エピピポロローグ1
さて、今日は12月24日。クリスマスのイブである。
え?この物語の世界観?問題ない。クリスマスは、ある。そういう事である。
しかも、ホワイトになる。断言しよう。
そんなホワイトで、素敵な予感のする宵闇を、切り裂くように。
バーーーーーン!パンパンパン!パン!耳をつんざくような破裂音が島中に鳴り響いた。
女の子が、悲鳴を上げながら突っ込んでくる。
「ぎゃー!!!なんでー?!追いかけてくるーー!!聞いてないよ?
ルーク!これ本気?演技?みんな本気なの?イッッヤーーー!!」
後ろを何度も振り返り、大声で叫びながら、髪を振り乱し全速力で走っている。
背後に聳え立つ王城から、転がる様に飛び出してきた女の子は、爆速で爆走する。
女の子を追っているのは、騎士。騎士。騎士。
鎧でフル装備した彼らが、足音という地響きを鳴らして、迫る。迫りくる。
逃げまくっている彼女は、淡いブルーに上品な金色の刺繡が施されたドレスを着ている。
その繊細でほわほわとしたスカートを必死で捲し上げ、なりふり構わず逃走を続ける。
「大丈夫だって、多分味方?楽勝楽勝。それにしても、舞踏会でのレーシーのヒドインっぷり、最高だったよ。クククッ。」と、女の子の前を走っていた青年が笑顔で振り向き、爽やかに答えた。
女の子のドレスと同じ淡いブルーで揃えた衣装を纏っている青年は、彼女のパートナーとして、王城の舞踏会に参加していた。二人そろって城から逃げ出したのである。
そして、彼らは今、城から伸びる大通りの下り坂、その一本道をひたすら駆け降りている。
必死の形相の女の子に笑いかける青年は、余裕たっぷりに、まるで走っていないかのように息が整っている。
逃げ続ける女の子に、「ほら、レーシー、手。繋いで。」と、手を差し伸べた。
そして、走る。走る。止まらない。
青年の表情は、明るい。吹っ切れた底抜けの笑顔である。
しんしんと降り始めた雪が地面を覆う。「積もってきたな。」青年はつぶやく。
「レーシーの靴だとやばいな。このままだと絶対転ぶな。うん。やるしかないよな。やりたかったし。」
レーシーの腕をぐいっと引き寄せ、ぶわんっと抱き上げる。
みんなの憧れ、お姫様抱っこである。
青年は、彼女を抱き寄せさらに密着した。
「はぁ〜。まじ柔らか。ふわっふわだー。レーシー。ほわっほわ。クゥー。最高だな。ふぁ~」ニヤけまくりながら、満喫する。
レーシーは、そんなやりたい放題の青年を、半目で見上げ、
「はぁー。ルーク。あなたはもう。」と呆れ顔で話しかける。
「はしゃぎ過ぎよ。これから、すぐディープブラーハに行って、マダムに会わなきゃいけないんだから。シンシアさんの行方を追うのよ。ちょっとは気を引き締めてよね。」と言って、先程から緩みっぱなしで彼女を抱き続けているルークを嗜める。
ルークは、「わかってるって、大丈夫」と、言いながら、レーシーの首筋に顔を近づけスンスンしながら、ニンマリしている。
「大体、最初の作戦は、私たちがワーデンに断罪されて、しゅんとして、大人しく、バレないように島を抜け出すんじゃなかった?
本気で怖いから、あんなに追われたら。はっ!まさか、まさかっ。刺客があの中にいるの?え?お兄さんの仕業?本気?ロイドは?生きてる?大丈夫?」と、早口で混乱し始める。
ルークの、やりたい放題にも気が回らない。
その二人の横に、眼鏡をかけた執事風の青年が脇道から現れた。
「ルーク、浮かれ過ぎだよ。」と、彼は眉尻をさげ苦笑しながら、二人に駆け寄り、共に大通りを走り始める。
「ロイド。よかった。無事だったー。」
レーシーは、ほっとした様子で、眼鏡の青年に顔を向ける。
「ありがとう。僕は、大丈夫だよ。ヤバそうな奴らは全部捕まえて、キースに渡してきたから。安心して。」
ロイドと呼ばれた男性は、レーシーに柔らかな微笑を返した。
どんだけ長い大通り?!と、突っ込みたくなる追走劇、繰り広げられた会話の数々。
やっと、彼らの目的地である港に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます