2話 ユウ死す!!

 背に腹は変えられないと、結局ユウはエレンに渡された依頼を受けることにした。

 報酬は勿論のところ、依頼内容も新人達を引率すると、そこまで難しい依頼ではなかったからだ。


「初めまして。貴方が私達の引率の方ですね!」

「エレンさん、僕は美しい方を紹介して欲しかったのですが」

「・・・・・・・・」

「ユウ紹介するわ。左からライラ、ナルミ、レギよ」


 挨拶してきた子がライラで、エレンに文句を言ってるのがナルミ、無口の子がレキか。


「どうも。君達の面倒を見ることになったユウだ」

「よろしくお願いします!」

「フン」

「・・・・・・・・」


 ライラ以外返事を返さず、ナルミはそっぽを向き、レキは何を考えているか分からない瞳でユウを見つめ続けるが、突如ニヤッと笑う。


(なんか怖いんだけど)


 早くも依頼を受けた事に後悔し出すユウだが、受けた以上ここで逃げ出してはペナルティーを受けてしまう。

 普段のユウなら特に気にしないが、今は金がなくこのままでは何処かで野宿するはめになってしまう。


「それじゃあユウ、後の事は貴方に任せるわ」


 立ち去るエレンを引き留めたかったが、ここで駄々をこねても仕方ない。

 今日1日は我慢して新人達の面倒を見ようと決意する。


「よしそれじゃあダンジョンに潜ろうか」

「はい!」

「勝手に仕切るな」

「・・・・・・・」


 ナルミ、お前殴るぞ。

 レキは何考えてるか分からなくて不気味だけど、お前よりは今のところ好感もてるわ。


「それじゃあナルミ、お前は今日ダンジョンで何をするつもりだ?」

「竜を倒し、ドラゴンスレイヤーになる」


 髪をかきあげながら格好つけるナルミ。


(何言ってんだこいつ?ダンジョンで竜が現れ出すのは、40階層の階層主からだぞ)

 

 ダンジョンでは、10階層ごとに階層主が存在し、その力は他の魔物を圧倒する力を持つまさにボスモンスター。

 今この帝国で、60階層が最高到達階層になっているのは、そこの階層主を討伐できていなからでもある。

 

「竜と言うのは、40階層の階層主のか?」

「そうだが」


 挑発的な目線をナルミはユウに向ける。

 顔が良ければ大層絵になるのだが、ナルミの顔はお世辞を入れても中の中。

 つまり普通、フツメンだ。

 そんなフツメンに挑発されても、ユウにとってはイラっとくるだけだ。

 まあイケメンでもイラっとくるが。


「お前適正ランクは?」

「・・・・・・1だ」


 バカなのこいつ?

 適正ランク1で40階層に挑むつもりかよ?


 レキオン帝国では、ダンジョンに挑む者の為に適正ランクを設けた。


 1〜10階層→ランク1

 10階層ずつの階層主までを行き来きできる強さとされており、ランクとは冒険者の強さの指標であり、オススメされる探索階層とされている。

 よって本来なら適正通りの階層で探索するのが常識なのだが、、、


(バカなんだなこいつ)

 

 そう結論づけたユウはナルミを可哀想な子を見る目で見つめるのだった。




ーダンジョン1階層


 ダンジョンの最初の階層は、ラビーラットと言う一本角のウサギだけだが、新人が突進による角をまともに受けてしまえばひとたまりもない。

 ないのだが・・・・・・


「痛いッ♡」

 

 ラビーラットの突進を避けもせずに、まともに受けたライラは刺されたお腹を恍惚とした顔で抑える。


(え〜)


 ユウはそんなライラを見てドン引きするが、それは仕方ないだろう。


「お前僕のライラに何をする!」

「ギー」


 激昂するナルミは、槍をラビーラットに突き刺し絶命させる。

 爆散する様に消えたラビーラットの所からは小さな魔石が零れ落ちる。


「大丈夫かライラ!?」


 俺はライラに駆け寄り、状態の確認をする。

 腹に出血をしている様だが、幸い傷は深くなく手持ちのポーションを使い傷を塞ぐ。


「あー!!なんて事をするんですか!!」

「おわっ!?」


 傷が治った瞬間、ライラはユウの肩を掴み力いっぱいに揺さぶる。

 ユウも突然のライラの行動に驚き、無防備に揺さ振り続けられ目を回すこととなる。


「せっかく痛・・・・・気持ちよくなっていたのに〜!」

「何言って?やめっ、目が回る〜!!」

「ポーションを使われては、気持ちよくなれないじゃないですか!」


 やだこの子、もう手遅れだ!

 痛いの大好きとは聞いていたが、これもう完全に変態級のドMじゃねえかよ!!

 ここダンジョンだぞ!!


「・・・・・・」

「ん?」


 ポンポンと俺の肩を叩くレキは俺が視線を向けると、親指をたてサムズアップする。


「?」


 どゆ事?

 無口な所為で、いまいちレキが何を考えてるのが分からず、コミニケーションに困ってしまう。

 ダンジョンに来るまでに、色々とコミニケーションを取ったのだが、リアクションの一つも取らずにただ黙るだけ。

 やっと自分から何か行動したのに、その行動がよく分からない。

 

「おい皆、僕の活躍はどうだったかと聞いているんだが」


 何やらラビーラットを倒してから、ナルミはずっと喋っていたようだが、3人はそれに気付いていなかった。

 ナルミは、そんな3人に目線を向けると目を大きく見開き憤怒の表情でもってユウに近づく。


「おいお前!僕のライラに引っ付くな!」

「グエッ」


 ライラに振り回されてる姿に嫉妬したのか、ナルミはユウの首を締め付けてくる。


(じ、じぬ〜〜ゥ)


 ライラに揺さぶられてる最中に首を絞めてきたこともあり、対処が出来なかったユウはろくな抵抗も出来ず意識が暗転していき、数秒もしない内に気絶することになってしまうのだった。


「ちょとナルミさん気持ち悪いんですけど。私ナルミさんのものじゃあないですし」

「ふっ、照れてる姿も可愛いよナルミ」(ウィンク)

「あ、あの私そういうの本当に無理なので近づかないでください」

「そんな事を言ってられるのも今のうちだよ」

「ヒィ!」

「・・・・・・・死んじゃうよ」

「「?・・・・・・・あっ!」」


 閉じかける瞬間に見た3人の姿に、ユウは熱烈に思う。


(借金してでも金払うから帰らせてくれ)


 それはもう誠実に思うのであった。




(あとレキ、お前喋れるのかよ)





 

「先輩、先輩」

「ん、何かしら」


 冒険者ギルドにて受付嬢の仕事をしていたライラは、入ったばかりで後輩にあたる受付嬢に呼び止められる。


「ライラちゃん達をアイツに任せてよかったんですか?」

「・・・どう言う意味かしら」

「だってアイツ、クロ様のヒモでクズ野郎ですよね」


 声には明らかな侮蔑と軽蔑が孕んでいたが、その言葉を発した瞬間近くにいた受付嬢達は震え上がる。

 何故ならエレンの前であの人、ユウの悪口を言うのは禁句なのだ。

 今も、ユウに対する悪口を言い続ける後輩に、切れ長な目を細め絶対零度の視線を向けるが、当の本人はそのことに気づいていない。


 それにそんな目線を向けるのはエレンだけではない。

 他にも何人かの優・秀・な受付嬢、そして聞き耳を立てていたのかはたまた元より聴覚に優れているのか青筋を立てる幾人かの高・ラ・ン・ク・冒険者。


 その場はまさに極寒より冷え込まれていて、流石にその異変に気付いたのか怯え始める後輩の受付嬢。

 

「そう言えば貴方はまだ知らないのね」

「なっ・・・何、をでしょう、か」

「彼をよ」


 綺麗な笑みを浮かべるエレンは決して威圧をしてるわけじゃない。

 なのに後輩の受付嬢は、震えが止まらなく、顔色を青くする。


「そうね、なら教えてあげるわ。彼はねーーーー」


 それから一通りユウの事について話したエレンは、満足したのかその場を去る。

 去るエレンを見据えながら、先程よりも顔色を青くした受付嬢はその場にヘタリ込み体を震わす。

 その震えは、エレンに対しての震えではなく先程までのアイツを・・・・・・あの方を侮辱した自分の愚かしさと馬鹿さ加減にだ。

 知らなかったで済まされるにはあまりにも許されない。



 

「いいのエレン?」


 仕事に戻るエレンに話しかけるのはエレンと同期の受付嬢で、先程の後輩に殺気混じりの視線を向けていた受付嬢。


「あの子を叱らなくて」

「いいのよあれくらいで、十分に反省したみたいだし」

「エレンは優しいな〜」

「そうかしら・・・・・?」

「そうだよ。だって私なら・・・・・・殴り殺しちゃうもん」

「冗談よね?」

「・・・・・・勿論だよ!」

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