真冬の夜の夢

仲津麻子

第1話迷い道

 行けども行けども目的地にたどりつけない夢をみたことがあるだろうか。あれはそんな夢だったに違いない。そうじゃなければ、説明のしようもない経験だったのだから。


 クリスマスイブの夕暮れのことだった。ケーキくらい食べるかとコンビニへ寄って苺ショートとチョコレートケーキを買った。

 ほら、こんな夜に一個だけ買うって、なんとなく残念な感じじゃないか。誰かと一緒に食べるんだと、ちょっと見栄を張りたくなる気持ちもわかって欲しい。


 公園横にある林の間を抜けると近道なんだ。街灯が照らしている道からそれて木立の間に入り、五分も歩くとアパート入口の電灯が見えてくる。


 それなのに、その日はいくら歩いても見えてこなかった。ぼーっと考え事をしながら歩いてたから通り過ぎてしまったかと振り返ってみたけれど、宵闇の中にずっと木立ちが続いているだけだった。


 おかしい、こんなに遠いはずはない。ぐるりと視界を巡らせてみると、木立の奥に小さい光が見えた。もしかして、あそこがアパートだろうか、不思議に思いながらその光を目指して歩いて行った。


 しばらく進むと冷たい何かがふわりと頬をかすめた。雪がちらついて来たのだ。

 寒いはずだ。ケーキを傾けないようにひじのあたりにエコバッグの持ち手を移動させると、そっと両手をこすり合わせた。


 雪はみるまに激しくなってきて、見上げると月のない夜空から真綿まわたのようなかたまりが落ちてきた。


 早く帰りたいな。ストーブで暖まった部屋で甘いケーキ。飲み物は熱いコーヒーかな、そうだ赤ワインがあったっけホットワインもいいな。

 そんなことを考えながら、さっき見つけた光を目指してまた歩き始めた。


どれほど歩いたろうか。進めども進めども、光は一向に近づいてこなかった。いくらなんでもこんなに林が広がっているはずがない。

それにあの光はアパートではなさそうだと思いなおした。まわりに何軒か住宅があったはずなのに、光はポツンと一つだけだ。


どうやら道を間違えているらしい。気づいたところでもう遅いのだが、まわりを見まわしても記憶にある場所とは思えなかった。


白い綿雪が闇を埋めるように降り続いていた。地面にも厚く降り積もり、歩いて来た足跡を消していた。

まさかこんなところで遭難したのか。体中が凍り付くように冷たくて、不安で震えが止まらなくなった。

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真冬の夜の夢 仲津麻子 @kukiha

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