君が思い出になる前に
@yuzunoka
第1話
「迷惑なんだけど。」
屋上の手摺に片足を掛けて身を乗り出そうとした私は、後方を恐る恐る振り返った。
声の主は大きな花束を右手に持っている知らない男性で、私は一瞬だけ安堵した。
(職場の誰かじゃなくて…良かった。…なんて、来るわけないか。私は嫌われてるんだし)
だけど今度は別の不安が私の
(え…誰?…鍵…かけたよね?なんでいるの?)
「…。」
これがドラマとか漫画なら、(これから飛び降りて死ぬんだから放っといて)とかって主人公が言い放つんだろうけど、混乱と絶望感、それに不安や恐怖から声もでない。
「勘弁しろよ。まじ迷惑。」
彼からは、心配している様子も困惑している様子も感じない。
ただ静かに、怒りを瞳に宿しているように見えた。
「あ……あの…すぐ…済むんで…」
やっと絞り出した様なか細い声でそう伝えると、彼は屋上に響き渡る程の大きな溜息を吐いた。
「俺には関係ないし止める権利もない。けど、今日ここで
無愛想なのに丁寧に頭を下げ、花束を私に見せたその姿を見た私は酷く心を締め付けられた。
-あの人の彼女もここで?-
「あ…私…ごめ…なさ…」
謝罪の言葉を言い終わらないうちに私の手を引き寄せたかと思えば、彼は無表情のまま数秒間私の顔をじっと見つめ、小声で「なんでだよ」と悲しげに呟き頭をガシガシ掻いてから花束を空に向かって放り投げた。
「ねぇ。今日1日俺に時間くれない?」
「え?」
「決まりね。ほら、行こ。」
人生最後の日になるはずだった今日。私の運命の歯車は、ゆっくりと廻り始めた。
君が思い出になる前に @yuzunoka
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