいのにメイド喫茶的ラビュリントス(?)
ほんの刹那のスローモーションじゃな―――い?
ほろ苦いドラマティックなシガレットが、マーダー。
そう鮮明に始まるサインじゃな―――い?
いまはセンシティヴなコップの中で、
ミルクとコーヒーが混ぜられてゆく、ボーダー。
「(
椅子に座ると、一見どこにでもありそうな喫茶店だと思う。漆喰の壁に木材を基調にした造りだが、壁にメイド喫茶のルールだったり、アニメのポスターだったりがあったりすると、なるほどなあ、と思ったりする。
従業員の中には高給なのでポーズというのもあるかも知れないけど、ガチのアニメオタクの人がノリノリでやっているのかも知れない。
不意に、売れてるホストのファッションセンスは完璧に狂っているという話を思い出した。口は悪いけど、小林幸子、宝塚歌劇団、パリコレ、オス孔雀だ。
そういう時は、ローランドと言うしかな―――い。
瞬きを繰り返しながら逆走する青春、そこは、ローランドだった。
『メイド喫茶』と言いながら、
ここ、『ローランド空間』なんだよな。
またメイド達が歌ったりするサービスでもあるのか、カラオケ機とひな壇のようなものまであった。そしてそこに―――そこにである、猫耳のカチューシャつけて、メイド服を着、ふわもこミトンの手袋をし、薔薇を一本手にやって来た
俺の心境は、安室奈美恵のツアーファイナルに壁に聴診器当てて、参戦するファンのような―――もの・・。
來果が働いているとは知らなかったが、いきなりマイクを握って曲が流れ出して歌い始めるのには恐れ入った。あろうことか、簡単な振り付けのようなものもこなされていた。店員がする分にはよかったのだが、さっきまで話していた來果がするものだから、一種の共感性羞恥状態になったが、來果が選んだのはバラードで、つややかで繊細で巧みな節回しをしながら、聞き手を優しく包み込むような美しい声で、満ちてくる潮のように、まるいは引いていく潮のように一心に歌っていた。
ボカロの歌い手の方がプロの歌手よりも上手いという洗脳現象を信じたくなったが、結局上手いというのは一般人にとって“いい声”かどうかに過ぎず、“音程を外さない”ぐらいのものだ。後は別にルックスよければ何一つ変わらない(?)
何だったらコピー大国、集客主義になりつつあるこの世界では、ファンを獲得する能力、自己の売り出し方をきちんと出来るにすぎないビジネス型がたんに席巻しているにすぎない。アーティストではない、ビジネスマンだ(?)
そういう中でも、一部の人は滅茶苦茶上手いなと思う。それでいいのかとは思うけれど、もう何か一つの才能だけではやっていけなくてもっとマルチなものを求められるクソッタレの時代なのかも知れない。
だからというわけではないけど、純粋に歌が上手いな、声が高くて気持ちいいなと思ったのは、その時が初めてだった。もしかしたらこうやって身近に歌を聴く機会がなかったからかも知れない。まるで眼に見えるように空気を縫って、この世で一番いい薫りのようにたちのぼる歌声。掠れも、甘さも、正確な音程も、そしてどこか儚い震えを一本の筋のように秘めていた。カナリアをイメージしながら、そよ風のような歌声・・湧き出る泉、花の薫りや、蜜の気配・・・。
[自由に動き回る状態]から、
[決まった位置に落ち着く状態]へ。
CD出していたら、買うな、と思った。残念だったのはそれが來果だったので、どうしても、自分の中で贔屓目で評価しているような気がするのだ。
でも、いいものはいい。自分がいいと思ったものは、あらゆる意味で正しい。
五分にも満たなかったと思うが、酒でも飲んでいるみたいに酔ったような気がする。まるでアメリカ人みたいに立ち上がって拍手をしたのも、本当に感動したからだ。
め、を、と、じ、て、る、よ―――。
め、を、と、じ、な、が、ら―――。
ここは―――【
そして來果はスタスタと俺の前にまで歩いてきて、
「ご主人様、ご注文はお決まりですか?」と仰られた。
突然くるくるとおどりはじめ、
もえもえじゃんけん、もえもえじゃんけん、するのかな、とか言ってくる。中身がない、空っぽになりたい、無心だ、いやブッダだ、キリストだ、マハラジャだ、知らない間にそんな剣呑なバトルフェーズまで進んでいる。
しかしこの境地にいたるまでには、さぞかし修行されたのだろう。
來果よ、免許皆伝を授ける(?)
「(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)」という顔になれない俺を許してくれ。完全に永久凍土、氷河期真っ盛りの表情―――は、経験不足を恥じるしかない。
そんな葛藤を余所に、來果は耳元に口を寄せて、
「
そんなの知らないと言いかけて・・・。
ん―――んん、あれ、ちょっと待てよ・・。
「―――
「―――そしてその前にいる、ヘアバンドした、フレンチ袖のシャツ、ワイドパンツをし、さらにお約束としてリュックサック、ぐるぐるメガネをかけ、携帯音楽プレーヤーのイヤホン片耳する人、誰~れだっ・・」
「來果さん、あれはもしかして?」
「―――そう、東谷恭介君。実は二人、ああやって、来るんだよね」
「え~と、話し掛けても―――いいのかな・・・」
「
―――
―――まったく
「わたしがちょっと話してくるから、これからは三人で来店してくるといいよ。サービスするよ。だってこの店、わたしの
ここ、
そう言っていかにも怪しげな二人のクラスメイトの元へ行き、ごにょごにょ喋ると、二人はすっくと立ちあがり、こちらの席まで歩いてきて、
「
―――
―――あまりにも
「あ、一応ここでは素性はなしで」と、佐藤淳が言った。
ちなみに、さっきまで來果と接している時は、メイドザァァン、ヌアンデスガァァァ、とか言っていた。中々堂に入った妖怪ボイスだった。プロの変装は性格設定、服装のチョイスまで付いてくるのかも知れない。
爽やかイケメンの意外な特技といったところだが、どうして恋人がいなかったのか、何となく理解できるような気がした。隠していたわけではないにせよ、アニメ好きだから、こういう場へと自然足を運んだのかも知れない。
ちなみに隣の東谷恭介も、コレハメンゴイメイドダワァァァ、とか言っていた。もちろんそれが木ノ内來果であることを理解しつつ、あえてその単語を選んでくるパワープレイ。はっちゃけていた。社会的死以前に、もう何かがぶっ壊れていた。
塀の上でバランスをとりながら歩くには上出来だ、と思う。
患者どこだああああああ・・・!
いたああああああ・・・!
心臓マッサージいいいいいいい!
死ぬなアアアアアア、
担架に乗せろおおおおおおお(?)
「別に、深谷君が、学校で喋ったりとかってことじゃなくてだべ」と東谷恭介が言った。
「大丈夫だよ、男の
たとえばそれはアニメだったり、BL好きのホモではない男子みたいなものかも知れない。性的マイノリティとか、特殊な性癖とは違う。
もっと軽くて薄められたものだけれど、時に、アイデンティティになるところのもの。それが、秘密基地だ。男の隠れ家ともいうかも知れない。
そう言うと、二人はテーブルに投げ出した俺の手の上に、手を重ねた。言葉はいらなかった。それは確実に、
(・・・・・・円盤に吸い込まれてしまいそうな昼だなあ)
(・・・・・・牛ですか?)
(・・・・・・愛の言葉さ)
(・・・・・・ボーヤだからさ)
ほくとひゃくれつけんうおおおお、とか言いたいような気がした。
「でも、彼女に迷惑かからないようにしよう、その、二人は付き合ってるのかも知れないけど」と、佐藤淳が言った。
「あ、別に、付き合っているわけじゃないんだ」と俺は言う。
「まあどっちにしたって、いいよ、なあ、
と、佐藤淳が東谷恭介の肩を叩く。
「天使を見守るのも―――
どうも、二人の認識ではそういうものらしかった。彼女が俺の友達作りの弊害になるどころか、むしろ、友達作りをアシストする要素らしい。
「でも彼女、プロだからさ、俺とか恭介っちは同じ中学だし、まあ、知ってたけど、学校では眼鏡かけて、髪下ろして、根暗キャラ演じて、ずっとおどおどした声で喋ってた。多分、変な眼で見られるのがすごく嫌だったんだと思うな」
木ノ内來果の多彩な表情、と俺は思った。
本当の彼女は何処にいるんだろうと思った。そして二人は知らないわけだが、高校三年生の自殺にはどのような理由があるんだろうと改めて思った。
けれど、いまは佐藤淳のそういう優しい声に同調しておくべきなのだろう。接客業とは不特定多数のお客様もとい人間を、右から左へさばいていく仕事。
UFOキャッチャーみたいな來果の動き。携帯ショップなんかでは不具合があると言って、Hな画像を見せる馬鹿野郎もいると聞く。質問の意図をまったく理解してくれず、十何回聞き返す人もいると聞く。トイレに入りたいからといって、トイレに鍵がかかっている、とミステリーサークル状態する人もいると言う。
SNSの誹謗中傷とか、サービスと銘打っているのに無断撮影とか、個人情報やプライベートに関する質問、場合によってはストーカーなどもあるかも知れない。
世の中の常識を疑ってかかれみたいな仕事―――だ・・。
「そうだな、彼女はプロだ。
いますごく
*
ところで、イギリスの天文学者ハレーといえば、彗星の名前またその予言で有名な彼だが、一九三六年に死亡率を算出した。
それにより生死の統計の研究が生まれ、生命保険業が生まれた・・・・・・。
意外な事実というのは、世の中にはそんな風に沢山ある。
俺達は結局、チョコレートパフェと珈琲を三人分頼んだ。
來果に言うと、ビックサイズの八百円と、ミニサイズの四百円がありどちらにするかと聞かれたが、もちろん男は八百円の方だった。
それは階段の上から紙飛行機を飛ばすように、永遠に空想的な恋。
カチャカチャカチャ、とお盆でどぎついものが運ばれてきた。おい、とキャラ崩壊した淳が俺の袖を引っ張り、やっぱりキャラ崩壊した俊介っちが、これは駄目だべ、と言った。そして俺は來果に不敵に、
「正露丸は用意してるんだろうな」
と言って滅茶苦茶笑われてやった。もっと説明を入れれば、臭いを抑えた『セイロガン糖衣A』などの止瀉薬に加え、乳酸菌とジメチルポリシロキサン入りの整腸薬である、『ラッパ整腸薬BF』などがある。
でも女子の食べ物と思われがちなチョコレートパフェを注文してみたいと思っている男子は多いのではないだろう―――か。
グラスの一番下にシリアルがちりばめられ、コクのありそうなバニラ、輪切りのバナナに、ホイップクリーム、このグラスはさながらビーカーの中で混淆されてゆく、異なる化学変化で、子供のおやつに対する願望を実現したかのようなフォルム。
しかし、その欠けてもなお成立するという、その歪曲や省略や誇張そのものの中に、
歴史があり、観念がある。チョコソース、チョコアイス、そしてアーモンドクランチ、ウェハースが伝説の髪形『昇天ペガサスMIX盛り』のように・・。
「当店のチョコレートパフェはジャンボメニューだから食べ応えあるよ」
と、來果はメイドさんとしてではなく、あくまでも一人のクラスメイトとして言った。何だか店内とバックヤードの仮面の付け替えみたいだなと思う。さっきメイドとして働く上で気を遣っていることはあるんですかと一応他人のふりして聞いたら、メイド服を可愛く着こなすためにヘアアレンジができるように練習したりとか、やっぱり写真のキメ顔と加工アプリ、と際どいことをサラッと答えてくれる。
確かに、みんな色んな髪形をしている。ツインハーフとか、初めて聞いた。
キメ顔なんてするのも恥ずかしいけどそういうのも求められる、こうすれば可愛い角度とか、ここだったら大丈夫みたいなポイントもあるのかも知れない。そしてそういうのにプラスアルファするのが、加工アプリなんだろうな、と思った。
というような―――休憩時間(?)
何でこんなものを注文したのか今更ながら疑問に思えてきた。それは呪われたバベルの塔であった。食べても食べても一向になくならないさまは、悪魔の童謡曲と呼ばれる『ふしぎなポケット』だ。
(ちなみに、ふしぎなビスケットと覚えてる人もいる。ちなみに、俺だ)
割れる割れないかのギリギリのところに針をおしあてている、緊張の一瞬をいまかいまかと待つ風船と知りながら、一心不乱にゾンビと化しながら、口へと運び続ける。
新しい生命、そしてET、エイリアンが食い破るまでの軌跡。
それは
「くうーっ・・・チョコレートパフェとはこんなに恐ろしい食べ物だったのか・・(?)」
「久嗣君、それ違うと思う」と來果が普通に言った。
淳と恭介っちも苦戦を強いられていた。とはいえ、どうも、俺達はそんなに甘い物が好きではないのかも知れない。さっきのチラシには、某店員がこれを三個ぐらい食べたと書いてあったからだ。それは北海道の人間が主食アイスで、一日十個ぐらい普通に食べるといっているような都市伝説である気がした。
でなければ、ギャル曽根である。
ところで下痢について説明すると、
1、激しい腸の蠕動運動
(腸の通過が早すぎて、水分調節ができない)
2、腸から体内に素早く水分吸収できない
3、腸が出す水分の分泌が多すぎる
何でいきなりそんな説明というが、三人とも完食はしたがお腹を壊し、とりたてて俺は何度も、それこそ何度も、トイレへしつこいぐらいに何度も行き、來果に笑われた。このような時、ピーゴロロないしはギュルウゥーン、が始まるわけだ。ちなみに正露丸は三十分ほどで効き始めるので多分今更飲んでも、中々効いてこないような印象があるはずだ。
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