エピピポロローグ2
爆走を続けた三人は、港に出た。
目の前には、一艘の船。
その船尾で、長身の男性が「こっちだ。早く来い!!すぐ出るぞ!なんであいつら追ってくるんだ?!」と、手を伸ばし、叫んでいる。
「レオン!!」レーシーは、その長身の男性に向かって叫んだ。
ルークは、レーシーを抱きかかえたままスピードを上げ、船に飛び乗った。
ロイドも後に続く。
船はすぐに動き出した。
騎士たちは、突然、つんのめるように追撃の手をむりやり緩める。そして何もなかったかのように動きを止めた。
「え?」戸惑いながら、脅えながら、彼らから目を離せないレーシー。
レオンと呼ばれる長身男性が、彼女の横に立ち騎士たちを指して、ニヤリと笑った。
「ギルドの連中、あいつら騙しやがったな。」
次いで、カンカンカンカーーン!と何か金属を打ち鳴らすような音を合図に、騎士たちは一列に並ぶ。
兜を脱ぎ捨て、船に向かってぶんぶんっぶんぶんっと、笑顔で手を振り始めた。
彼らの顔にはもちろん見覚えがあった。
「みんな!」レーシーはたまらず叫んだ。
「リチャード先生、少しスピード落としてくれませんか?」
レオンは、キャビンで船の操縦をしている男性に声をかける。
男性は、笑顔で頷いた。
ゆっくりと離れていく岸壁を四人で見つめる。
「僕たちが無事に船に乗れるように、ここまで守ってくれたんですね。」
みんな!!ありがとう!と、ロイドが彼らに手を振り返しながら、言った。
ルークは、「あ、あいつらも来たぞ。ヤバい。泣きそうだ。」と、言って岸壁に向かって走ってくる子どもたちを指す。腰に手を置き、上を向いて涙を堪えた。
必死で走ってきた子どもたちの後ろには、さらに見知った者達の笑顔が並んだ。
ご婦人たちは、満面の笑みでフライパンやお玉を掲げている。
岸壁に着いた面々が、口々に叫び始める。
「レーシーねえちゃーん。頑張ってねー。大好きーー!」
「ルーク、しっかりやるんだよ!」
「ロイドー。もふもふー。」
「レオン、みんなを頼んだよ!」
「お前ら、風邪ひくなよー」
「ちゃんと、飯食えよー。」
「ねえちゃーん、寂しいよー。」
「また、遊びたーい。いっぱい遊んでー」
「お貴族ごっこと勇者ごっこーーーー」
レーシーは、彼らのひとこと、ひとことに、丁寧に声を張り上げ答える。
ありがとう。頑張る。みんな大好き。帰ったら遊ぼう。待ってて。頑張る。と。
レーシーの瞳から涙が溢れる。止めどなく溢れる涙を、遠慮なくぼろぼろとこぼしながら彼女は、目の前の家族全員に手を振り続けた。
レオン、ルーク、ロイドも声を張り上げ、別れを惜しむ。
徐々に船のスピードが上がってきた。
レーシーは、だんだんと小さくなっていく街並みを、スレッドブルグを、彼らが見えなくなるまで目を離さずに、その光景をしっかりと目に焼き付けた。
キンと冷えた海風が、姿勢を正す。
最後の涙を拭い終えたレーシーは、レース糸で編まれたネックレスを首から外した。
ネックレスには小さな袋を結わえてある。その袋を両手で包み込んで囁きかけるように、小さく呟いた。
「シンシアさん、すぐに助けに行くから。」
「どうか無事でいて。」静かにそして、切に願った。
春日ようにやさしく微笑んでくるシンシアを思い浮かべ、彼女との温かな思い出を振り返る。
そして、「よしっ」と気合を入れて、前を向いた。
キャビンの操縦席に集まっているルークらの元へ向かおうと歩みを進めた、その瞬間。
ぴすっ。ぽっ。ぴっ。
「「「「「「????!!!」」」」」」
全員一斉に後ろを振り返る。
ぴすっ。ガサッ。ガンっ。「いてっ。はっ。やば。」
「「「「テッド!!!!」」」」
一斉に叫んだ。
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