第2話
「あん、もう……浮気相手の部屋でその気になるなんて、バカなんじゃないのぉ。やあよ」
「酷い言いようだな。こんな機会もうないと思ったら、なんかさ。な、もう機嫌治ったろ? だから……」
耳を疑うやりとりに、シオンは茫然自失とした。
心なしか男の息が荒い。
それ以上聞いていられなくなって鍵穴に錠を一気に差し込んで、把手を回した。
バァンッ!
勢いよく扉を開いたものの、衝撃の光景を目の前にして、シオンは動けなくなった。
悲しいかな、都内の格安アパートは一部屋が極小の間取りだ。
扉を開けたらすぐに居間が丸見えになる。
玄関からでもベッドは視界のど真ん中にあって、そこには確かに稲田がいた。
「きゃぁっ」
「わっ、シオン……!? 何で??」
稲田はベッドに腰掛けていた。間違いなく、シオンの知る稲田だ。
だが、その膝の上にいるのは……?
ベッドに座る聡の膝の上を跨ぐように、栗毛の女が膝立ちになっていた。
稲田の腕は女性の腰に巻き付いている。
女性のトップスの裾は捲り上げられて、白い腹部が露わになっている。
「何で、って、私の台詞……。ここ、私の家。……誰、その人」
稲田はシオンの恋人で。
今日はデートの約束をして、でも仕事でキャンセルした。
なのに何故、その恋人が他の女とベッドにいるのか?
シオンは喉が引き攣りそうになるのを感じながら、途切れ途切れに尋ねる。
稲田は珍しく顔色を変えた。
「ええと、これは、その……」
しかし、稲田が言い終わる前に、女がシオンの視界を遮った。
「
稲田の膝から降り、一礼した女は愛想良く微笑んだ。
歳は二十代前半といったところか。
色白で肉付きの良い身体つきで、緩く巻いたブラウンの髪を肩に垂らしている。
けれど全く面識はない。そんな女から親しげに名前を呼ばれ、シオンはたじろぐ。
「私は聡の彼女なの。……って挨拶するのも白々しいわね。それを貴女にわかってもらおうと思って、ここに連れてきてもらったの」
「はい??」
何が起きているのかーー情報は視覚を通して脳に送り込まれるが、理解が追いついていなかった。
ただ、萌香とやらの眼が挑戦的に光っているのがわかる。
「彼女って、稲田さんと付き合ってるのは私……」
思考がまとまらず、しどろもどろになるシオンを萌香は勝ち誇ったように嘲笑った。
「やだぁ、冗談ばっかり! 私ねぇ、聡から聞いてるの。ついうっかり、気の迷いで取引先の子に手を出しちゃった、でも、私と別れたくないから許して欲しいって。だから、その女の家を教えてって頼んだの。どんな女がどんなとこで人の男に手ェ出してるのか知りたかったから。それで手を切ったら許してあげる約束だったの。わかる? つまり浮気相手はアンタなの、シオンさん」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲った。
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