3話 え〜私こう言う者です

「う、う〜ん」

「あっ、起きましたかユウさん」


 頭に柔らかい感触を感じながらユウは瞼を開く。

 開いた先には、ダンジョンに埋め込まれた輝く魔石の光に反射されたライラの姿。

 

 腰元あたりまで伸びる白髪の髪色に、ぱっちりと開かれた瞳、愛嬌のある顔付き。

 その姿はまるで   を彷彿させる。


「ーーーか?」

「はい?ユウさん今なんて」


 つぶやかれた声が聞こえず耳を近づけるライラを抑え、ユウは頭に残る感触に名残惜しさを感じながら起き上がる。


「ありがとうって言ったんだ」


 誤魔化す様に感謝を述べるユウに、ライラは照れた表情を浮かべる。


「いえいえそんな・・・・・・・でもなんでユウさん突然意識をなくしたんですか」

「・・・・・・・は?」


 疑問を浮かべるライラの姿にユウは固まる


(お前らが原因だろーが!いや正確に言えばお前じゃないけど原因の一つだろうが!)


 首を絞めてきたのはナルミだが、意味分からない事で俺を揺さぶらなければ、対処は出来ていた。

 そもそもライラが俺に関わらなければ、ナルミが首を絞めてくることはなかった。

 あいつは何故か、ライラを自分のものみたいに扱っていたが、惚れているのか?

 確かに可愛いが、中身は変態だぞ。

 俺ならお断りだよ。


「やっと起きたのか」


 呆れを交えた声で喋るのは、仕方ない奴だと言わんばかりの顔を浮かべるナルミ。


「・・・・・・・」


 その姿に無性に頭にきたユウは、拳を強く握りしめる。


(帰ったらコイツ絶対に殴る)


「せっかくライラの膝枕を許してやったんだ感謝しろよ」


 偉そうに言うナルミ。


「・・・・・・・」


 もはや顔を無にして青筋を浮かべるユウの怒りは、すぐにコイツを殴ろうと思う気持ちで一杯だ。


「はぁはぁ、、、いいぃ〜」


 怒りに震えるユウを興奮した顔で見つめるライラは、初恋を知った乙女の如く潤んだ瞳で見つめる。

 そして、誰にも聞こえない声でポツリとこぼす。


「今のユウさんに襲われたらきっと私・・・・・・・ポッ」


 ゾワゾワゾワ 


 突如、謎の悪寒に襲われたユウは冷静さを取り戻すが、寒気とは違う謎の震えに怯えることになってしまった。

 今何か、聞こえてはいけない声が聞こえたような?

 ・・・・・・・取り敢えずナルミを殴るのは後だ。

 

 ちょんちょん


「ん、なんだレキ?」


 体を突いてきたレキを見ると、とある場所を指さしていた。

 

「・・・・・・・」

「?」


 相変わらずレキは喋らないせいで何が言いたいのかわからなかったが、取り敢えず指差す方を注意深く確認してみると、1階層のモンスターであるラビーラット3体がこちらに向かって走り出していた。

 

「レキ」

「・・・・・・・」

「報告は助かるんだけど、こういうのは口頭も交えて教えてくれ」

「・・・・・・・」コクコク


 本当に分かっているんだろうか。

 喋れないなりに伝えようとしてくれたんだろうけど、意思を理解するのに時間が掛かるのは問題だよな。

 レキが喋ってくれれば助かるんだけど・・・・・・・あっ!


「レキお前喋ってたよな」

「・・・・・・・?」


 レキはコテンと首を傾げ、困惑の顔を浮かべる。

 まるで何を言ってるんだろうと言わんばかりに。

 その姿は非常に可愛らしく感じるのは仕方ないだろう。

 

 レキの見た目は、非常に中性的な見た目であり、肩元あたりまであるクリーム色の髪色。

 細い体付きは少女の体より華奢に見える。


(レキって男?女?)


 疑問は湧いてくるが、今は近くまで来たラビーラットの対処が先だ。


「レキ、ライラ、ナルミ構えて」

「はい!」

「言われるまでもない」

「・・・・・・・」コク


 3人は、それぞれの武器を持ちラビーラットに挑みかかる。

 その姿を後ろで観察しながら、ユウはこのチームを冷静に分析する。


(3人の役割はしっかりしているんだよな)


 大きな盾を持ちいて相手の攻撃を防ぐライラ。

 その後ろから距離を取りつつ的確に槍でモンスターを突くナルミ。

 後方から杖を掲げ、高火力で相手を殲滅する魔法使いウィザードのレキ。


 今も1体のラビーラットの攻撃をライラが防ぎ、ラビーラットが怯んだ隙を見逃さず急所を突き上げるナルミ。

 まだ離れた場所にいた2体のラビーラットは、詠唱を終えたレキの巨大な火球により瞬く間に燃やし尽くした。


(あいつ今詠唱したよな。喋ったよな?)


 魔法を使うのには詠唱を必要とする。

 詠唱をすることにより、魔法に対する明確なイメージができ、形にすることができる。

 また長文な詠唱程、高威力な魔法とされている。

 ただし魔法を行使する際には、魔力が必須であり込められた魔力により威力が変わることもある。



(さっき打った魔法もランク2でも通用するレベルだ)


 レキ達は皆ランク1の冒険者だ。

 ナルミ、ライラの動きも悪くない。

 ランク1にしてはだが。


 帝国での力の層はとてつもなく厚い。

 同じランク同士でも明確に力の違いは出てくる。

 その中でも俺の見立てでは、レキの実力は十分にランク2でもおかしくない。


(まあ、魔法だけならな)


 ランクによる数字は、その者の適正階層ではあるが何もその者1人で挑めるレベルとは限らない。

 迷宮にはありとあらゆるモンスターが現れるだけではなく、罠、環境、地形、モンスターの数、質、種類、ありとあらゆる要素で冒険者を殺しにくる沼だ。

 なので、その迷宮を攻略するにあたってチームは必須条件である。


 それら前提を基準にその者のランクは、個人的実力、協調性、知恵、サポート力、貢献度、依頼達成数、ギルドの信頼、実績を用いて決定づけられる。

 例えば、この帝国には戦闘力の無い回復職ヒーラーがいるが、ランク6を認められた存在がいる。

 その者の癒しは、まさに奇跡の力とされている程に強力だ。


(レキの魔法の実力だけならランク2、ナルミ、ライラも駆け出しとはいえ良い動きをしている。これは将来有望かもしれないな・・・・・・・一点を除いては)


「レキさん!今の魔法私にぶつけてみて下さい!!」

「おいレキ!僕が華麗に残りのモンスターを倒そうと思ってたのに!!」

「・・・・・・・」ため息を吐きながら首をフリフリ


(個性が強すぎる)




 それからも迷宮での探索は順調に進み今は3階層まで辿り着いていた。

 道中現れたモンスターは、人間の子供サイズであるゴブリン、ロクな装備を身につけていないスケルトンが主であり、ライラ達にとっては苦戦することはなかった。

 

 俺?

 俺はあくまでも引率だからな。

 邪魔にならない所にいるだけだよ。

 あとは軽くアドバイスをするぐらい。



 

「確か3階層から現れるモンスターは、蜘蛛型のモンスターのスパイダークでしたっけ」

「正解、ちゃんと勉強しているみたいだね。えらいぞライラ」

「えへへ、ありがとうございます」

「スパイダーク、毒の牙を持つモンスターだから気をつける様に」

「毒なんて喰らわなければいいだけだ。僕なら簡単に避けるね」

「油断するなよ。迷宮じゃ何が起きるか分からないんだからな。皆ちゃんと解毒のポーションを持ってきているな」「はい!」

「フン」

「・・・・・・・」


 3人はそれぞれ解毒ポーションの瓶を見せる。


「よし大丈夫そうだな。まぁポーションが無かったら俺がなんとかするつもりだったんだがな」

「お前がか・・・・・・・」

「どうしたナルミ」

「いや・・・・・・そういえばお前は何が出来るんだ?」

「あっ、それ私も気になっていました!ユウさんのランクも気になっていましたし!」

「・・・・・・・」コクコク 

「そう言えばお前等に教えてなかったな・・・・・・・丁度いい相手もいるし見てろ」


 突如迷宮に産み落とされた全身を禍々しい黒色に包んだ大きな蜘蛛型モンスタースパイダークが現れる。

 スパイダークはユウ達の前に立ちはだかり、威嚇を交えた叫びを上げる。

 構えるライラ達を手で静止し、スパイダークにユウは近付く。

 優雅さを感じる歩みには敵への警戒は無く、まるでその者の自信を表しているように感じていた。


「先ずは、ライラの問いに答えてやる」


 スパイダークは、目前の敵に飛び付く様に襲い掛かり、己が牙を相手に突き刺そうとした瞬間ーーーー



「俺のランクは6・だ」



ーーーースパイダークは爆散した。

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