第4話 ウィスバーロの町2

宿に到着すると部屋を確保し、荷物をおいて宿の食堂で食事だ。


メニューを見てもよくわからないやと思っているとムートが「骨付き肉だ」といって注文してしまった。キュレネがそのほかにパンとスープを頼んでくれた。


これまでの緊張も落着き少しぼーっとしながら食事を始めるとムートが真っ先に肉を骨ごと食べだした。


へー骨まで食べられるぐらい煮込んであるんだ。


味はちょっと微妙だけど意外にもパンやお肉はやわらかく食べやすい意外に骨も「ポリポリ」感がおいしい。


キュレネが驚いた顔で私のほうを見て

「ちょっとティアも、骨を食べるの?」

「えっ」

やばい、ムートが食べてたからマネしちゃったよ。


あごも身体強化されてるのかなぁ?この分だと歯にもエンチャントもかかってるかも

力加減とか気を付けないと......


この場はちょっと笑ってごまかそう。

「あはは、骨まで食べる料理かと思って頑張って食べちゃった。故郷では、出されたものは残さず食べましょうという文化だったので」


「肉は骨ごと食べるのうまいよな」

ムートがキラキラした目で訴えかける。

まあ確かにおいしかったけど私としては普通の人間としてふるまいたいなぁ。


「うーん」とあいまいな返事をしつつ話題を変える。


「ところで、パーティ名「クラーレットの奇跡」の奇跡って何?」


「私たちはできるだけ早くAランクの冒険者になることを目指しているの。そのためにはまわりから見たら奇跡に見えるようなことをやっていく必要があるってところかしら。だから少し無茶もすると思うけどよろしくね」


「できるだけ早くってどれぐらい?」


「最長でも5年、3年以内が好ましいわね。」


うーんAランクになるのってどれぐらい難しいんだろう?

「普通はどれぐらいでAランクになれるの?」


「大半の冒険者はAランクになれないし、今までAランクの冒険者になるのに最速でも10年ぐらいかかっていると思うの」


えっ?そんなに大変なの?無理でしょと思いつつも声には出せない

とりあえず、よく聞くセリフを吐いておこう

「そんなに大変なんだ。まあ、私にできることをやるだけね」


「できることしかできないのだけど、実際にやってみないとできるかできないかなんてわからないことも多いと思うの。少なくとも今できると思っていないことだって本気で取り組んだらできるかもしれないでしょ。」


「まあそうね」


「それに、今回の場合、いい依頼の受注を繰り返せば原理的には3年以内でAランクになるのは不可能じゃないのよ。いい依頼に巡り合うっていうのが一番の難題で運の要素が強い面もあるんだけどね。その運を手繰り寄せるような工夫をしていきたいの。ということでティアもいい依頼に巡り合えるよう考えてね。それこそ周りから見たら奇跡と思うようなレベルで依頼を受注できるようにお願いね」


ううっ無難な返事で済まそうと思ったのにくぎを刺されちゃったよ。


「それに奇跡は一つ起きているわ。それはあなたよ、普通、初心者は熟練者がいるパーティに入れてもらって活動するものなの。でも私たちのような新人が5年以内でAランクを取りたいといっても聞き入れてもらえるわけないのよ。だから新しいパーティでやるしかないんだけど、新人パーティに実力者が入ってくれるわけもないでしょ。かといって弱い人も入れたくない。ちなみに私たちはもともと騎士入団試験を受けるつもりで鍛えていたからそれなりに強いつもりだし、一緒に行動してもいいというレベルの人を見つけるのは難しそうだから2人で活動せざるを得ないかと思ってたわけ」


そんなに期待されても困るなぁ。ちょっとチートっぽい力があるみたいだけどどれぐらい強いかわからないし。


「私、どれぐらい役に立てるかわからないけど......」

「それは大丈夫だ、私がをパーティに誘った時点で実力があるの確定だ。竜人の勘がお前を強者だと言っている。それに全属性の魔力もちなんてキュレネ以外であったの初めてだ」


なるほど、私かなり期待されているのね。それなりの力があるみたいだからひとまず安心てとこかしら。まあ、あの森の中で私を見つけてくれたのも奇跡だよね。あそこで一人だったらと思うとぞっとするよ。


「食事も終わったしそろそろ部屋に戻りましょう。もう休みたいわ」


「お風呂とかシャワーとかないのかな?」


「今日は無理だな」

「洗浄魔法を使ってから寝ましょう」


そう言うとキュレネは手の前に50cm程度の水の玉を生成した

「今からあなたを洗うから、息を止めて、目を閉じて」

それに従うと、水球をゆっくり頭から下に動かし始める。


えっ服着たまま?

あったかい、水じゃなくてお湯だったんだ。気持ちいい。

足先まで動かし、終了。

そして水球を窓から捨てた。


えー、外も確認しないでいきなり窓から水捨てちゃったよ。


あれ、髪も服も濡れていない??


「服ごと水球で洗われたにもかかわらず服が濡れていないのは何で?」

「魔法で水の移動をしているから、制御されている水は全部水球と一緒に移動するのよ。だから服には残らないの」


すごい便利、魔法おそるべし。


ムート、キュレネも洗浄し

「疲れているからもう寝ましょう。4明日は一日休みね」

と言いながらベッドの中に入った。


ベッドの中でこれまであったことを考える。この状況って一体何なんだろう。いきなり異世界の森の中に放置されて訳も分からず冒険者になっちゃったけど......


そういえば私、異世界から見知らぬ場所に来たってことは冒険してるようなもんよね

そもそもギルドに所属しなくても冒険者じゃん。って何考えてるの私、このまま冒険者になってこの世界で生きていくなんてないよね。これからどうしたらいいんだろう。とにかく元の世界に戻りたい。突然いなくなっちゃったら両親も心配してるだろうし。けどどうすればいいの?手掛かりになりそうなのは、私を呼んだあの人に会えば何かわかるかな?神殿みたいな場所にいたから神殿にいるのかな。でもどこの神殿?あとは転移の魔法を調べるっていう手もあるかな?


それぐらいかな......どうやって見つけよう。

考えをまとめて安心したせいか強烈な眠気に襲われそのまま眠りについた。


次の日、町を散策することになった。

その前に冒険者ギルドで換金だ。

魔物の換金表を見ると

Aランク 1千万サクル

Bランク 百万サクル

Cランク 1万サクル

Dランク 5千サクル

Eランク 2千サクル

Fランク 千サクル

ギルドポイントはその1/1000


となっていた。

「ずいぶんBランクとCランクの差があるんだ」


「Cランクの魔物は普通の冒険者でも倒せるが、Bランクの魔物になるとそうはいかないからな」


そう言いながらムートがこれまでに獲得した魔石を受付に提出した。

結構いっぱいある。私と会う前にも結構魔物倒していたんだ。


「では本人確認をしますので順番にギルドカードを置いてここに魔力を流してください」


カードを置く場所と隣に半球状のでっぱりがある。順番にカードを置いてそのでっぱりに触れて魔力を流す。問題なくカードに記録されている魔力パターンと今流した魔力パターンが一致し本人確認は終了。



「Dランクの魔物

ホブゴブリン2匹

エルダーコボルド1匹

オーク3匹

牙狼デンテスルプス4匹


合計10匹で5万サクル


Eランクの魔物

ゴブリン12匹

コボルド6匹


合計18匹で3万6千サクル。


Fランクの魔物

たてがみネズミ(=ユゥバムース)2匹


2千サクル


全部の合計8万8千サクルです」

ということで銀貨と小銀貨を8枚ずつもらう。



ギルドに登録されている魔物なら魔石を鑑定器で鑑定することで何を討伐したかわかる仕組みになっていたのには驚いた。お金の価値がよくわからないけど服を交換したときに比べずいぶん金額が少ない気がする。確か小金貨1枚は十万サクルだったっけ、あの時パジャマと服一式交換してさらに小金貨2枚もらったんだよね......

そしてギルドポイントは金額の1/1000で88ポイント。確かCランクに上がるのに1人1000ポイント3人で3000ポイント分必要っていってたから今のCランクまでの状況は88/3000かぁ。順調なような気もするけど先は長いなぁ。


その後町に出て適当に店をのぞいたり食べ物を買ったりした。食べ物の価値からするとほとんど日本の円=サクルの感覚だった。でも服はかなり高かったような気がする。生活はできるけど余裕はあんまりなさそうね。


「ティアは行きたいところある?」

「神殿を見てみたい」

神殿みたいなところに召喚されそうになったんだからなんか帰る手掛かりになるかも。


「どんな神様を祀っているの?」

「いまの神様は誰なんでしょうね」

「はい?どういうこと??」

「ティアは神様も知らないのね」


「多分300年ぐらい前のエレメンタルマスター任命の時に現れたのが最後でそれ以来誰も見ていないという話もあるの。神様の寿命も私たちより少し長いぐらいだから世代交代をしているはずなんだけど100年前、魔王が現れた時には神様は現れなくて誰もエレメンタルマスターの力を授かることができなかったの。だから、どんな神様かもわからないし、もう神様はいないという人もいるわ」


普通に寿命があるの?それに人間より少し長いだけって神様っぽくない。役割の決まった神様だったっり、唯一神というわけでもないんだ。思ってた神様のイメージとかなり違うな。しかも実際に人前に出てるのか......

「昔は神様との交流があったんだ」

「大昔はもっと交流があって魔法や結界などを人々に授け導いてくれたらしいわ。魔王の討伐なんかも神様がしてくれたらしいし。でもある時から知識や力はあげたからあとは自分たちで工夫してやりなさいって感じになって交流も少なくなったとか。神様に頼る必要がなくなったってことかもしれないけど......」


なんか神様っぽくないな。


大きな長い階段の先にある神殿に到着。


一目見た感想は、

『探していた神殿とは全然違う』だった。

呼ばれた所は円形に柱が立っていたがここでは長方形に配置されていた。

がっかり。やっぱりそんなにすぐ見つかるはずないよね。


奥のほうに祀られている像があった。

見た目は鳥の翼のようなものが背中にあるおじいさんって感じだ。

「あの像は?」

「あれが神様の像ね、新しい神様が現れたら作り変えられるはずだけど昔のままね。」


えー神様に翼があるんだ、私女神様って呼ばれてやってきたけどやっぱり神様ではなくてチート異世界召喚者って感じなのかな......

さてどうしよう。


「どうしたの、元気ないみたいだけど」


「ここが私の記憶に残っている神殿だったら私を呼んだ人にあえるかなって思ったんだけど全然違ったので......どうやって探せばよいのかわからなくって......」


「それが神殿に来たいって言った目的なのね。本当はその人を探したいってことよね?」


「帰り方がわかるかもしれないので......ただ、どんな人を探しているか人に伝えるのが難しいし、どうやって探せばいいかわからなくて......」


「あなたがその人ををしっかり記憶しているならいい方法があるわよ。思い描いているイメージを絵にしてくれる魔法絵師というのがいるの。その絵があれば聞き込みができるようになるわよ。ちょっと高いけどまだ金貨残っているか大丈夫でしょ」


そんな方法があるんだ。魔法ってすごいな。とりあえずその方法を試してもみよう。



魔法絵師の店に行く。

中に入ると奥にアトリエという感じのスペースが手間に小さな商談スペースがあり

おばあさんが声をかけてくる

「いらっしゃい」


どうやらおばあさん一人でやっている店らしい


「記憶にあるイメージを描いていていただきたいのですけど」


「まず、あなたがイメージしたものを私が読み取って記憶し、それをもとに絵を描くからね。ただイメージそのものを読み取るので記憶がはっきりしていない場合などはあやふやなまま再現になるよ」


それはたぶん大丈夫、この世界に来て記憶力も上がっているのか鮮明にイメージできる

「わかりました」


「じゃあ小金貨1枚(=10万サクル)だよ。いいかい?」


「はい。お願いします」


「じゃあ、この魔具を頭に着けて」

渡されたのはニット帽みたいな被り物。私がそれを被ると


「じゃあ、意識を同調させるから、描いてほしいものを頭に思い浮かべて」

言われるままに神殿で祈っていた金髪碧眼の貴族風な少女をイメージする。

多分完ぺきなイメージができている。


「まったく見えんのだけど。精神干渉防御の魔法とか使っていないかね?」


「使っているつもりはないのですけど......」

あれ、イメージはできているのに読み取ってもらえないの?


「ちょっといいかしら」

キュレネが声をかけてきたと思ったら何やら魔法を発動する


「まったく効き目がないわ。あなた無意識に精神干渉防御してるわね」

なるほど、それはそれで重要な能力だけど、解除する方法がわからない。


「読み取られるのはダメみたいだから、あなたの方からイメージを送る様に意識するのはどうかしら?」


ファイルをアップロードするみたいな感じかな?

とりあえずイメージしたものを魔具の方に押し出すように意識してみた。


「見えたよ。とりあえずラフ画を描から、思っていたものと同じか確認して」


そういうと、ササっと描いたものを見せてくれる。


女性がわたしに向かってお祈りをしている状況で間違いなさそう。


「大丈夫です」


「では、絵の完成まで1週間程いただくよ、受け取りはそれ以降でね」


絵は筆を使って絵具で書くようだ。頭の中の映像を読み取る技術があるのに、その映像を手書きでアウトプットするということを不思議に思いつつ魔法絵師の店を後にした。


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