気づいたらお城の中でした

第8話

 シオンの周囲に余裕ができると、ようやく他の情報が入ってきた。


 シオンがいたのは、広めの個室だった。


 だが、単なる個室ではない。


 足を下ろしたばかりの床には毛足の長い絨毯が敷かれていて、フカフカだ。


 部屋の中央には天蓋付きのベッドがあり、その横にサイドテーブルが添えられている。


 誰かの居室なのか。


「まさか本当に成功するとは思わなかった。ヴァイス、この女性なのか?」


 ヴァイスが首肯すると、金髪の美形は流麗な動作で一礼し、手を差し出した。


「双翼の乙女。いやーーシオン姫。初めまして。私はネンゲル・エルデガリアだ」


(私? でも、姫じゃないし……)


 この部屋にはネンゲルなる男性、ヴァイスとシオンの他に誰もいない。


 握手を拒むのも失礼な気がして、手を出すと、ひらりと取られて甲に口付けられた。


 ひゃあっと、声が上がる。


 ネンゲルはシオンの様子に、目をぱちくりと瞬かせた。


「そうか。シオン姫はエルデガリアと別の国から来たのだったね。言葉がとても流暢なので気づかなかった。しばらく滞在すれば、すぐにこの国の慣習にも慣れるだろう。不便があれば遠慮なく申し出てくれ」


「はあ……。とりあえず、ここはどこなんでしょう? エルデガリアって、聞いたことないんですけど」


 話の流れから、「エルデガリア」は国名或いは地名であろうと見当をつけた。


 当然ながら、どこにあるのかわからない。


 一連の事態が夢でないなら、やっぱりこれは呪いの反作用か。


 呪いが成就したなら、シオンの身にどんな代償が降りかかっても不思議じゃない。


 しかし、呪いの代償にしてはあまりに上等すぎだ。


 クズとはいえ、人を呪ったら地獄に落ちても文句は言えないのに、ここは環境が良さそうだ。


 得体は知れないけれど、清潔だし豪奢な家具や美形に囲まれて、劣悪な環境とは無縁に見える。


 呪いはしたが、相手がクズだったから、せめてもの温情なのか。


「ここはエルデガリアの王宮だよ。シオン姫にとっては異世界とでも言えば伝わるかな」


「い、異世界!? 異世界って、あの?」


「おや、話が早くて助かるね。そう、異世界なんだよ」

 

 ”あの”と口にしつつ、シオンだって詳しく理解しているわけではない。


 ただ、スマホゲームやネット小説で、割と見かける設定だったな、くらいの認識だ。


 シオンの知ってる小説だと、異世界トリップは大体が事故か召喚のどちらかが定番だ。


 しかし設定が定番だからといって、いつしか自分の身に起きるなんて想像したためしもない。あくまで物語の中のお話だ。


「あの、がどれを指すのかわからないが、シオン姫のいた場所とエルデガリアは違う次元に存在するーーんだよね? 合っているかな、ヴァイス。私からはそれ以上の説明ができない。これはヴァイスの専門だろう」


「概ね、ネンゲルの説明通りだ」


 ヴァイスは鷹揚に頷くが、その説明では納得できない。

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