19話 クソ上司、スライムに完全に溶かされて伝説になるw
10階でオーガと戦闘中の同業者と遭遇した。
ここが観光目的の一般人を連れて移動できる限界地点だ。オーガに襲われたら、一般人は普通に食べられてしまう。ここから先を進めるのは、戦闘経験を積んだ冒険者か重火器で武装した軍人くらいだ。
素人の能力を、ベテラン冒険者にまで引き上げることのできるトッシュだけが、ここから先に一般人を連れていくことができる。
重武装の冒険者8人が、一般人2人を護衛しているようだ。
大盾を構えた全身甲冑の戦士4人が一派人の周囲を囲み、さらに魔術師が結界を張って徹底防御している。おそらくツアー料金1000万円くらいだろう。
「ちわーす。6階でお化けキノコが大量発生しそうな感じだったので、早めに引き上げた方がいいかもしれませんよ」
同業者の礼儀として、トッシュは一応声をかけた。ハイキングですれ違うくらいのノリだ。
「あ、はい。どうもー」と戦士が軽いノリで返事してから「ええっ?!」と叫んだ。
すでにすたすたと去っていくトッシュの背後に、騒ぎが聞こえてくる。
「お、おい、今の、なんだ。へんてこな服装だったけど武器も持たずに、私服の男が一般通過していったぞ」
「デスゴーストとヘルハウンドがいる階層を一人で超えてきたのか?! う、嘘だろ」
「お、俺たちがモンスターをあらかたか倒したから……」
「おい。お前だって初めてじゃないんだ。モンスターは自然発生するって、知ってるだろ」
「じゃあ、なんだったんだ、あいつ……」
トッシュはすたすたと進んでいく、曲がり角の手前の邪魔ところに、一回りデカいオーガがいて邪魔だったから、相手のステータスを10分の1にして、腹をワンパンで悶絶させて、通り過ぎた。
離れた位置から「嘘だ!」「ありえない!」「強すぎる!」「A級の上位に違いない!」などと聞こえてきた。
それからさっくりと20階まで降りて私物の懐中電灯を回収した。ステータス編集で館に電気を流すことはできないが、懐中電灯の電池残量は編集できるので、これで灯り問題が解決だ。
トッシュはダンジョンを登っていく。8階で、先ほど遭遇したパーティーが帰るところに遭遇した。何やら揉めているようだ。
「ちーっす。どうかしたんですか?」
「さっきのあんたか。ここで止まった方がいい。この先に、レッドドラゴンが発生した。まさか8階で出るなんて……」
「あ。珍しいっすね」
「うまく誘導して他のモンスターとつぶしあってもらうしかないが……」
「あー。(普通に戦えば勝てるんだろうけど、お客さんを無傷で返さないといけないから)大変っすね。ツアーにドラゴン討伐ショーの予定ってあります?」
「いや、ないが」
「あ。じゃあ、適当に倒しちゃっていいっすね?」
「は? あ、おい、待て!」
トッシュはジョギング感覚で走っていく。
レッドドラゴンが炎を吐いてきたから自分と服の熱耐性をSにして無効化し、ドラゴンの懐に潜りこむ。
そして定番の、防御力ゼロに編集してからの、腹パン。
しかし、HPも高いらしくレッドドラゴンは一撃では倒れなかった。仕方ないから、5、6発連続パンチをくらわす。そうしたらドラゴンは動かなくなった。
「素材もらっとくか。ステータス編集でサイズを10分の1にして、と」
ドラゴンが大型犬くらいのサイズになったので、しっぽを掴んで背負ってトッシュは走りだす。
そして、一階まで戻ってきた。
日人がまだ倒れていた。下半身全体がスライムに取り込まれている。
日人は皮膚が溶け始めているが、スライムが麻痺毒をもっているタイプなので下半身の感覚がなくなっており、自分が溶けていることに気づいていない。
半分意識は飛んでいて、ときおりビクンビクンと揺れる。神経にスライム粘液が触れて反応しているのだ。
トッシュはさすがに、ありえないことだが、日人がスライムに捕食されているのではないかと思った。
(いや、でも、入り口で1000円くらいで売っているファイヤーボトル(火炎ダメージを与える使い捨てモンスター)を使えば小学生でも倒せるくらいのクソザコモンスターに、戦闘支援課の課長が負けるか? コネ入社でも研修くらい受けてるよな? ……あっ! そういうことか! 変態プレイだ! スライム風俗だ! うーわ。そういう変態がいるって聞いてたけど、弊社にもいたのかあ……。放置してやった方がいいよな)
ということで、トッシュは日人を放置することにした。
(まあ、あんなやつでももと上司だしなあ……)
放置しておいたら、さっき遭遇したパーティーが日人を見つけてしまうだろう。
だから、トッシュはドラゴンの爪を使って壁に『迂回せよ』と書いておいた。念のため、地面にも石を3個等間隔で並べておいた。
これで、石を見つけた彼らは周囲を観察し、壁のメッセージに気づくだろう。
「はーあ。嫌な奴にも優しくするなんて、俺っていい奴だな」
トッシュは日人を迂回してダンジョン出口を目指す。
すると、出口を出たところで、ちょうど、「会社の経費で買ったのに私物化されている、もう一台の車」がやって来るのが見えた。
「金星か。あーあ。俺って、本当、いい奴だよな」
トッシュは日人の車のステータスを編集して、色を黒から赤に変えた。
そしてダンジョン内に戻り、さいさい日人の意識がなかったからスマホを取り、金星に電話をかける。
「パパ。俺だけど」
「おおっ! 日人、無事だったか。助けに来たぞ」
「それなんだけど、来てくれてありがとう。連絡が遅れたけど、俺、もう家に帰ったから」
「え? そうなのか?」
「うん。じゃあ、また会社で会おうぜ」
「あ、ああ」
電話を切った。
「ふう。これで、変態プレイで絶頂しているところを父親に見られずに済んでよかったな。まったく、いいことしたぜ」
こうして、日人は誰からも発見されることなく、土日をかけてじっくりとスライムに全身を溶かされて完全捕食された。
のちに、金星日人の名前は世界融合後の、「冒険者ギルド上位職でありながらダンジョン1階層のスライムと性行為を試みて溶かされたアホ」として、広く知れ渡ることになる。
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