第4話 全ては、僕の為の変化
なくなってしまった鏡の存在に気付いてから、僕は過去の家と今の家の変化に気付く様になった。
まずは鏡の存在。お風呂の鏡だけがなくなっているのかと思ったけれど、家を回ってみると、取り付けられていた場所全ての鏡が外されていた。
洗面所やクローゼット、更にママがメイクする時に使う鏡台も鍵がかかって開けられない様になっている。
上がってきた業者さんが全て壊した訳ではないと思うけれど、こうも全部綺麗に外されていると気になっちゃうな。と思った僕は、ママに聞いてみる事にした。
「お風呂場の物は、貴方がパパに聞いた通りなのだけれど。鏡があると、ノアが病院時代を思い出しちゃうんじゃないかと思って外す事にしたのよ。不死身になって血行が悪くなっちゃったのか、今のノアはあの時と同じ位に顔色が悪いから」
ママの答えは「僕の為」と言う事らしい。
言われてみれば、確かに「熱い」「寒い」も感じなくなったし、血の巡りが悪い感じもする。だから多分、ママの言う通り、僕は本当に病人みたいに真っ青なんだろう。
次の異変は、窓だ。分厚いカーテンが一日中ぴっちりとしまっている事もおかしいなぁとは思うけれど。ちらと開けて見ても透き通ったガラスじゃなくなっている。くぐもっていて、外の世界が全く見えないんだ。
まぁ、でもこれも不死身になってしまった僕を大切に隠す為だと思う。
三つめの異変は、一日中テレビが付けられている事。僕が死ぬ前のママは、いつも「見ていないなら消してちょうだい!」って、付けっぱなしにするパパと僕に怒っていたのに。今のママは「駄目よ、消さないで」って言うんだ。
「見たい番組がなくても付けていて良いの?」
「良いのよ、ノア。テレビの音が消えちゃうと、家で過ごす貴方が寂しくなっちゃうでしょ。だからずっと付けていて良いの」
サブスクも入った事だし、楽しまないとお金も無駄になっちゃうものね。と、ママはふふんっと鼻歌を歌いながら、カチャカチャッとチャンネルを切り替えて、加入したサブスクを楽しんでいた。
パパも一日中付けられているテレビを見る事が多くなったし、僕もテレビは嫌いじゃないから。これは良い変化って言うべきかな。
最後の異変は家じゃなくて、ママが用意して、着せてくれる様になった服の事だ。もう着替えさせてもらう年じゃないから、恥ずかしくて辞めて欲しいんだけれどね。ママは「やらせて」と聞かないから……って、そうじゃなくって。
ママがいつも用意してくれるのは、タートルネックの物なんだ。今は七分袖とか半袖で過ごす様な涼やかな季節だから、袖は全部短いんだけれど。不思議と首だけは長いんだよね。
パパは「何もおかしくないし、似合っていて良いじゃないか。タートルネックが似合うって事はイケメンって事なんだぞ」って言って、ママは「少しでも血行をよくする為よ」って言っていた。
と、まぁ幾つか異変を挙げてきたけれど。二人に尋ねてみると、全部僕の為を思ってくれての「異変」だった。
だからあんまり気にする事でもないし、不思議に思う必要もないんだよね。
……きっと。
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