第9話 一難去って

ウイスキー飲んでねぇよな?

痛えけど…案外そうでもねぇな。


死なないで…私は生きてる。


そっか、あれが守ってくれたのか。


「ご自分のお名前は?」


知らねぇ場所で知らねぇおっさんが、そう私に声をかける。

ババアに刺されたから、病院か。


「石川…薫です」


おっさんは私がすげぇ当たり前のことをキツそうに言うと、見覚えのある黒い本みたいなモンを見せてきた。


BOOWYのバンドスコアだよ。

ちょっとでも誠に一杯食わしせてやろうとして、尻に隠してたやつだよ。


「助かりましたね。この分だけ、致命傷を負わずに重傷には至りませんでした」


くせぇから言わなくていいよ。

私が聞きたいのは…私のことじゃねぇ。


「誠…は…?」


「んん、ここからは専門の方に任せます」


おっさん去ってまたおっさん。

誠のお父さんかと思ったけど、警察だなんて聞いてねぇ。


「警察が何の用だよ?私は何もしてねぇぞ…?」


「何もしてなければ俺はここにいないよ」


「殺されかけた私は…被害者だろ…?」


「川端美香は殺人未遂の容疑で逮捕した。君は君が言う通り被害者だが、加害者の疑いもある」


私を刺したババアが捕まるのは当たり前だよ。

そうじゃなきゃおかしいよ。


「ふざけろよ…私は…何もしてねぇ…そんなことより誠は…?」


「まず、彼を君に会わせることはできない」


「クソッタレが…私は誠の…彼女だぞ…?」


「そして、彼は話せる状況にない。生死の淵を彷徨っている」


そうだろな。

その瞬間を私は見てるんだよ。

おまえはバカか?



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