死神郵便局

最悪な贈り物

死神郵便局

「もう、別に大丈夫だってば!!!!!」


「そんなことはないだろう!?女子高校生だけで夜を彷徨くなんて危険だ!!!!」


朝から二つの怒号が家に響き渡った。

まるで神と神が戦い、そして天変地異が起こるかのように荒れた音が家の中に伝わって行く。


「俺はな!!!!美緒の事を心配して…」

「うっさい!!!!!」


そういうと、セーラー服に身を包んだ俺の娘の美緒は家の扉を閉め、そして外へと出て行った。


「あいつ…!!!」





「先輩…そういうの、毒親って言うんですよ?」


「毒親…?」


職場の休憩時間、背丈ほどの大きな窓の連なる食堂で、俺と、俺の後輩の竹内はラーメンを啜りながら聞き返した。


「たしかに、先輩は刑事だし、娘さんを思う気持ちもわかります!あっつ…」


「お前なぁ…せめて箸置いてから喋ろよ…?」


「でも、刑事だからって、娘さんを制限しすぎるのも、それはそれで人権がどうのこうの〜ってなりますよ?娘さんの体は先輩の物じゃないんですから。」


「そ、そうか…俺が…毒親…」


俺は箸を一度置いて、しばらく考え込んでいた。




「はぁ…今日も疲れた…」


トラックのクラクションが鳴り響き、青信号が点滅する夜。


今頃、美緒は友達とカラオケに行っているのだろうな。


「何事も無いと良いのだが…」

と、つぶやき、信号が青になるのを待つべく、スーツを片手にぶら下げて待つ。


周りを見ると、女子高校生が何人か居るのが確認できた。


こんな時間でも女子高校生はいる人は居るのか…

今日はキツく言い過ぎたのかもしれないな…

帰ったら、謝るとしよう。


俺がそう思い、そして赤信号が青に点滅する。


先ほどの女子高校生はスマホを見ながら前へと一歩、踏み出した。


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!!!


空にエンジン音が響き渡る。

「ん?なんだ?」


信号の通っているこの一本道。

すぐ目の前にトラックが全速力で横断歩道に向かって突っ込んできている。


あ、女子高校生が危ない。


そう思った時には俺の体は動いていて荷物を先ほどいた場所に置き去りにして、前を歩く女子高校生の背中を押した。


「よかった…」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!









目の前に広がる白い風景。

地平線までずっと白い地面が続いていて、周りを見ると、駅のような小さな建物が一つあった。


「も、もしかして…死んだのか…?」


まあ、あのトラックのスピードだ。死ぬのは当然のことか。

こんなおじさんの代わりにその女の人が生きてくれるんだったら、オンボロな人間が今を生きる学生を救えて、まあ、万々歳と行ったところか。


「こんにちは。」


すると、駅員なのだろうか、帽子の縁の大きい、西洋の兵隊のような格好をした男が目の前に立っていた。

「あなた宛に手紙がありますよ。」


「あんた誰だ?それに名前はもわからない。」


「僕を形容する言葉はないです。あえて言うのなら、死神でしょうか。それよりも。」

そういうと男は俺に手紙を握らせた。


表紙には「美緒より」と書いてある。


「美緒から…か…」


正直、俺はどんな辛辣な内容だったとしても、受け止める覚悟ができていた。

しかし、そこには思いもよらぬことが書いてあった。









「お父さんへ。

こんな手紙が死んだお父さんに届くわけないから本音を書きます。

本当はお父さんのことが大好きでした。

でも、正直になれませんでしたごめんなさい。

人を救ったお父さんは私の自慢のお父さんです。

将来、私は刑事になりたいです。

お父さんみたいな、ヒーローを目指します。

正直になれなくてごめん。親孝行できなくてごめん。いつも文句ばかり言っててごめん。家事のお手伝いしなくてごめん。

謝ることはいっぱいあるけど、それでもこれだけは言わせてください。

今までありがとう。


私も大好きなお父さんへ。

美緒より。




追伸:お母さんはお葬式の時、馬鹿な人って笑いながら泣いていました。」


俺は手紙をしっかりと握りしめて、前を向いた。


「良かった。俺のことをお父さんって認めてくれて。」


「これ、大事に持っておいてくださいね。天国への片道切符ですから。」


俺はそういうと、右手に持ち。


「ああ。そうするよ」とだけ言った。


「天国ってどんな所だ?やっぱり楽しいのか?」


「案外楽しいですよ。」


男は俺と一緒に歩き始める。


そして「天国行き」という看板の駅のホームに入る前、

「行ってくる」とだけ言い、駅のホームへと入った。


後ろには「行ってらっしゃい。」という家族の姿があった。

気がした。




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