第2話 ペア宿泊券

 ガラガラ抽選器を回すのも7回目となり、残念ながら4等の青色は出ない。 

 まあこんなものだろうと8回目を回すと激しく振鈴を鳴らされた。


「おめでとうございます!!! 『特等』です!!」


 周りから拍手喝采を受け、贈呈されたのは『加賀高級旅館』のペア宿泊券だった。


 『こんな物を渡されても』と……内心途方に暮れながらも、とにかく片手でスマホを立ち上げ、ペア宿泊券を写真撮りして『伊勢屋』さんにお礼のメッセを出した。


「いっそ『伊勢屋』さんご夫妻にあげてしまおうか……」

 こんな考えが頭に浮かんだ時


「あの……すみません……」


 鈴の音が鳴る様で……歳末の喧騒の中では危うく聞き落としそうになる声だった。


 振り向くとベージュ色のコートにチェック柄のマフラーをしっかり巻いた若い女性が立っていた。


 美人だけど、今どき珍しい黒髪のストレートロングで……メガネこそ掛けてはいないが例えて言えば学校の『委員長』タイプ!

 その“委員長”さんが長く外に居たのか、鼻の頭を赤く染めて僕を……僕の手元を見ていた。


「あなたが引き当てた『ペア宿泊券』を譲ってはいただけませんか?」


「えっ?!」


「もちろんとは申しません! 10万円でいかかでしょう?」


「ええっ??」


 いくら有名旅館とは言え10万あればペアで宿泊できるだろう……なのに一体なぜ?


「失礼ですが、何かご事情がおありなのでは? このお話、あなたの得になるような事は無い様に思えますが」


「いいえ! 私にはとても大切な事なのです! だから……」


「あの、良かったらあちらのコーヒーショップでお話を承ります。いかかですか?」


 僕は4軒先に見えるチェーンのコーヒーショップを指さした。


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