001-2 12月24日、午後8時59分。
「お酒ー! お酒が足りないぞー」
「それ、缶酎ハイ4本目な。明日仕事なんだろ。もうやめとけ」
「付き合うって言ったくせに一滴も飲んでない人に言われたくありませんー」
「俺まで飲んでつぶれたら悲惨なことになるだろうが」
「聞こえませんー」
「はぁ……」
チキンと酒を買って帰ってきたあと。
ほんとに落ち込んでるのかと不思議に思うほどの勢いでチキンを平らげた万尋は缶酎ハイをちびちび飲みだした。
飲んでは愚痴り、愚痴りは飲んでを繰り返して気づけば4本目。
全く飲めない俺よりは飲めるだろうけど、そこまで強くない万尋の顔は真っ赤。
明日の二日酔いは確実だが、止めても止まるとは思えない。
「ほら、水も飲め」
ペットボトルを差し出すけど、完全に無視して、万尋は5本目の酎ハイを開けた。
「はぁ……」
一口飲んで、大きく息を吐きだす。
「まさかクリスマスにフられるなんて思ってなかったなぁ……」
恋人とは付き合って3年近くになると言っていた。
大学時代に知り合って付き合い始めて、今年が社会人になって初めてのクリスマス。
話があるって言われてるからもしかしたらプロポーズかも、なんて、はしゃいで言ってたのは昨日のことだ。
(まさか正反対の結果になるとはな)
俺の行き場のない想いもついに正念場かと、昨日、彼女を諦める決心をしたばかりなのに。
(良いのか、悪いのか……)
数年前に自覚した幼馴染みへの想いを本人に告げるつもりはない。
長年幼馴染みとして過ごしてきた万尋にその気がないのがわかってるからだ。
気まずくなりたくないし、今の一番の相談相手という立ち位置を誰にも譲りたくない。
(だから、万尋の結婚は、こいつを諦めるいい機会だと思ったんだけどなぁ……)
目の前でぽろぽろと涙を流す彼女を見ると、まだまだ諦められそうにないと実感する。
「なんで元カノと再会なんてするの……?」
「万尋……」
「元サヤってどういうことよ……」
テーブルに突っ伏して悲し気に言う彼女を見ているとたまらなくなった。
(他の男のこと考えて泣いてるおまえなんて見たくねぇんだよ)
「万尋」
「コウくん……?」
手をぎゅっと握ると、驚いたように顔を上げる万尋。
その瞳は真っ赤に腫れている。
「……もうさ、そんな男忘れろよ」
「え?」
「おまえと一緒にいて、おまえ以外の女のこと考えてる男のことなんて、さっさと忘れろって言ってんの」
「コウくん?」
「……もう、俺にしとけよ」
「っ!」
驚きに見開かれる万尋の瞳。
(いま、俺、何を言った……?)
絶対に口にするつもりのなかった言葉を口走らなかったか?
「コウくん、今のって……」
「…………」
万尋の視線から逃げるように反対を向いて、俺は必死に言葉を探す。
「今のは……」
この際だ。俺も玉砕してしまうか。
「万尋、俺は……」
覚悟を決めて万尋へと視線を戻す。
「ずっと、万尋を…………って、おまえ、このタイミングで寝るなよ……」
一瞬、視線を逸らしたそのタイミングで万尋は寝落ちたらしい。
またテーブルに突っ伏して、今度は静かな寝息を立てている。
(俺の覚悟は一体……)
消化不良の気持ちを抱えながら、俺は万尋を抱き上げてベッドへ運んだ。
起きる気配ゼロの万尋に何をしてもムダ。
それはこれまでの経験でよく知っている。
近くのソファに体を横たえて、俺は悶々しながら、眠りが訪れるのを待った。
結局、その夜は一睡もできなかったけど。
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