第7話 施療院と魔物狩り2
今日は2回目の施療院の仕事だ。
前回同様、若葉色の神官服に着替え洗濯物が置いてある部屋へ行くが誰もいない。外を見ると井戸のところに何人も人が集まっていた。
井戸の方へ行くと、クララもいたので声をかけてみた。
「なんかあったの?」
「あっティアさん、釣瓶の支柱が折れて今日はここの井戸が使えそうもないんです」
「じゃあ今日は洗濯中止?」
「それが、今日やらないとダメみたいで、支柱を簡易的に治すとか、他の井戸から水を持ってくるとか話し合っていたんです」
なるほど、結構面倒なトラブルね。
「魔法で水を出してもいいの?」
ティアさん水魔法が使えるんですか?いいと思いますけど、班長のスサナさんに聞いてみます。
といって割と近くにいたスサナさんに話に行った。
「魔法で水が出せるって?やれるってんならかまわないけど魔法で出せる水の量なんてたかが知れてるだろ」
「やってみますね」
魔法を習ってから毎日練習していたので洗浄魔法もマスターできたし、水を出すだけなら余裕だよ。
ということで、貯水槽に向かって手を伸ばす
「水よ来たれ」
ちょっとカッコつけてみました。
ドバーっと滝のような水が貯水槽に向けて流れ出す。
「やば!」
貯水槽が大きいから全力でやっちゃったけど今はこんなに水出るようになってたんだ
と冷や汗をかきつつ上達ぶりに満足しているうちにあっという間にいっぱいになった。
「私初めて水の魔法をみました。すごいです。これなら井戸をつかったことがないのも納得です」
クララがキラキラなまなざしを向けて来る。何か勘違いをして納得しちゃったよ。
一方、周辺の人たちは絶句していた。
「あんたただもんじゃないね。何者だい」
「初級冒険者ですけど」
「あーいいたくないならかまわないよ、すまないね、詮索はしないよ」
また、何か勘違いをしているみたいだよ。
ちょうど人が集まっているので魔法絵師に書いてもらった『祈りの女性』の絵を見せて情報を求めた。
しかし、反応は芳しくない。
「見たことないねぇ」
「お貴族様を見せられても知ってるわけないでしょ」
「この町の神殿じゃあないね」
とこんな感じである。
そんな状況を見かねたのかスサナさんがアドバイスをくれた。
「ここで働いている人たちはほとんどこの町から出たことはないからよそのことは知らないんだよ。施療院の病棟にいる患者たちの方が町の外のことに詳しいんじゃないかねぇ」
少なくとも絵の人物と建物はこの町とは関係がないという反応ということか。
「病棟のほうへ行ってもいいですか?」
「洗濯が終わったら行って構わないよ」
ということで急いで洗濯を終わらせて病棟のほうへ行ってみよう。
少しうれしそうな私の顔を見てクララが申し訳なさそうな顔をして、
「水がなかったので煮沸洗浄用のお湯を沸かせていないんです。今から沸かすのでいつもより遅くなってしまいます」
「魔法でお湯を出すよ」
煮沸洗浄用の小屋へ移動し、釜に魔法で熱湯を注ぐ。
「お湯もこんなに簡単に出せるんですね」
「そういえば私が冒険者ですといったときの周りの人の反応が微妙だったんだけど
ここでは冒険者は嫌われているの?」
「ああ、冒険者は関係ないです。上流階級の子供が、悪いことをした時に罰として教会で奉仕活動をさせるっていうのが流行ってるらしくって、ときどきそういう人たちが来るんです。受け入れのルールで身分を伏せることになってるんでが接していれば平民ではないとわかるんですよ。でも直接、高い身分だということをきかされてしまうと接しづらくなるから聞かないことにしてるんです。
ティアさんって水汲みも洗濯のやり方もまったく知らなかったじゃないですか。それって平民どころか貴族でもなかなかいませんし、みんなが驚くぐらいの魔法を普通に使いましたからね。それに、見た目も全然冒険者にも見えませんから、まあそういうことなんだなって感じです」
うげ、結構特別視されてたのね。でも、この世界の常識を知らないからどうしようもない。
「本当に平民なんだけどね」
「そういうことにしておきます」
「ハハハハハ」
信じてもらえてないけどまあいいか、本当は平民と呼んでいいかわからない異世界人だし特別な力がなくもないしね。
クララが洗濯物を煮沸釜にいれている姿を見てふと気づく。そういえば、洗浄魔法で洗濯しちゃえば楽なんじゃない?
ということで洗濯を洗浄魔法でやることにする。いまなら洗浄魔法の水球を大きくできるので、一回で全部洗濯できるし、洗浄魔法は、水が布繊維に残らないので干す必要もない。そのため午前中にすべて終わらせることができた。
昼食の後、病棟のほうを見に行く。大きな部屋に簡易的なベッドが狭い間隔で並べられていた。においがひどく、床や壁も汚れ、衛生的とは言えない環境だった。
まあ、私がきれいという環境をここで維持するといのは難しいとしても、これじゃあ病気がひどくなっちゃうんじゃないの?
そんなことを思っているとキュレネとムートが患者にヒールの魔法をかけるためにやってくる。
近くに来たムートに声をかける
「すごく病室が汚いよね?」
「こんなもんじゃないか?」
「こんなんじゃだめ、掃除をしなきゃ余計に病気がひどくなっちゃうよ」
とは言ったもののここでの掃除のやり方がわからない。
「掃除ってどうやるの?」
「ちょっと教える暇はないから、洗浄魔法で床や壁を掃除してみろ」
ずいぶん雑な答えだな
どうやらムート達はヒールの魔法かけるのに忙しいようだ。
言われてみれば確かに洗浄魔法で掃除ができそうだ。早速、結構な大きさの水球を作り掃除を始める。水が汚くなったら外に捨てて新しい水球を作って掃除するのを繰り返す。ほこりもたたないし、水跡も残らないし、水の温度や水流の強さを変えればかなりの汚れが取れる。これ掃除機よりずっときれいになる。魔法おそるべしと思いながらきれいになった部屋に満足していると近くにいた患者から
「ねぇあんた洗浄魔法が使えるなら私も洗ってくれないかねぇ。それとベッドもきれいにしてほしいんだがねぇ」
と言われ一人に洗浄魔法をかけると他からも要望があり、結局患者一人一人に洗浄魔法をかけ、ベッドも一つ一つきれいにした。その際『祈りの女性』の絵を見せて聞き込みをしたのだが何の情報も得られなかった。
うーん。情報を得るのはなかなか厳しそうだな。
私の掃除が終わった時にキュレネたちもヒールの魔法を終わっていた。
「お前あれだけ魔法使って何ともないのか?」
「どういうこと?」
「よく魔力切れにならないなってこと。魔力切れにならなかったとしても相当疲労するはずなんだが......」
もしかして私魔力量がかなり多いってことよね。
そんなやり取りをしていると、患者のイサベルというおばあさんに呼ばれた。
「あなたたち冒険者なんだって?ちょっと渡したいものがあってね」
そういうと、魔法書のようなものを出してきた。
「これは娘に託された魔法書で、教会以外の回復魔法士に渡してくれ言われたものなの。でも体長が悪くてこの施療院に入りっぱなしだったから、これを渡せる機会がなくて困っていたのよ。これはね、神官をしていた娘が入手した大聖女サルース様の回復魔法を再現したものなの。重い怪我や病気も治せるらしいわ」
「大聖女サルースの回復魔法って『エクストラヒール』よね、他のだれにも使えなかったといわれた幻の魔法じゃない」
「大聖女サルースって誰?」
小声で隣にいたムートに聞く。
「数百年昔に回復魔法で多くの人を救って大聖女の称号を与えられた偉人だよ」
「この魔法書を見つけた当時は重い病気にも効果があるって喜んでいたらしいのだけど光魔法と闇魔法を組み合わせたものだったので、精霊教会では回復に闇魔法を使うことは禁止されていて結局使えなかったらしいのよ」
「精霊教会は光魔法至上主義だからな」
「その後、娘はその魔法を使わず流行り病の治療をしていたのだけど、結局自分が感染してしまって教会以外の回復魔法士に渡してくれと言葉を残し息を引き取ったのよ」
渡された魔法書にキュレネが軽く目を通して
「かなり難易度が高いわね」
と呟いた後
「ありがたく頂戴します」
「下手に使うと教会から異端者認定受けるかもしれないから気を付けるんだよ」
その後、施療院をあとにして冒険者ギルドに完了報告に行く。銀貨2枚(=2万サクル)と202ギルドポイントをゲット。これでCランクまでの状況は345/3000。まあ順調かな?
宿で改めて魔法書を確認する。どうやら、大聖女サルースより少し後の時代の神官が再現を試みたものらしい。
最初のページに大聖女サルースが使ったと言われる魔法陣が一つあり、次のページから魔法陣の解析結果が記載されていた。
概略としては大聖女サルース様の魔法陣そのままでは魔法を発動することはできない圧縮形式の魔法陣である。サルース様の残された極秘資料をもとに圧縮を展開していくと魔法陣50個に展開できたとある。魔法陣の内容を確認し一部に解析不能な部分があったが、そこは別の構成で魔法陣を補完して再構成したとあり、続いて50個の魔法陣とその解説が記載されていた。
この魔法書を渡してくれたイサベルさんは光魔法と闇魔法を組み合わせたものと言っていたが他に水魔法と地魔法も組み合わされており、魔法陣50個からなる非常に繊細な制御を要求されるものらしい。
「これをマスターするにはかなり時間がかかりそうね」
「俺は属性が足りないから無理だな」
「キュレネにも難しいなら私にはまだ無理ね」
といいつつ大聖女の魔法陣に目を向ける。あっまずい、私たぶんこの魔法使える。
なぜか、圧縮形式のオリジナルの魔法陣をそのまま使えそうな感覚がある。やっぱり私普通じゃないわね。この大聖女って人も圧縮形式の魔法陣を使っていたのよね
何か共通点はあるのかしら?
「ねえ、どうして大聖女様は使えて他の人は使えないのかわかる?」
「ああ、大聖女様は今は亡きハイヒューマンという種族だったのではないかと言われているのよ」
「ハイヒューマンってなに?」
「私も詳しく知らないのだけど、昔、神様に近いハイヒューマンという種族がいたらしいの」
「今はいないの?」
「さぁ、大昔の文献に記載があるだけで、本当にいたのかもわかない感じなのよ」
なるほどもしかしたら私、ハイヒューマンなのかもしれないわね。それはそれとして幻の回復魔法が使えるというのはちょっとまずい気がする、大聖女扱いされても困る。でもどうしても助けたいときとかの非常時には使いたい。
キュレネが再現したほうを使えるようになったあとで、私も使えるようになったって誤魔化そうかな。
ということで魔法陣を書き写して(再現したほうを)使えるように練習するということにし、大聖女が使ったほうのオリジナルの回復魔法を練習することにしよう。
魔法書の最後に、教会の方針と合わず今は使用できないことになって残念だ、この書は後世の人に託すとあった。
「なんで教会は使用禁止にしていたんだろう?」
「多分、当時の教会権力者が、この魔法を使える魔法属性を持っていなかったんだと思う」
なるほど納得ではあるのだけど、そんな理由で禁止だったら悲しいな。
1日休んで今日からまた森での狩りだ。前回より少し森の深い部分に行く予定である。前回と同様メインターゲットは『オーガ』で目標討伐数は10匹だが未確認の魔物との遭遇もあり得る場所だから気を抜かないようにとキュレネから注意があった。どうやら前回ギルドから注意された未確認の魔物を見つける気満々らしい。
まあ魔物討伐の経験がほとんどない私は、何が出てきても大して変わらないかからなんでもいいや。
目的地に到着し早々に5匹のオーガを発見。
1匹のリーダーと思える個体を先頭にVの字隊列でで移動してくる。
「5匹同時に格闘するのはちょっと面倒だから、大きな魔法を使うわね。とりあえず前の3匹は私が倒すわ。残りの左はムート右はティアお願い。私が2つ連続で魔法を使うから2つ目の炎の魔法を使ってから動いて」
そう言うとキュレネは地面に手をついて魔力を込める
「グランドクラック」
オーガの周辺の地面に深い亀裂がいくつもでき周辺の木々も巻き込みながら前の3匹は亀裂に腰まで飲み込まれ、後の2匹は体勢を崩しつつも亀裂に飲み込まれまいと必死に逃げ出している。そこに同じぐらいの範囲で火炎魔法「メガフレイム」をたたきこむ。
裂け目に落ちて身動きが取れないオーガが巨大な炎に包まれるのを見て呆然としかけた私に
「ティアお願い」
と声がかかる。
そうだ右奥のオーガ担当だった。
急いでオーガに駆け寄る。
崩れた地面と炎から慌てふためいて逃げようとしていたオーガは簡単に仕留めることができた。逆側のもう1匹の方がどうなったか確認するとムートが無事に仕留めていた。
キュレネってこんなに強いんだ。自分たちで強いと言っていたからそれなりには強いんだろうと思ってたけど15歳の駆け出し冒険者のはずの2人でこれって、この世界の人たちってどれだけ強いの?
私、身体強化でかなり強いと思ってたけど、もしかしてこの世界だと弱いのかな?
あの時の力=女神モードぐらい使えないと厳しいな。と考え込んでしまった。
「ちょっとティアどうしたの?」
「もっと強くなりたいなと思って、あんなに強い魔法があるなら私も使いたい」
「強い魔法ねぇ......さっき使ってたのは私の家に伝わる魔法なの。強い魔法って力の象徴みたいなものだから、多くの貴族が研究しているの。そして強い魔法ができたらその一族が優位に立つため独占して使うのが普通なのよ。すごい時間とお金をかけて開発した魔法を簡単にまねされたり対策されちゃ困るでしょ。私の魔法もそういう魔法だから申し訳ないけど一族以外に教える許可は簡単には出ないのよ。
とりあえず、一般公開されている基本魔法の本を後でさがしてあげるから先ずはそれをマスターしてみて。ティアは短期間で洗浄魔法も使えるようになったし、魔力量も多いから訓練すれば使えるようになると思うわ。それでも数年はかかると思うけどね」
「そんなに?」
「ティアの剣技はかなり洗練されていると思うけどそんなにすぐできるようになったわけではないわよね?」
「そうね」
10年近く学んでやっと中級者ぐらいの位置づけだったかも...
「魔法もそれと同じで地道に努力していくしかないわよ。でも、ティア、あなた魔法が使えなくても剣士としてでも十分やっていけると思うわ。その模擬剣でオーガ倒せるってかなりすごいことよ。あなたのエンチャントとの相性がいい剣を使えばオーガぐらいなら雑魚扱いできると思うわ」
「だったらいい剣が欲しい」
「エンチャントとの相性がいいの剣は素材にミスリルとかを使っているから高いのよね。普通のCランク冒険者が10年働いたら買えるぐらいかしら」
「......」
「まあそれぐらい買えるように頑張りましょう」
数日間は、この周辺を探索して目標を上回るオーガ11匹の討伐他ゴブリン、オーク、メガアプルム(大イノシシ)なども討伐することができ今回の狩りはかなりの成果となった。
「明日は今後のためあの山の向こうの状況を視察して帰りましょう」
と言って目の前の山を指す。ここらの山は一つの大きな山ではなく、低めの山が連なる山脈みたいな感じだ。
次の日
今日は山越えだ。と言っても山の一つの尾根を超えて向こう側の谷の様子を見に行くという感じだ。3時間ぐらいで到着する見込みなのだが登山道があるわけではないのでそれなりにハードな行程もあるそうだ。
ところが険しい場所はキュレネが土魔法で簡易的な道を作ってくれたりしたのであまり苦労せずに峠をこえることができた。これなら楽勝とか思っていると霧が出てきて急に視界が悪くなってきた。その後、大粒の雨が降り出し、一瞬で地面がぬかるんで歩きにくくなり、おまけに雷も鳴り出す。
「急いで移動したいところだけど、この雨だとあまり動かないほうがいいかもね。ティア、木の近くにいないほうがいいわよ」
キュレネが大きな木の下で雨宿りをしていた私に声をかけた
「雷は、高い木なんかに落ちやすいの、そして、落ちた雷は木を伝って近くにいる人も巻き込むから危ないのよ」
急いで木から離れようと動き出した途端、足が地面から飛び出している木の根っこに引っかかり転びそうになる。とっさにもう一方の足を前に出して踏ん張ろうとした途端、地面が崩れてしまう。
うそでしょ。
そのまま転倒して山の斜面に落ちてしまう。
全然止まらないよ。
これはまずいと思いつつもなすすべがなく転がり落ちていき、途中、地面のふくらみにぶつかって、空中に投げ出された形になって宙を舞う。
まずい、と感じたが空中でで何かに引っかかり止まった。
助かったと思ったのも束の間。
身動きが取れない。
周りを見回すと木の幹と幹の間に張られた粘着性のあるロープのようなものに引っかかっていた。
なにこれ?もしかして蜘蛛の巣?嫌な予感しかしないんだけど......
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