7話 これは犯罪ですよ

 女神という存在がいるとするなら、きっと彼女のことを言うのだろう。 

 そう思わせる程に玉座に座る目の前の女性は美しかった。


 黄金を纏ったような女性と言えばいいのだろうか、髪色から瞳の色まで、眩く見えるのは決して彼女が光を帯びているわけではない。

 純粋に彼女という存在自体が、人々にとって眩しく、偉大な存在だからだ。

 かく言う俺も彼女に見惚れそのまま襲い掛かりたくーー


「おい。人の頭の中を勝手にナレーションするな」

「なんじゃ、つまんないのう」


 俺の気持ちを勝手に語りやがって、相変わらずお前は変わらないな。


「お久しぶりです。シャルロッテ皇帝陛下」 

「ええい!その呼び方はやめい長ったらしい。朕の事はシャルと呼べと言っておるだろう!」


 呼び方が気に入らないらしく不満そうな顔をする。

 仮にその姿を国民が見れば目を疑って卒倒してしまうだろう。

 それ程までに目の前の女性ーーレキオン帝国の皇帝シャルロッテ=レキオンは頬を膨らませ威厳に欠ける態度をユウに向ける。


「わかったよシャル」

「うむ。それでよい」

「それで」


 大変満足そうにしているシャルに聞かなければいけないことがある。

 メイリィちゃんとの話(尋問?)が終わり、後は寝る筈だったところ突如謎の集団に拉致られ、気が付けばシャルの目の前に転がされていた。


 鎖・に・巻・き・つ・か・れ・ながら


「何で俺は拘束されてるんだ?」

「ん?」

「ん?じゃねえよ!これ外せーー!」


 ドタバタと暴れまわるユウの姿は、芋虫が進行をする様に情けなく無様な姿だった。


「ぷっ」

「笑ったな?今笑ったな!テメェこれ外したら覚えてろよー!」

「それよりもだ」

「おい!」


 ユウの話をまるっきり無視して話を進めようとするシャルは、その表情を真面目なものへと変える。


(え?このまま話進めるの?)


「大事な話だ」


(マジで進めるのかよ)


「貴様娼館に入り浸っているようだな」

「ん?」

「朕という者がいながら貴様という奴は!」

「あれ?大事な話だよね?」

「大事な話じゃろうが!貴様は朕のものぞ!」

「テメェのものじゃあねよ!」

「いいや朕のものだ!」


 てっきり事件や厄介事が起きたのかと身構えていたが、聞いてみれば俺と娼館の話だったよ。

 勘弁してくれよ、さっきまでメイリィちゃんに

尋・・・・・・お話していたのに。

 どうやら今日という1日はとことん厄災のようだ。


「因みに頭にきたから、《安らぎ亭》に貴様が娼館にいた事をバラしておいたぞ」

「テメェの仕業か!!」


 どおりでやたら常連客やメイリィちゃんが共が詳しいと思ったよ!!

 全員が全員まるで見てきたかの様に話している訳だよ!

 

(クソ、俺の周りには碌な奴がいねぇのかよ)


 鎖に巻きつかれながら悲しみの涙を流すユウの姿に、シャルは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 ユウのこんな姿を見たいがために、拉致という形でここまで連れて来た甲斐があったといういものだ。

 

「まあ揶揄うのはここまでだ。ユウ、貴様を呼んだのは他でもない頼みがあるのだ」

「・・・・・・俺じゃなければいけないのか?」

「そうだ。これは《癒し手》である貴様への依頼だ」


 正直めんどくさい。

 わざわざ皇帝であるシャルが《癒し手》の俺・に依頼するぐらいだ。

 相当な厄介ごとなのは間違いない。

 それでも、そんな厄介ごとがあると知った以上動かない選択肢は存在しないか。

 



 この国をこのーーを守る。


『私を殺して』


 それがあの日、最・愛・を・殺・し・た・俺への罪であり贖罪であり義務だ。


「受けるよ。詳細を教えてくれ」

「うむ。それでよい」


 誰もが見惚れる笑みを浮かべるシャルは、正に女神の様に美しいのだが一言言わせて欲しい。


「いい加減この鎖外せよ」

「嫌だ」


 満面の笑みと共に否定してくる。

 浮かべる笑みが女神?・・・・・・悪魔だよ。


「・・・・クソッタレ」


 本当になんて1日だよ。



「まず結論から話すが、ここ最近冒険者達が死んでいるのは、何者かに殺されているからだ」

「それは確かなのか?」


 冒険者をやっている以上、死は常に側に存在する。

 力不足、準備不足、アクシデント、不運、トラブル、裏切り、様々な可能性が冒険者の命を摘み取っていく。

 死を免れても無傷で冒険者を引退する者は少なく、身体的にも精神的にも何かしらの傷跡を残す。

 だからこそ冒険者の死亡率が増える事は決して珍しくなく、故に冒険者ギルドはあらゆる対策を用いて冒険者の生存率と育成に励む。

 今回の件も、死亡率が上がっていることに関しては特に驚気はなく、寧ろ最近は平・和・だとすら感じていんだがな。


「うむ!《機神》がそう言っていたのでな」

「なるほど。それなら確かなんだろうな」


 今までで、《機神》の読みがハズレた事は一回もない。 予言や予知ではなく、確かな情報を集めて精査し調査し思考し導き出した《機神》の答えを疑う必要性すらなく信じられる。 


「あいつが調べたなら犯人ももうわかってるんじゃないのか?」

「それが《機神》の奴教えてくれんのだ」

「また何で?」

「なんでも『久々にユウ兄のカッコイイ姿が見たい』とのことでな・・・朕もその意見に賛成し細かい事は聞かんかった」

「は?」

「ということで頼んだぞ《癒し手》よ。犯人を自力で捕まえるのじゃ」


 親指を立てウィンクしてくるシャルに苛立ちを感じる俺は、器の小さな男なのでしょうか?

 犯人知ってるんだよな?情報あるんだよな?教えろよ。


「あまり怒るな、これもちゃんとした作戦だ」

「本当だろうな?」

「当たり前だ。それにお前が守るこの国の民達をこれ以上殺させる訳にはいかない」

「・・・お前の国民だろ」

「・・・フフ、そうだな」

 

 話は終わりだとばかりに無言の時間が一室に流れ込み、やがて神々しい光を放っていたシャルの姿は朧げに薄れていき気がつけばこの一室にユウ1人が取り残された。


ーー良い報告を待ってる


 誰もいない室内に、幻聴とも思えるシャルの声がユウの耳元を震わす。


「いなくなりやがった」


 相変わらずだな。

 口元に微笑を浮かべ立ちあがろうとするユウは、上手く立ち上がれない事に気付く。


「あっ、俺鎖で縛られてるんだった」


 話に集中していて、すっかり忘れていた。

 

「あれ、これ不味くね」


 室内には俺一人。

 シャルが呼び出した事を考えると、外には誰もいないはずだ。

 それを理解した瞬間全身に嫌な汗が流れてくる。

 

(まずいまずい!)

 

 えっ、今日で1番しゃれにならない事が発生してるんだけど!!

 とにかく今俺に出来ることは一つ。




 「誰か〜〜助けて〜〜〜〜!!!」



 その日とある一室で助けを求める声が響いたとか響かなかったとか。

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