第5話 剣と魔法
とりあえず私がどのくらい戦えるかを確認しておきたいとのことで次の日は朝から町の外に出てムートと剣で模擬戦をして実力を確認をすることになった。
ムートの武器は長さ150cmもある大剣で、それを軽々と振り回すことができるだけでもうただものではないだろう。
一方で私もまったくの素人ではない。真刀流剣術継承者だった祖父が亡くなる中学まで祖父から一通り剣術を学んだので経歴でいえば10年ぐらいだ。ただ本気でやっていたかといえばそんなことはなく、ただ何となく小さいころからやっていただけで特に強くはない。祖父の知り合いとも何度か立ち会ったが勝てたためしもない。
そんな感じの力量なのだけど今の身体強化した体でどこまで動けてこの世界の人と比べてどれぐらいの強さがあるかを確認しておくのは私にとっても好都合だった。
町から出て、街道からも離れた広々とした場所につくと、すぐにムートと対峙する。
「俺は強いからそちらから打ち込んできていいぞ」
私から攻撃かぁ、ムートの実力もわからないけど、自分の実力もわからないんだからやりにくいなぁ。
そんなことを思いつつ剣を構える。とりあえず様子見で、正面から軽く一振り。
軽くよけられたので、すかさず左右から一回ずつ連続で打ち込む。左の打ち込みはかわされ右の打ち込みは剣で受け止められた。
ムートも軽く対応してるし、もっと力を出したほうがよさそうだ。
一方、ムートは少し怪訝そうな顔をしている。
「見たことのない剣技だな。今度はこちらからいくよ」
正面から打ち込んでくる。ムートの剣は重そうなのでとりあえず剣で受け流す。そのぐらいではムートの体制は崩れず、すかさず下から切り上げが来る。それを軽くかわしカウンターをねらう。
このタイミングなら決まるかしらと思いつつ寸止めをしようとした瞬間ムートの動きが速くなり、寸止めの必要はなくなる。
「強いな、面白い」
やっぱり、向こうも様子見だよね。お互い身体強化されているのだけど慣れてないから力加減がわからずやりにくい。とか思っているうちにムートが先ほどより数段速い速度で切り込んでくる。
「
高速の連撃が繰り出されてきた。
何とかしのぐことはできているが、剣の長さの違いもあり近づくこともできない。
このままでは一方的だ。
「降参か?」
「いや、まだよ」
一旦攻撃がやんだすきに突っ込む。すかさず先ほどの技が来る。
昔はいまひとつわからなかったけど身体能力が上がった今なら祖父に教えてもらった技の本質が感覚でわかる。これだけの能力が必要だったんだ。
見切りの技あったよね
「
最小の動きで、ギリギリにかわし懐へ飛び込むと同時に高速の剣を放つ
真刀流奥義「瞬き」
「なっ!!」
一瞬焦ったような表情をしたムートではあったが剣を受け止める。
今の攻撃も防いじゃうんだ。
「やるね」
身体強化されているしかなり強いと思ったんだけど同じぐらいの年の子に簡単に防がれた。この世界ではこれが普通?
「そこまで!!」
キュレネが叫んで制止した。
「実力把握は十分でしょう。これ以上熱くなると怪我しそうだし、これならオーガ狩りも問題なさそうね」
オーガはCランクの魔物でベテランパーティのターゲットだ。ちなみに森で戦ったゴブリンやコボルドはEランク。私が最初に倒したエルダーコボルドでもDランクだ。
「それにしてもずいぶん美しい動きね。バランスが良いというかすごく洗練された感じだったわ」
400年の歴史があるといわれる真刀流だからかな?
まあそれは置いといて、少なくとも剣の実力はCランクの魔物なら倒せるってことね。次は魔法か。
「えーと魔法が使えないって言ってたけど魔法についてどのぐらい知っているの?」
「この前聞いた魔法陣をイメージして使うということ以外何も知ないよ」
「そうなのね。じゃー何から教えようかしら」
「洗浄魔法が知りたい」
この世界じゃあまりお風呂に入れそうもないし、ぜひともこの魔法を習得しておきたいのよね。
「そうね、実用的だし練習にはちょうどいいかもね。じゃあ、まずは水魔法の水生成からね。魔法陣はこれ。普通は、手のひらに魔法陣を発現させるイメージで魔力を込めるの」
「魔力を込めるって?」
「魔法陣に意識を集中する感じかしら、魔法の効果を口に出しても魔力を込めやすくなるわね。ちょっとやってみて。まあ、そんなにすぐ魔法を使える人なんていないけどね」
えーっと、この魔法陣を頭で描いて魔力を込めるか......
キュレネがくれた魔法陣が描かれた紙をみながら、その魔法陣を掌の上にイメージして集中する。
「水出てー」
ちょろちょろ
「でたー」
「えっ!!!うそ。すごいじゃない。そんなすぐに使えた人みたことないわ。あとは自由自在に使えるようになるまで繰り返し練習する感じよ」
「私たちちょっと町で用事があるから一人で練習してもらってていい?お昼には戻ってきて」
「うん、わかった」
よし、もう一回
「水出てー」
ちょろちょろ
「水出てー」
ちょろちょろ
「水出てー」
ちょろちょろちょろ
少しずつうまくなってきたかも、それに魔法陣を見ながらじゃなくてもイメージできるようになってきた。
もうちょっと水を多めに出すにはどうしたらいいんだろう。魔力をもっと込めるのかな。
「水出てー」
じゃばー
何となくだけど、魔力の込め方がわかってきたような気がする。ついでに掛け声も変えてみるか。
「水出ろー」
じゃばー
「水よ来たれ!」
じゃばー
面白い。
もっとだしちゃえ。
「水、水、水ー」
じゃばー
10Lぐらい出せるようになったかな。
掛け声はなんでもいいみたい。本当は呪文みたいなのを唱えてみたい気がしなくもない。そうはいっても呪文の必要がないのにわざわざ呪文を唱えるのも恥ずかしい。
でもやってみるか誰もいないし......
「大いなる水の精霊よ、わが願いを聞き届け多くの水をもたらしたまえ」
こんな感じかな。
あれ、水が出ない。呪文を考えるのに集中して、うまく魔法が使えなかった......
「ティアもうお昼よ、まだやってるの?よく魔力切れにならないわね。」
「うわっ」
夢中になって気が付かなかった。さっきの呪文聞かれてないよね。
「うん、もっと練習したい」
「じゃあ、お昼を食べてから、また練習ね。ところで水の精霊とか言ってなかった?なにそれ?」
「なんでもないよ」
うー聞かれてた......
一旦、休憩してお昼を食べる。
ある程度水を出せるようになったから、次は水を保持する練習をしましょうか。これがその魔法陣。水を出した後、すぐにこの魔法を発動すれば水が流れずに塊としてコントロールできるわ。
じゃあ早速やってみよう
「水出ろーそのまま集まれー」
じゃばー
水保持の魔法の発動が遅れたせいでほとんど流れ落ちてしまった。
やはり、すぐにはうまくいかないか。
「ついでだからその次の魔法も教えていくわね。これが水を温める魔法陣。火の系統魔法陣だから水系統の魔法陣とはだいぶ形が違うのだけど、魔法の使い方としては一緒よ。そしてこれが水を手の動きに追従させる魔法陣で、これが水をかき混ぜる魔法陣よ。これを連続で処理出来たら洗浄魔法を使えるようになるわ」
うーん、これだけあるとすぐにできるようになる気はしないけど、今は魔法が使えるようになっていく過程だけでも十分楽しい。結局町の門が閉まる直前まで練習してから宿に帰った。
「あー疲れた。結局、マスターできなかったなぁ」
「そんな速くできないわよ。初めてであれだけできたんだからすごい才能あるわよ
というか天才ね」
「魔法って決まった魔法陣があってそれを覚えていけばいいって感じなの?」
「魔法って基本を習えば自分で魔法陣を作ってオリジナル魔法を作ることもできるようになるのよ。でもね魔法陣の最適化は難しいから公開されている洗練されたものを覚えて使うのが使うのが普通。そういった意味で決まった魔法陣を覚えていけばある程度の魔法使いにはなれるわね。ただ、魔法の力って国や貴族の力関係に大きく影響するので独自に研究された魔法も多いのよ。そのほとんどが秘匿されていて、一般には出回ってないの。だから一流の魔法使いになるためには、そういう魔法を研究したり継承している人に弟子入りしたり養子になったりすることも多いわ」
なるほど、そういう感じなのか、魔法使いになるのも大変だ。まあとりあえずは洗浄魔法を使えるように頑張ろう。
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