第4話
プライベートな空間を、それも許可もしていない相手に覗き見られて、中傷される。
シオンは羞恥で、カッと頬が熱くなった。
折り畳み脚の机とソファーベッド、見える家具はそれで全部だ。
部屋が殺風景なのは自覚している。
だが、それがどうしたと言うのか。
「そりゃ、所詮は浮気相手止まりよねぇ。こんな部屋に住んでる女なんて本気になるはずないわ。本人も地味だし、こんな女と浮気されて、私が恥ずかしいレベルだわ」
キャハハ、とわざとらしい高笑いが白音の自尊心を切り刻んでいく。
屈辱に、無意識に拳を握り込む。
まだ何が起きているのか完全に理解できていないものの、侮辱されていることだけはわかる。
「私ぃ、ちょっと聡に幻滅しちゃった。やっぱ仲直りするのやめようかな~」
「えっ? 何だよそれ、約束と違うじゃん」
「だって、私がこんな子に劣るって言われてるみたいでショックだし。聡、私よりこういう子のほうが好みなんじゃないの?」
「そんなわけない! 俺が好きなのは、萌香だって。何回も言っただろ?」
聡が慌てたように、萌香の腕を掴む。
シオンは再び、目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。
ーーようやくわかった。
降って湧いた厄災は現実だ。
稲田の口から、直接その言葉を聞いたら、急に現実味を帯びた。
萌香はきっと、それを狙って、誘導しているんだ。
「本当にぃ? じゃ、この女のどこが良くて二股したのよ」
「そりゃ、大人しくて口が固そうだったから、それだけだよ。でも、正直今は後悔してるよ。つまんない真似するんじゃなかったって」
ぎゅっと握り締めると、拳の震えが止まる。
涙が頬を伝って、唇を湿らせた。涙はいつでも塩辛いものだ。
ふぅ~と息を吐くと、シオンは声を押し出した。
「……つまんない真似って何?」
「うるさいな、ちょっと黙ってろよ」
こちらからの問いかけを不意にされた。
ただでさえ、胸の中に溜まっていた澱が、猛烈に渦を巻き始める。
「うるさいですって? よくもそんなセリフが言えたわね!?」
激情に突き動かされるまま、シオンはバッグを振りかぶり、稲田に殴りかかった。
「あっ、ぶねー。何すんだよ」
だが、大振り過ぎてひょいと避けられる。
代わりに肩を突き飛ばされて、身体に衝撃が走る。
カバンを振り回すのに全力を注いでいたため、白音は簡単に尻餅をついてしまった。
「最低! 浮気した挙句、暴力振るうなんて。どこまで
シオンは度重なるショックで起き上がれずに身悶えた。
稲田は舌打ちし、拳でドンと壁を叩く。
「暴力って、先に手ェ出したのはシオンだろ? ああ、もういいや、ウザイな」
今までに見たことのない、粗暴な仕草にビクッと身動いだ。
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