8話 頼む、爆発しないでくれ!

 朝日の光に当てられ目覚めたユウは、全身をほぐしながらベットから立ち上がる。


「いや〜昨日は酷い目にあったな」


 鎖で縛られたまま室内に閉じ込められたが、どうにかこうにか抜け出すことに成功。

 しかし、外に出た時にはすっかり日が変わっていて、全身の疲れもあり《安らぎ亭》に着き次第すぐにベットに倒れて深い眠りについた。

 本来ならもっと早く眠れていたはずなのに、シャルのイタズラもとい依頼のせいで睡眠時間が多く削れてしまった。


 もっと眠っていたいところだが仕方ない。

 こうしてる今も、何処かで誰かが被害を受けてるかもしれないんだ。


「頑張るか」


 珍しく気合いを入れるユウは、意気揚々と一歩を踏み出した。



「ユウさん。今日の分のお金の支払いがないようでしたら、出ていってくださいね」

「そこをなんとかお願いしますよ〜メイリィさん」


 意気揚々?

 やる気満々??

 そんなのゴミに捨てろ!!


 “今日“を生きるには、メイリィちゃんのご機嫌を取っていかないと!


「なんとかしてお金を集めるから待っててくれ!」

「またギャンブルや娼婦に使うんじゃないんですか?」


 胡乱な目を向けられるのは、昨夜の行動だけではなく日々の生活態度にも表れている。

 食べて寝て働かず、出かけたと思いきや持ち金全部を使いはたし、明日の生活に困る日々。

 それに困らされるのはいつもメイリィであり、なんだかんだと色々条件をつけてはユウを泊まらせているが、昨夜も無理して泊まらさせていたりするのだ。

 流石に今日はちゃんとお金を払って貰わなければ困る。


「ほんとほんと。今日もダンジョンに潜るつもりだったから、お金の心配はしないで」

「それなら信頼できますね」

「あれ、信頼してくれるの」

「はいだってユウさんはランク6の冒険者様ですもんね」

「形・だけだよ」

「それでも、です」


 優しいなメイリィちゃん。

 確かに俺はランク6だけど実力でなったわけじゃない、ある種のズルでなっただけだ。

 まぁそのお陰で、俺がランク6と知っていてもよく侮られたり馬鹿にされるんだけど。


「ありがとうなメイリィちゃん」

「いえ。無事のお帰りお待ちしています」


 お礼を言いユウは冒険者ギルドに向かっていく。

 その背中を見届けるメイリィの背後にて巨漢の男が近付きメイリィの肩を叩く。


「大丈夫かあいつ」

「あっ、‘’お父さん“」


 振り返る先にいたのは、この《安らぎ亭》の店長であり、メイリィの父にあたる存在だった。


「昨日シャルロッテ様に会ってたみたいだしな」

「シャルロッテ様の所に」


 昨日の夜、ユウが居なくなっていたのには早い段階で気がついていたが、それがまさかシャルロッテの所にいたとは思わなかった。


「大方、また面倒事を頼まれたんだろ」

「・・・・・ユウさん」


 シャルロッテからの依頼でユウが駆り出される事はよくあるが、その依頼を達成する度にいつもボロボロの姿で帰ってくる事も。


「お父さん、大丈夫だよね。《癒し手》様は・・・・・」

「メイリィ無闇にその名前を出すな」

「・・・・・・はい」


 ユウの正体が《癒し手》であると知っている存在は少ない。

 メイリィや父である”グラン”がユウの存在を知っているのは、古くからの付き合いでありまたグラン自身の過去が大きく関係しているためでもある。

 

「あいつなら大丈夫だ。お前もよく知っているだろ」

「分かってるよ。でも大丈夫だって分かっていても、ユウさんの事は心配だよ」


 少し潤む目元を隠しもせず父を見上げるメイリィの姿に悲痛さを感じて、グランは内心大きなため息を溢す。


(はぁ〜ユウの奴、娘をこんなにしやがって責任とってくれるんだろうな)


 よく晴れた蒼天を見上げながら、グランは頭を悩ませるのだった。


 

「それで、またお金が欲しくなったと」

「そうなんです」


 エレンは呆れた眼差しをユウに向けるが、ユウにとっても《安らぎ亭》で泊まれないのは死活問題である。

 ふかふかのベット、美味しいご飯、天使でもあり看板娘であるメイリィちゃんに会う事はユウにとっては日常と化している。


「それなら昨日の続きで、引率「それはパスでお願いします」・・・・・・はぁー」


 うん、だって嫌じゃん。

 またあいつらに会って冒険しろと?

 何だその地獄は、あいつらと一緒にいるぐらいなら、まだシャルの悪ふざけに付き合った方が・・・・・・どっちも嫌だな。


「そもそも依頼なんて受けなくても貴方なら一人でそれなりに稼げるんじゃない」

「それはそうなんだけど、やっぱりやる以上簡単に稼ぎたいじゃないですか」

「・・・・・・」

「あっはいすみません。・・・それじゃあ」


 無言の圧力に耐えかねてすぐさまダンジョンに向かって行き、やがて姿が見えなくなった辺りでエレンはある事を思い出す。


「そう言えばもうそろそろよね、クロ君達が帰ってくるの。ユウ、分かってるのかしら?」


 ギルド職員の関係上、冒険者達から色々な情報が渡ってきているエレンには、ユウの相方とも言えるクロの今の所在が分かっておりそのクロがもうそろそろ帰ってくることを知っていた為、今度ユウに会った際に教えようと思っていたのだ。

 

「また大事にならなければいいけど」


 クロに会うだけなら問題は特にないだろうが、クロが今回のダンジョン探索で一緒に潜っていたであろう者達は、ユウに対して色・々・と過激になってしまうのだ。


「頭痛くなってきたわ」


 今までもその者達と起こした問題事に何度も処理させられ続けたことか。

 頭痛を訴える頭を抑えながら、何事も起きない事を願いながら仕事に励むエレンだった。



【祝福の抱擁、器の昇華、対価無き献身、我が身を糧に、強き者の一助に成らん事を】 

 

 ダンジョン9階層にて、ユウは目の前の豚型の魔物ーーオークに向けて、魔法の詠唱を唱える。

 オークも目の前の獲物を喰らわんと襲い掛かるが、その前にユウの魔法は完成する。

 掌を相手に向けて魔法の名前を唱える。


「器は満ちる《フィルベッセル》」

 

 瞬間、オークの体が弾け飛ぶ。

 唯でさえ3メートルはある巨体が弾け飛ぶ姿は、圧巻の一言に尽きるがそれを成した当の本人はと言うと。


「うぇ〜、血が飛び散った〜」


 オークの血が服装に付着し、不快感を表していた。


「クソッ!この魔法便利だけど唯一の欠点はこれだよな」


 ユウの使う魔法は本来、支援系の付与魔法に付随する。

 効果は、自身の“状態“を他者に付与すること。

 自身の体力、身体能力、魔力、気力、健康状態を他者に捧げる魔法であり、使えば使う程自身の“状態“を消費し続ける魔法で、常人が使うものならば大した効果も表せずに一回切りで終わってしまう所謂ハズレ魔法なのだが、ある理・由・によりユウにはこの事が当て嵌まらない。

 結果、相手する者に過剰の“状態“付与をする事で相手の器魂を壊し死に至らせる魔法にもなってしまった。

 

「モンスター相手だと調整難しくて、爆散させちまうんだよな〜」


 おかげさまで素材や魔石まで吹っ飛んでしまう。

 ダンジョンでの利益を手にするなら、モンスターからの魔石、ドロップアイテムなどが主になるのだがその収入源ごと俺の魔法は消し飛ばしてしまうのだ。

 今までも何度か調整を頑張って、モンスターが動けなくなるまでの付与に集中していたのだが結果は良くても10回中3回成功すればいい方だろう。


 そんな事でちゃんと稼げるのか?

 いいや無理だ。

 故にこそ、ユウはなるべく冒険者ギルドでクエストでの報酬を狙っているのだが、常に条件の良いクエストというのは無く、日々新しくクエストは更新されていく。


「今度クロにあったら、暫くダンジョンに潜った方がいいかな?」


 あいつ俺の代わりにモンスターをいっぱい倒してくれる

から楽できるし。

 と、少しゲスなことを考えながら次のモンスターを探す。



「キャアアアアアーー!!」


 ダンジョンを歩き回ってると突如女性の叫び声がユウの耳に届く。

 

(現れたか!?)


 わざわざ低階層でダンジョンを巡回した理由は、ここ最近の冒険者の死亡率では、低ランクの冒険者が多く死亡していたため今回も低ランク冒険者を狙ってると判断したためだ。


(あっちか)


 ユウは急いで叫び声のする場所まで向かうのだった。

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