サレカノですが異世界で愛され妻になります
@Kinugaya
浮気男の本性
第1話
身体が宙に放り出される心許なさと、唐突に働く引力。
地面に叩きつけられるかと思ったのに、シオンを受け止めたのは柔らかな衝撃だった。
(あれ、痛くない……?)
恐怖に瞑っていた目を開いた時、展開していた光景にシオンは息を呑んだ。
目の前にあったのは、サファイアに似た煌めきの、アイスブルーの瞳。
「来たな。双翼の乙女」
呼気が届くのではないかと思われる距離で、白皙の美貌が薄らと微笑んでいる。
いつの間にか銀髪の美男子に、シオンは
(……ええ? はぁ??)
いったい何が起きたんだっけーー!?
何がどうなって、こうなったのか。
全く働かない頭でもって、シオンは今しがた起きたばかりの事件の始まりを、懸命に思い起こそうとした。
***
父親の浮気が原因で、母親は幼い妹と弟を連れて出て行った。
ーーシオンが高校へ行っている間に。
つまり、シオンは母に捨てられた。
父は育児放棄まではせず、高校卒業まで一緒の家で生活した。
ーーただし、浮気相手と一緒に。
だから、卒業後は就職して、家を出た。
印刷関連会社の事務員として働き、現在は社会人となって2年目の春を迎える。
当然、父を恨んだ。多感な時期に継母未満の女性と過ごした2年はシオンに深い傷を残した。
そんなシオンだから、男性に対する警戒心は人一倍大きく、生活だけで手一杯な点も手伝って、自立してからは仕事と家の往復を常としていた。
……が、そんなシオンにも春が訪れた。
チャリン
シオンはその日もビジネスバッグから鍵を取り出しつつ、スチール製の階段を足早に登っていた。
(よかった。予想よりずっと早く上がれたし、これならまだ、会えるかも。稲田さんまだ予定空いてるかな?)
鍵の向きを持ち変えるついでに、腕時計を確認する。
稲田は付き合って半年になるシオンの恋人で、職場で知り合った。
取引先の男性で、何かと新人のシオンを気にかけてくれていた。
最初は男性不審気味だったシオンの心に寄り添うように、いつも温かかく接してくれて、次第に心惹かれ、交際するに至った。
今日も急遽、会社の都合で呼び出されてデートをキャンセルしたのに、メールでは優しく労りの言葉を返してくれる、シオンにはもったいないくらい優しい男性だ。
いやーーそのはずだった。
「やぁよ、こんなとこじゃ……」
鍵を開けようとして、白音はビクリと身じろいだ。
鼻に掛かるような甘ったるい女の声が、急に耳に飛び込んだからだ。
慌てて見渡すが、周囲には誰もいない。
築40年以上の古アパートだから、どこかの部屋から漏れ聞こえたのだろうか?
と首を傾げつつ、白音は鍵を構え直した。
差し込もうとしたところで、再び動きを止める。
「いいだろ、
今度は気のせいでは済まされない声音が、はっきりと聞こえた。
(稲田さんーー!?)
狼狽えて、鍵を取り落としそうになって、堪えた。
部屋の中から聞こえたのは、恋人の稲田聡とそっくりな声だった。
確かに聡は白音の部屋の鍵を持っている。
けれど、そこにいるはずがない。
だって、白音は「仕事が入ったから、今日は会えない」と伝えたのだから。
それに、部屋にいる人の気配は、一人だけではない。
空耳だろう、と気を取り直すものの、不安が拭えずもう一度耳を傾けた。
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