三題噺「新・蜘蛛の糸」

月ヶ瀬樹

新・蜘蛛の糸

「おい、あの糸はなんだ?」

「蜘蛛の糸……じゃねぇ?」


 地獄の世界もさまざま。ここは地獄界の休憩所。比較的、刑の軽い死者たちが使える場所である。


「俺、生前本で読んだことあるぜ! あれを登っていけば、夢の世界に行けるんだ!」

「夢の世界……?」

「そう、天国だよ!」

「本当に? じゃあ私が一番乗り! これで夢にまで見た天国よ!」

「あ、バカ! 俺が先だ!」

「いや、待ってください! 今僕が調べてみたけど、どうやらそう上手い話ではないみたいです」

「お前、何言ってんの? 新入りのくせに、俺に歯向かうって言うのか?」

「違います。その、蜘蛛の糸は貧弱で、何人も群がると切れてしまいます」

「あー……そういえば、俺が読んだやつもそんなオチだったような」

「でしょう?」

「にしても、お前どうやってそんなこと調べたんだよ?」

「スマホを使ったんですよ。ほらこれです」

「わ、なんだこれ! 俺始めて見た! すげぇな新入り!」

「このスマホがあれば、何でも調べられるよ」

「じゃあ、これからの休憩時間はそのスマホで遊ぼうぜ! 新入り、使い方を教えてくれ!」


 お釈迦様は悲しそうな顔をしながら、蜘蛛の糸を手繰り寄せた。

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三題噺「新・蜘蛛の糸」 月ヶ瀬樹 @itsukey_t

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