第21話 1973年4.29国士館vs朝高、新宿決戦大抗争事件 その11

山手線ホームを池袋方面に全力で走るサカン連合15名。

それを怒号を響かせ追いかけるチョーコー勢14名。


石野は誤算だった。

チョンコーどもがここまで強く、士官大も加わった自分たちがよもや負けるだなどと想像もしていなかったのだ。

「転進」

その言葉を、石野は嫌っていた。

大日本帝国がにっくきアメ公どもから逃げる際に使用した言葉遊びであり、誰よりも大和民族として強くあろうとして生きてきた石野にとっては、精神勝利法みたいな、この言葉は非常に耐え難いものであった。

だが、石野は、大日本帝国が何故転進という言葉を使ってアメ公たちから逃げたのか・・・・・・。

今、少し理解できそうな気がした。


石野は、このままだとチョーコーに追いつかれそうになり、ホームから地下1階へ続く階段から、外へ逃げるルートを考えた。

石野のお目当ての地下1階へ続く階段を見つけ、そこへ飛び下りるかの如く駆け込んだ。

それを見た残り14名のサカン連合も、慌てて後を追う。

チョーコー勢14名も後を追おうと下り階段へ突入しようとした矢先、背後から自分たちを呼び止める、大人らしき大声が聞こえてきた。


「貴様ら待たんかぁー!」


山手線ホーム品川方面から、数十名の警官たちがチョーコー勢を大声をあげながら追いかけてきていた。


(しまった!ポリ公どもだ)


チョーコー勢は焦って、各々ホームから飛び降り、他のホームへ逃げる者もいれば、ホームから地下へ続く階段へ逃げ込む者もいた。

下階段から地下通路へ逃げ込もうとしたカクコウジはさらに驚く。


「このクズどもが、今日は逃げられんぞ!コノヤロー!」


下階段を下りた先の地下1階の通路でも、地下通路で待機していた大勢の警官が、サカン15名相手に大捕物を演じており、サカン15名と警官たちの怒号で地下通路は阿鼻叫喚。

カクコウジたちが逃げれる隙間はどこにもなかった。

自分たちをホームと地下通路から挟み撃ちしてジリジリ近づいてくる警官たちを見ながら、カクコウジはため息した。


(今日は、新宿署で1泊か~)



こうして、1973年4.29国士館vs朝高、新宿決戦は、日本警察の介入により終幕した。


双方約50名による、新宿駅山手線ホームでの死闘は、時間にして約40分にも及び。

ホームには、夥しい数のガラスの破片や、乗客たちの落とし物やゴミが散乱し、山手線内回りの電車の側面の車体はボコボコに凹んだ状態になり、車外の窓は割れ、車内の座席や手すりも無残にもボロボロになった結果、山手線は運行休止を余儀なくされた。

待合室のドアや窓も無残にも割れ、座席も破損。

ホーム上の売店も、乱闘の影響で品物はほとんど店頭から消え、店の壁もいくつか穴が開いていた。

周辺の店は、この乱闘のとばっちりを恐れ、軒並みシャッターを閉めた。

チョーコー側は、3名の重傷者。

士官高と士官大のサカン連合側は、5名の重軽症者を出し。

双方の乱闘に巻き込まれた、70代のおばあさん等一般乗客3名が重軽症を負った。


だが、この乱闘はこの日だけでは終わらない。


チョーコー側は、新宿でのサカン達による襲撃の報復を計画。

翌日夕方、チョーコー内で喧嘩ランキングトップ25に入る者25名(ケガ人除く)を集め、国士館のナワバリである高田馬場へ進軍したのであった。

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