第4話 高校受験
それから月日は流れ、中学3年生になり、とうとう受験の季節を迎えた。
先ず、自己推薦入試が行われた。
専門的な技術をアピールして普通教科の筆記試験なしに合格を得ることができる制度だった。
自己推薦入試では、デッサンが試験課題として課された。
試験日当日、風邪を引いていた私は、冷たい大部屋での受験ではなく、数畳ほどの暖房がしっかりと効いた別室での受験となった。
デッサンモチーフが置かれた部屋に鉛筆と消しゴムを持ち込み着席した。
試験官から試験課題の説明が行われた後、試験が開始された。
説明を受ける中で、疑問が一つ生まれた。
「…デッサンてなんぞや?」
デザイン科を受験するのにデッサンという言葉の意味が分からなかった。
とりあえず、絵を描けという意味だと解釈したのでモチーフの輪郭を丁寧に描いた。
輪郭だけを丁寧に。
輪郭なんてものの数分で書けるので、試験時間が一時間以上残っている…。
「めっちゃ楽な試験だなぁ」「こんなので受かるなんて最高じゃん」
と浮かれた気分で鉛筆を置き、試験官と二人きりの静寂な個室で試験終了時間までボーっとしていた。
試験終了時間を迎え、試験課題を回収する際に試験官が「本当にこれでいいの?」と困惑した顔で聞いてきたが意味が全くわからなかった。
(裏話をすると、デッサンという意味が分からなかったのは完全に自分のせいだった。
受験の数ヶ月前から美術教師による受験対策指導が放課後に行われるから参加するよう担任教師に強く勧められていた。何せ同級生でデザイン科を受験するのは、ほぼ美術部員か画塾生だったからだ。ただ、その美術教師が好きではなかったことと新作ゲームの発売でそれどころではなかったため参加することはなかった。まぁ、自業自得だ。)
翌日、来年以降の傾向と対策のため担任教師から試験内容と具合を聞かれた。
デッサンという意味を理解していないのに何故か自信満々だった私は試験内容などを説明し、試験の具合と手応えについて「余裕っす」と答えた。
数週間後、推薦入試の結果がLHRロングホームルームの時間を使って一人ずつ担任から伝達されるこになった。
出席番号順に別室に呼ばれていた。
他の生徒に聞こえないよう、教室から少し離れた理科実験室が我がクラスの発表場所だった。
私は自信満々に「よろしくお願いします」と挨拶して担任教師の前に用意された椅子に着席した。
担任の表情から合否を読み解こうとしたが分からない。
そのため「早く教えてくれよ」とそわそわしていると
「じゃあ合否を伝えます。」と担任教師が口を開いた。
「結果は残念だけど不合格です。」
「一般試験があるから気持ちを切り替えて、頑張ろう」
と言われた。
私は呆気にとられた。「え?不合格?なんで」と思った。
自分の中でのデッサンは完璧だったからだ。
自己推薦入試で合格し、残りの学校生活を悠々自適に過ごすつもりだった計画が崩壊したことにガッカリして、一般入試なんて考える場合ではなかった。
「気を落とさずに頑張ろう」と担任教師に肩をポンポンと叩かれ、「はい」と返事をした。
「勉強せんといけんのか~めんどくせぇな」という気持ちで教室にトボトボと歩いて戻った。
教室に戻れば当然友達たちと合否を教えあった。
周囲からは、絵が上手いという認識だったので、不合格になったことに驚かれた。
「いやいや、俺が一番驚いてるわ!俺ぐらい絵が上手かったら絶対合格やろ。意味不すぎ」と愚痴をこぼしていた。
当時は、不合格になった意味が全く理解出来なかった。
それからまた月日が経ち、一般入試(筆記と面接のみの試験)が行われた。
よりによってこの日も風邪を引いていた。
自己推薦入試よりも具合が悪かった。
朝から鼻水が止まらない。
試験中も終始、鼻水をかんでいた。
試験内容もイマイチ頭に入らないボーっとした状態の中で試験は終わった。
学力試験は全く手応えがなく、控え室で「おいおい、これやばいぞ。面接でなんとかするしかない」と思っていた。
面接試験は3人でのグループ面接だったが他の2人は女子だったので、とりあえず気合と元気で差別化を図ってやろうと思い、空元気でアピールしといた。
試験後、自己推薦入試と違い、全く手応えを感じ無かったため結構不安だった。
合格発表の日。
不合格になったんじゃないか。という不安が強い中、自転車を漕いで工業高校に向かった。
到着した時、既に合格発表の掲示板前には多くの人だかりが出来ており、歓喜に溢れる人、肩を落としながら立ち去る人…様々な様相の人が目に映った。
「俺はどっち側の人間だろうか」そう思いながら掲示板に向かった。
受験番号が張り出されていた。
科別に掲示されていたため、探すのに苦労しなかった。
「おっ、受験番号あるやん」意外とあっさりだった。
面接の気合と元気が功を奏したのか、なんとか合格することができた。
合格後、デザイン科に行ったら何をしたいのか考えた。
「デザイン科に行くなら、ONEPIECEやNARUTOみたいな漫画を描いて有名になりたいなぁ」とお気楽な夢を描いていた…。
この頃は、かつて警察官になりたいと思っていたことなど全く忘れていた。
本当に適当な進路選択だったと思う。
しかし、それが後に人生における最大の転機となることを、この時の私はまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます