5話 もうお前ら用済みだ!

「ユウさんランク6って本当なんですか!?」 

「ん?本当だぞ」

「ッッッ!!」


 爆散したスパイダークから魔石を探し出したユウは、ライラの疑問に答えながら遠方に飛ばされた魔石を拾う。

 魔石を拾い終えライラ達の方を向くととても驚いた顔を浮かべる3人組がいた。

 

(おっ、レキ〜無表情が崩れてるぞ〜)


 レキが驚くのも無理はない。

 レキオン帝国の冒険者では、ランク6という存在はまさに最上位の存在であり、その存在が自分達の引率として一緒にダンジョンに潜っている事実には流石のレキも驚愕せずにはいられなかったのだ。

 

 レキの驚く姿を見ただけでも、今日一日潜った甲斐があった・・・・・・いやないな。

 報酬がなければ即宿屋に帰っていたの筈なのに。


(まっ、宿屋に泊まる金が無いんだけど。メイリィちゃん許してくれないかな〜・・・・・・無理か)


 心の中でため息を吐いていると、ナルミがユウに近づいて来る。


「お前がランク6なのはどうでもいい。それよりさっきどうやってスパイダークを倒した?」

「えっ、そんなにどうでもいいかな?結構驚く事実を言った気がするんだけど・・・?」

「どうでもいいと言った。僕が知りたいのはさっきお前が見せた光景だ」

「どうでもいいって・・・・・・」


 「ランク6だよ!」「6!」と自分のランクを自慢する様にナルミに語りかけるが、ナルミはその事には心底どうでもいいと言わんばかりに鬱陶しそうにする。

 

 ユウは、ライラ達とナルミの温度差に違和感を感じつつもこんなものかと一人勝手に納得して、先程どうやってスパイダークを爆散させたのか説明する。


「俺は支援者サポーターでな、主に支援系の魔法を使うんだ。さっきのもそのうちの一つなんだよ」

「支援系の魔法でモンスターを倒したのか?」

「詳細は省くが、対象に俺の魔力を送るんだよ。モンスターだって魔力の容量キャパに限界があるからな、それを超えるとバーンと爆発するんだよ」

「理屈は分かったが、モンスターの魔力容量は高いはずだが・・・・・・?」

「俺の魔力量に関してはちょと特別でな」

「特別?」

「そこは企業秘密だ。冒険者なら切り札の一つや二つ隠し持つ者だろ」

「それはそうだが・・・・・・」


 それでも気になるのだろう、ナルミはまだまだ聞きたそうな顔をユウに向けるが、それを遮る者が現れる。


「はい、はい!ユウさん、支援者でランク6まであげたんですか?」

「そうだぞ」


 いつの間にか、近くまで来ていたライラが勢いよく手を挙げて質問をしてくる。


 支援者

 読んで字の如く、支援系の立ち位置であり、冒険者の中でも数多く存在しており主に戦闘に不慣れな者や戦えない達が、戦闘向けな冒険者達に着いて行き戦闘、探索のサポートをしていく。

 ダンジョンのマッピングから案内、大きな荷物・素材の運搬、罠の解除、索敵、偵察、魔物の素材・魔石の剥ぎ取り、ポーション・武器の補給・補充などと数多く仕事が存在する。

 冒険者にとっては非常にありがたい存在ではあるが、寄生虫、一人では何も出来ない軟弱者と罵り、蔑む者も数多くいる。 


 そんな支援者でありながらレキオン帝国での冒険者で頂点の一角にユウは立っていた。


「と言っても俺は色々と例外なんだがな」

「例外・・・・・・ですか?」

「それも企業秘密だ」

「む〜これも秘密ですか」

「はっはっは、秘密が多くて悪いな」


 頬を膨らますライラを可愛く思いながら、ユウは指先でライラの膨らんだ頬を突きながら笑う。

 その姿に嫉妬したのか、ナルミが襲いかかるも2度目はユウに通用せずに上手いこと躱さていった。

 

 

 ライラ達も一通り質問を終え、再度ダンジョン探索を再開させようとした瞬間、ライラ達の後方から燃え盛る炎の火球がユウに迫る。


「〜〜〜ッぶね!!?」


 命の危険を感じたのか、驚異的な反射神経をもってスレスレで火球を躱すも、髪の毛先までは無事といかずチリチリに燃えてしまった。


 ライラとナルミは敵の襲撃かと武器を構え、火球が放たれたであろう場所を向く。

 ユウも体勢を整え同じ方向を向くが、向いた先にいた人物を見て顔を困惑させる。

 

 ユウに魔法を打ち込んだ相手がレギだったからだ。


(えっ、なんであいつ俺に魔法をぶつけようとしたの?)


 混乱するユウに向かい歩き出すレギを誰も止める事はできなく、ユウの目の前まで来たレギは己の杖をスイングする要領で振りかぶる。


 ドゴッ


「うぉぉおおッ」


 振りかぶった杖はユウの腹部に当たり、苦痛に顔を歪めくの字に曲がるユウに追い打ちを掛けるレギは、今度は杖を高く掲げ振り下ろそうとする。


「わっ、わー!ダメだよレギ君!!」


 突如のレギの異常行動に動けないでいたライラだったが、更なる追い打ちを掛けようとした瞬間正気に戻り慌てて止めに入る事で、どうにか止める事ができた。


 ライラに止められレギは掲げていた杖を下ろすが、今もくの字で腹部を押さえるユウを見下す形で見て満足気に頷き離れていく。




(なんなのあの子、マジで怖いんだけど)


 腹部を襲う激痛は少しずつ収まり、立ち上がるユウは先程のレギの謎の行動に対して、怒りよりも混乱と恐怖が勝ってしまいレギに対して先程に対する追求が出来ないでいた。

 代わりにライラが追求してくれているが、無口なレギが答えるわけもなくお叱りだけで終わってしまった。


(取り敢えずこの中で一番やばい奴はライラじゃない。間違いなくレギだ)


 心の中で、引率中のレギとの関わりを減らそうと誓うユウだった。


「ハッ、ランク6が情けない姿だな」


(こいつはここで殺してもいいよな・・・・・・?)


 ユウの情けない姿に笑うナルミに本気の殺意を抱く瞬間でもあった。



「お疲れ様、これが報酬よ」


 あの後、ダンジョンでの探索を無事に5階層まで進めたユウ達は、荷物の素材や魔石が一杯になり探索を終わらせることになった。

 

 今はギルドにて、依頼を無事に終われせてたユウにエレンが報酬を渡していた。


「それにしてもユウ、随分とお疲れじゃない」

「疲れたなんてもんじゃねぇよ、ヤバいんだよアイツら!」


 モンスターの攻撃をわざと食らい痛みに悶える変態ライラ、いちいちカッコつけたり人を見下すナルシストナルミ、無口で何を考えてるか分からず突如謎の行動をするサイコパスレギとダンジョンで起きた事を話すユウにエレンは苦笑いを浮かべていた。


「やっぱり問題があったのね」

「やっぱりって何だよ!?」

「あの子達の引率する人達は何人かいたのよ。でもーー」


 個性の強すぎるライラ達に、経験豊富な冒険者達は直ぐに根を上げてしまい、酷い時は開始1時間もせずに引率を辞めてしまう者までいた。

 一時は、ライラ達の引率の依頼は取り消そうともしたが、最近の冒険者の死亡率を下げる為にも若い者達には少しでも強くなってもらいたいギルド側は、ライラ達の報酬額を上げる事で対策していたが、それも上手くいかずに報酬額が上がる一方だった。


「なるほどな。どうりで報酬額がおかしいと思ったよ。騙したなエレン」

「あら私は、今日中にお金になる仕事を渡しただけよ」

「アイツらの事を知ってたら受けなかったぞ」

「それは、ランク6のくせにギルドに全くこない貴方が悪いんじゃない。あの子達も寂しがってたわよ」

「えっ、いやそれは・・・ハハハ」


 誤魔化すように笑うユウに、エレンはため息を溢す。


「それで、明日もライラ達の引率の依頼受けてくれるかしら」

「絶対嫌だ!」

「まっ、そうよね」


 ユウは今日一番の笑顔を浮かべながら、依頼を断りやることを終えたユウは、これから先ライラ達に今後一切会わない事を願いながらギルドを後にした。

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