模倣
花降らし
第1話
もう数週間本を書いていない。書かなくなったというべきだろうか。
辞めるに値する作品が書ければ、文学をやめようと思っていた。でも、僕には価値のあるものを書く才能もセンスもなかったんだよ。
いつまでたっても辞められないものを続けるなんてできるもんじゃない。当てのない道を蝋燭1本で歩くようなものだ。
今ままで書いた本だって全部燃やした。プロトタイプも原案もたまに書いた詩の歌詞も全部燃やしたよ。思い出さえ嫌になったものなど、そんなのゴミだろう。
燃やした時すら何も思わなかったよ。儚いから美しいなんておかしいだろ。ものの価値は作り手にあるんだよ。結局価値を与えるのは人の手だ。
ノートの1ページを書き終えた。
そして最後に一言を最後のページに書き置き破って持った。そして最後の1ページと新品のノート、1本の万年筆、そしてインクを1瓶。それをカバンに入れて家を出る。どこ行こうか一瞬迷いもしたが、場所は決まっていた。結局戻ってこないんだ。切符は片道券だけでいい。
駅に到着した頃にはもう昼も終わり太陽も傾きかけていた。一度ホームのベンチに座って海を眺めるとなんだか喉が詰まる感覚がする。そのまま僕は駅を出て少し進み海へ出た。
ここだ。
初めは、他人と関わっていろんな本を書いた。でも、いつしか周りと比べ劣等感に囚われ本心で話せる自分はいなくなってしまっていた。どれが本当の自分かわからなくなってしまったんだ。
結局家に閉じこもって皮肉めいて言葉ばかりを連ねた文章を連ねてた。なんでも美化する詩に毒を吐いて、表面上だけで接する友人に言葉をぶつけた。結局靴すら捨て去り「地の糧」をビリビリに破り捨てた。そんなことしていたらいつしか1人以外の誰からも相手にされなくなった。負け犬らしい最後だろ。
でも君はいつもかっこよかった。いつかに君が僕に話してくれた。
「松尾芭蕉は俳諧は3尺の童にせよ。と遺した。芭蕉について調べるうちに私は与謝無村を書いた本に行き着いた。彼女は芭蕉にれて俳句を書いていた。芭蕉回帰、つまり芭蕉こそが正だと説き生きていた。いつしか同じ旅路を辿るほどに」
君は自分が無村だと思っていると思うけどそうじゃないよ。僕が君に揺れていたんだ。いつも凛々しく文学的な詩を書いていた君に。
君はまだ来ちゃだめだよ。他人の終わり方に口を出すほど人間は偉くないけど。でも僕は君に生きててはしい。
君はもっと優しい人間になりたいなよ。
花緑青:ヒ素を含んだ毒性のインク
いつしか私は彼を追いかけることばかり考えていた。皆から変な人と言われ指を刺されることもあっただろう。それでも彼は「彼」であり続けた。彼の中に何かモヤモヤとした闇がくすぶっているのは気づいていた。でもそんなこと気にならないくらいに彼がかっこよかったのだ。
初めて彼と会ったあのバス停はもう近づけない。近づくとまたあの日々を思い出してしまいそうで怖くなる。
もう戻ってこない、楽しく儚いあの日々は私にとって大切すぎる。言うなれば神様との出会いだった。
いつしかあなたは神様なんていない、作品に意味も価値も与えるのは人間だよ。なんて言ってた。でもその続きを私は知っている。その価値をつけた人に価値を与えるのは神様だよ。私に人生に色をつけたのはあなたっていう神様なんだよ。あなたがいなければ私は何もないただの負け犬だよ。
最初のページには懐かしい彼の筆跡で「人生が芸術を模倣する」と書かれていた。
あなたがいなくなってから何日経ったかわからない。突然私の家のポストには一冊のノートが入っていた。中には普通の何気ない日記と幾つかの歌詞のようなものが記されていた。芸術至上主義という言葉を好み名乗っていた彼にぴったりの言葉だ。
彼は人生は終わり方に意味があると言っていた。芸術に生きた彼はどうやって終わることを目指したのだろう。
「終わりのない物語はつまらない。だらだらと惰性で続く小説なんて美しくない」
次のページには読んだ小説について書かれていた。知識と知能を手に入れた男の話、アンドロイドを殺して自由を求めた男の話、月光に照らされた人間の話。そして1人の俳句が書かれていた。方に囚われない自由律俳句を求め死んでいった1人の俳人。
彼は自分を重ねていたのかもしれない。
「こんなよい月を1人で見て寝る」
彼の読んだ小説は全て読んだ。そうすれば彼に少しでも近づけるような気がしたか
そうやって何気ない日記が続き最後のページに辿り着いた。詳しくいうと最後のページは破られていた。つまり最後から2ページまで。私に見せることを想定していた最後のページ。そこにはある駅の名前が書かれていた。その駅はいつしか2人でいった駅だった。小さな無人の駅で、駅の前にはすぐ海が広がっていて数分で海に出ることができた。私は「あぁ、なるほどな」なんて思ってノートを閉じた。
私は閉じたノートと少しのお金を持って電車に乗り込んだ。彼がいなくなってからこのノートはどこにあったかわからない。でも彼がいなくなるには十分すぎる時間だった。彼も気づいていたのだろうか。私がすぐ追いかけることに。
数回の乗り換えを終えあと2駅。走る車両はどんどん少なくなりもう1車両となった。目の前には夕焼け空と海が見える。彼もこの景色を見たのだろうか。
やっと駅に着いた。空は昼と夜が混じっている。あと数時間で夜になる。
彼と一緒に訪れた時もこうだった。そして彼はこんな話をした。
「夜になりかけているこんな空を夜粉いというんだよ。夜にも昼にもなれない中途半端なこの空を皆んな綺麗だというんだ。昔の人は綺麗という言葉を景色に当てはめたんじゃない。人の心を表したんだ。」
駅を出て海へ向かう。海へと続く坂道を歩く。いつか彼と歩いたこの道もこんなに広かったのかと今になって気づいた。
海辺へ出ると1本の桟橋がかかっていた。その先に太陽の光を反射して何かが光って見えた。私は心臓が締め付けられる感覚を持ちながら桟橋を走った。辿り着くとそこには空になった1つのインク瓶とその下に1枚のノートが置かれていた。
破り取られた最後の1ページ。
いつからかあなたを追いかけるように生きていた私はやっとあなたに並べたと思ったよ。でも今でも私は弱いままだ。あなたの真似ばかりしている小さな人間だ。
あなたがいなくなってから私の1部が欠けたようなそんな気がした。あなたの言葉を借りてなんとかここまできた。元から私の中になんて何もなかったんだ。でもあなたが私を埋めてくれた。あなたが私に意味をくれた。あなたが私の神様なんだよ。
外に出ることも怖くなくなった。あなたがいると思えれば私は普通の人間でいられた。でも結局違った。家を出る時本当は少し思っていた。ここまでくればもしかするとあなたがいるんじゃないかって。でもあなたはもういってしまったんだろ。あなたは芸術のまま死んだ。あなたの人生は芸術を模倣した。あなたの終わり方のように。
私にとって神様のまま死んだんだ。
最後のノートを書き終えた。私ももう終わる。でも終わるんじゃない終わらせるんだ。情性のまま生きてきた私を終わらせる。結局私は人間が怖いままだった。
私は優しい人間にはなれなかったよ。
後書き
どうも花降らしです。
まず初めにWordからコピペしてるのでもしかすると変な文字ミスがあるかもしれません。すみません。
私は曲から影響を受けやすく、セリフとかもどっかの歌の歌詞を貰っています。一番影響を受けたのはヨルシカかなぁと思います。歌詞や曲も大好きですが何よりも
ストーリが大好きです。(あちゃくちゃオタクな話になりますが、「だから僕は音楽を
辞めた」と「エルマ」のアルバムのストーリーに1番影響されてます)
名前の花降らしは「アメフラシ」っていう海洋生物を文字って花降らしにしました。
ギリギリまで漢字にするかカタカナにするか迷いましたが結局漢字にしました。
この文章の解説をすると、芸術至上主義の青年が音楽を辞めるために花緑青という毒性のインクを飲み思い出の地で自殺する。それを追いかけて同じ生き方を目指した青年(少女)が青年を追いかけて旅に出る。と言った感じです。
題名の「模徴」というのはどちらを表したのか.。また、わかる人にはわかると思うのですが、ヨルシカのストーリーとめちゃくちゃ似てます。すみません。この文章が出来上がる前に5個くらいの文章を書きましたが全部同じ感じになりました。こういう作品しか作れないんです
ね。最後に青年(少女)がどうしたかはご想像にお仕せします。ちなみに名前をつけようとしましたが、名前からの先入観がない方が良かったのであえてつけませんでした。長くなりましたが、前半は青年(少年)、後半は青年(少女)視点の物語といった感じです。
途中に出てくる「芸術至上主義」というのは実際に私自身が大好きな言葉で無理矢理にでもぶち込んでやろうと思い、作りました。
文章中に出てくる「負け犬」とか「人間が怖い」っていうのは割と私自身を表してると思ってます。なんでも中途半端な自分は心の中で人気者に毒を吐くことしかできなくて、それがただの負け犬でしかないというのが学校で気づいたことでした。人間が怖いのも結局自分自身が弱いからなんでしょうね。結構、少女には私自身の考えというか人生観を投影したりしてます。
本当だよ。私は人間が怖い。
模倣 花降らし @hanahurashi-831
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