18話 無自覚のまま元上司を煽る
トッシュはネイを自宅に案内して、一階のパーティーホールを見せた。
「どうです。こんだけ広いなら余裕でしょ?」
「ああ。戦闘支援課の者が全員来ても余るな。それはそうと電気は?」
「来てないんですよねえ。あ。懐中電灯」
「どうした?」
「ああ。いや。現場に業務用の強力な懐中電灯をおきっぱにしてたこと思い出したんです。あれがあれば便利なんだけど、ん-」
トッシュはスマホで時間を確認する。今15時で、新居祝いが19時からだ。4時間ある。
「全力ダッシュで駅に行って現場に移動してダンジョンを潜って懐中電灯を拾ってくるとして、時間が足りない」
「往路は無理だが、復路なら私の妖刀のスキルで移動できるぞ」
「あ。じゃあ、すみませんけど、バックアップお願いします」
「ああ。任せろ」
ということでトッシュはネイとともに、あとついでにシルを連れてダンジョンに向かった。道中で電車の乗り方をシルに教えてあげた。
ダンジョンの最寄り駅でトッシュは二人と別れることにした。シルはクマクマスーツがあれば、10階層くらいまでノーダメージで潜れそうだし、ネイもいるから危険は一切ない。
しかし、幼い子供を万が一にも危険にさらすわけにはいかない。
ふたりは駅近くのカフェで休憩だ。
「じゃあ、サクッと行ってきますので、待っていてください」
「ああ。行ってこい」
「トッシュいってらっしゃい!」
「おう。またなー」
トッシュは走ってダンジョンに向かった。すぐに都会を離れて山奥になり、いかにもという感じのダンジョンに到着した。
「ん?」
ダンジョンわきの駐車場――観光地と化しつつあるので駐車場が整備されているし、小さなアイテムショップもある――に、なんか見覚えのある車があった。
「あれは、会社の経費で買っておきながら金星親子が私物化している社用車? ああ。日人は一応、下見に来たんだ。ろくでもないやつかと思っていたんだけど、考えを少し改めるか」
トッシュはダンジョンわきにある、入迷宮記録書に名前を書いた。リストには金星日人と書いてあった。
「あー。やっぱあいつ来てたんだ」
トッシュはダンジョンに入った。一階なら、スキルを使わなくても余裕で踏破できるが、時間をかけたくないので全ステータスを3倍にした。
トッシュはジョギング感覚で軽く走る。それでも、短距離の陸上選手よりも早い。さらに、回復能力も上がっているため、疲れない。
さっさと二階層に降りよう……というところで、日人を見つけた。
日人はスライムに脚を膝までつっこんで、地面に倒れていた。
「……なにやってんですか」
「げ。貴様ッ!」
「……スライムに襲われている? いや、いくらなんでも、ありえないよな? コネ入社で実力不明とはいえ、戦闘支援課の課長だし」
「あっ、当たり前だ! 俺は貴様よりはるかに優秀なスキルが使えるんだぞ!」
うーん。いくらなんでも、強がっている可能性はないよな?
いつも二級スキルを持っているって自慢していたから、本人がどれだけ無能でも10階層くらいまでは余裕でごり押しできるよな?
ギルド唯一の一級スキル持ちのA級冒険者ネイさんをさしおいて課長になるくらいだから、こんな、「地球人の一般ウィークエンド冒険者でも勝てるスライム」に負けて、捕食される寸前のはずがない。
あっ!
「美容か! びびったあ。俺の元職場の上司がクソザコモンスターに負けているのかと思ったわ」
なんか世の中には、意図的にスライムに襲わせて脱毛したり体表の老廃棄物を処理したりする人がいるらしい。
キモイと思ったけど、なんか地球ではな伝統的な文化だから、キモイとは言ってはいけないのかもしれないが。
「いつでも倒せるけど、意図的にスライムに脚をつっこんでるのか!」
「当たり前だ! スライムに後れを取るはずがないだろ!」
「そりゃそうだ。じゃあな」
「貴様! 上司に向かってその態度はなんだ!」
「クビになったんだから他人だろ。お前に使う敬意なんてねえよ」
トッシュは日人を放置して二階層に降りていった。見栄を張った日人は「助けてくれ」の一言を言えなかったらしい。
その後もトッシュはジョギング感覚で二階層をサクサク踏破。
三階層で犬型モンスターに遭遇した。日人が手も足も出なかったモンスターだ。
「お。こんなところに、なんとかドッグの群れがいる」
トッシュは気配を断ち、群れの一頭に触れてみる。
「ステータスオープン。あー。普通の犬くらいの強さだ。いきなり襲い掛かってくることもないだろうし、ウィークエンド冒険者には手ごろな相手だな」
たいしたことない雑魚だから放置することにした。
トッシュはスマホに保存してあるマップを見ながらダンジョンをサクサク進んでいく。
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