めんどくさがりの癒し手は自分の影響力を知らない

@Reiben0520

1話 生きるのには金が必要

 君は愛する者の為に愛する者を殺せるだろうか?

 そしてその者の為に自分を犠牲にできるだろうか?

 俺はーーー




 落雷が落ちる草原に、二人の少年少女がいた。

 幼さを残す美しい少女は、少年に抱き抱えられながら体を地に沈めていた。

 抱えられている少女の胸元には大きな傷があり、傷口からはとめどない血が吹き出していた

 少年は少女の胸元を抑えながら癒しの魔法を試みるが、傷口が治る事ななく刻一刻と少女の体温と命を奪っていく。


「治れ!治れ!治れよ!!」


 泣き叫ぶ少年の手に少女は己の手を重ね合わせる。


「うっ、ユウも、、ういいのゲホッ・・・・・私は」

「いいわけないだろ!!待ってろ今俺が治すから!」


 吐血する少女は、今にも死に近ずいているのにその顔は儚く微笑んでいた。


「お願い・・・・・ユウ、この、国を」

「ふざけるな!俺は国の為じゃない!俺は、俺は、、お前の為に・・・・・・」


 瞳から溢れ落ちる涙が少女を濡らしていく。

 いくら癒しの魔法をかけようともそれらが効果を発揮することはない。


 少年自身ももう気がついていた。

 少女はもう助からない。

 己にとっては命よりも大切な存在であり、何者にも代え難い彼女を失ってしまう。

 少年にそれを受けいられる事は出来ない。

 

「ユウ・・・・・・お願い、ゴホッ、、私を殺して」

「やだ!そんなの!そんなの!」


 少女のお願いに、首を振りながら拒絶する少年の声は悲痛に満ちていてた。


「ユウ!!」

「ッ」


 少女の叫びに肩を振るわせながら、涙に濡れる瞳で少女を見つめる。

 そこには、儚くも優しい笑みを浮かべる彼女がいて、自分を真っ直ぐに見つめる。


「もう、時間がないの・・・・・・私を、起点に、、呪いが伝染していく、はぁ、はぁ、このままじゃうっ、、国が、私達の国が滅ん、じゃう。だからーー」


ーー私を殺して


 落雷が近くに落ち少女の言葉が掻き消される。

 最後の少女の声は聞こえなかったが、少年は理解していた。

 

 少女が負った傷には呪いが掛けられており、呪いは少女の生命を吸い取り少女の死と同時に周辺に広がっていく。

 莫大な生命力を宿す少女には余りにも相性が良くそして最悪な呪いだ。

 呪いの被害を抑えるには、吸い取る生命体の命を刈り取れば済む話ではあるが、それは少女の死を意味することになる。


 出来ない。

 出来るはずがない!!

 彼女を己の手で殺すことなど。

 

 頭が揺れる、視界が霞む、心がどすしようもなく痛く張り裂けそうだ。

 悪い夢なら覚めてしまいたい。

 だがこれは現実だ。

 重なる少女の手は温かさを無くしつつあるのに確かな体温を感じこれが夢である事を否定する。


 少年は今一度少女の顔を、瞳を見つめる。


(あぁ・・・・・・変わらないな)


 初めて出会った時の瞳をそのままに少女は真っ直ぐに少年を見つめていた。

 最早少年少女に言葉は不要だった。

 

 だからこそ少年は、その手で彼女をーー




「久々にあの夢を見たな」


 俺は、ぐっしょり濡れる自分の服を煩わしく感じる。

 悪夢にうなされ沢山汗を掻いたんだな。


「あ〜マジで最悪だ〜」


 濡れる服を気にせずに俺は2度目の睡眠を貪ろうとベットに体を沈める。

 お休み〜〜zzz



「お休みじゃないですよ!!」

「うぉおお!!」


 突然の叫び声と共に、俺はベットから引き摺り出される。

 誰だ!俺の睡眠を邪魔するのは!!


 寝惚ける目で、俺を引き摺り落とした人物を確認する。

 俺を引き摺り出した人物は、幼い少女だった。 


 茶髪の髪に深緑色の瞳を宿し、元気満々と言った感じの美少女だ。

 この少女は俺が今住んでる宿屋の看板娘、メイリィちゃんだった。


「何するんだよメイリィちゃん!」

「何するんだじゃないですよ!もう朝ですよユウさん!」

「俺はもう一回寝るからほっといてくれ」

「そんな事言ってユウさん、今日泊まるお金持ってるんですか?」


 ギクッ

 

「なっ、何言ってるんだいメイリィちゃん」

「昨日、酔っ払ったユウさんが言ってたじゃないですか。『くそぅ〜負けた〜!!』って」


 俺の声を真似て発言した内容は、まさに昨日俺が言った内容だ。


「そ、そそ、それがどうしたんだよ?」

「私知ってるんですよ。昨日ユウさんがギャンブルをしていた事」


 クソッ、バレてる。 

 確かに昨日の俺は、ギャンブルで負けて帰ったけど、それが何だよ!


「ユウさんがギャンブルで負ける時っていつもお金が0じゃないですか」

「うっ」


 仕方ないだろ、負けたままで帰れるわけない。

 いいか!ギャンブルで勝つには、賭けるしかないだろ!

 金がある内は負けじゃないんだ!


「そんなこと熱弁されても騙されませんよ!ユウさんお金ないんですよね!?」

「はい。手持ちはありません」


 メイリィちゃんの問い掛けに、俺は諦めて白状する。

 それに対して、メイリィちゃんはニッコリと微笑み死刑宣告をする。


「働いてください」

「えっ」

「働いてください、ユウさん」


 ゴゴゴッと、メイリィちゃんの後ろから鬼と思わしき幻影と圧を感じる。


「ユウさん、お金を持っていない方を泊めるわけにはいきません」

「メイリィちゃん、俺ここの常連だけど」

「それが?」


 微笑むメイリィに、ユウは目を合わせる事が出来ず目を逸らす。


「ユウさん」

「はい」

「夜までにお金を払って下さい」

「そんな〜」


 情けない声を出しながらユウは宿から出ていく。

 そんな情けないユウの後ろ姿を見ながらメイリィは頭を深く下げながらユウに聞こえない声で呟く。


「お帰りお待ちしています。『癒し手』様」




「くそ〜働きたくねぇー。クロはまだ帰ってこないし、どうしろってんだ」


 俺は、一緒に暮らしてるクロの帰りを期待していんだが、アイツは今ダンジョンにいるだろうし暫く帰ってこないだろう。


「ダンジョンか〜」


 ここ、レキオン帝国の帝都の真下にはダンジョンが存在する。

 ダンジョンの規模はとてつもなく広くまた深い。

 現在判明している階層でも60階層まで存在する。

 下の階層に行くにつれダンジョンで産まれる魔物は強くなるのだが、冒険者達は下の階層に挑み続ける。

 何故ならダンジョンの攻略は、冒険者達にとっては名誉な事であり、巨万の富を築き上げられからだ。


 ダンジョンでは、魔物を倒すことにより魔石とドロップアイテムを落としてくれるのだが、下の階層に行く程魔物の落とす魔石とドロップアイテムの質は上がっていき希少価値になり、結果報酬が多くなる。

 魔石やドロップアイテムは、武具や薬品、道具の開発など多岐に渡り使い道に困らない程だ。

 そうした背景があり、ここレキオン帝国は繁栄を築き上げたのである。


「仕方ねぇ、久々に潜るか〜」


 金を稼ぐならダンジョン!

 命のリスクはあれど、下の階層に行けば、希少素材レアドロップが落ちて一発逆転の可能性は大いにある。

 今は金だ!金!


「そうと決まればまずは、冒険者ギルドに行こう」




「いい依頼はねえのか!」

「料理が出来上がりました!」

「ふざけんな!このドロップアイテムはもっと高くしろ!」

「どなたか、私とパーティーを組んでください!」


 冒険者ギルドでは、人々が騒がしく動き回っていて繁盛しているようだ。

 

「相変わらず此処は騒がしいな〜」


 冒険者ギルドに入った瞬間、騒がしかった一部の人間が黙り込みユウを視界に捉える。

 ユウの姿を見るなり、コソコソと話し始めるがその声には悪意的なものを感じた。


「おいユウだぞ」

「クロ様のヒモ」

「アイツが来るなんて珍しいな」

「今度はどんな奴をたらし込むんだ」


 ユウの存在を知っている者は数多く存在するのだが、好意的な目を向ける者は少なく、寧ろ蔑みの目線を向けるものが多い。


(俺が悪いとは言え、そんなあからさまに見なくても)


 問題ごとをよく起こす事があるユウは、良い意味でも悪い意味でも目立つ。

 ダンジョンでのトラブル、女性間とのトラブル、中でもクロを慕う者達にとっては、ユウは憎き敵になってしまうのだ。


(高位冒険者ユウのヒモって言われてるから仕方ないけど)


 ハァ、と憂鬱なため息を溢し冒険者達の受付をしている窓口まで向かう。

 窓口では見目麗しい女性達が忙しなく動き回っていた。

 日々命懸けの冒険をする冒険者達に、意欲向上を目的とする為に綺麗で可愛い子達が雇われているのだ。

 美人に相手されれば、大抵の男はやる気を出す事をよく理解している冒険者ギルド。

 ユウは、顔馴染みの受付嬢に声をかける。


「エレン、何か稼げる依頼ない?」

「あら、久しぶりじゃないユウ」


 声をかけた受付嬢は、受付嬢の中でも一際美しい女性であり、冒険者達の間でも『受付してもらいたい女性』なるもので最上位を勝ち取る程だ。

 切れ長なまつ毛、青空を彷彿とする青髪と冷徹さを想起させる琥珀の瞳、厳しそうな雰囲気を醸し出すが、面倒見は良く冒険者達からも姐さんと慕われているらしい。


「またお金に困ってるの?」

「そうなんだよ。メイリィちゃんが夜までにお金払わないと泊めてくれないってさ」

「それは自業自得じゃない」


 仕方ないわねぇと呆れながらも、報酬の良い依頼を探す辺り慕われる理由がよく分かる。


「依頼内容はダンジョン関連でいいのよのね」

「ああ、暫く働かなくていい高額の依頼をね」

「なら・・・・・これね」

「どれどれ・・・・・・ん?」


 依頼の内容を確認し、首を傾げるユウ。


「新人冒険者の付き添い?」

「そうなのよ。ここ最近、新人達の育成に熱心でね」

「またなんで?」

「・・・・・・死亡率が増えてるよのよ、冒険者の」


 だから新人の面倒を見ろと。


「めんどくせぇ〜」

「受けなくてもいいけど、報酬を見てみなさい」

「どれどれ・・・・・・20万ゴールド!?」


 20万ゴールドは、国民1人が1ヶ月間働いた報酬額になる。

 新人冒険者を見るだけでそれ程の報酬を貰えるのは美味しすぎる。


「貴方が面倒見る冒険者は少々特殊でね」

「特殊?」

「3人パーティなんだけど報告によると、痛いの大好き娘と、ナルシストフツメンの男、無口サイコパス少年?って書いてあるわね」


 ・・・・・・帰っていい?

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