14話 まったり無職ライフ。シルが自転車の練習をする
トッシュとシルはふたりしてぼへーっと窓から外を見てる。たまに、トッシュは目に映るものの名前や用途をシルに教えた。
とはいえ、真面目な勉強会でもないので、適当にだらだらと過ごす。
喫茶店をひとりで切り盛りしているらしき年配の店主も特に迷惑がっている様子はないから、コーヒーのおかわりをしつつ、トッシュによる現代日本講座は続いた。
なお、トッシュの知るところではないが、業腹なことに元上司の日人は同じくぼへーっとしている。社長の息子だから働かずにぼーっとしていても、だれからも怒られないのだ。
今はネットで異世界人種のエッチな画像を見てニヤニヤしている。エルフのエロ画像を探してギンギンだ。
なお夜中になると背後のガラス窓にパソコン画面が反射して映り込むため、彼が会社でアダルトサイトを見ていることは、ギルドメンバーの大半が知っている。
さて。
11時30分くらいに、店主が気をきかせてシルのために、メニュに―載っていないオムライスを作ってくれた。
12時くらいになると客足が増えてきたので、トッシュ達は店主にお礼を言って退店した。
「いい店だったなー。通いたい」
「うん。おじいちゃん、優しかった。これ貰った」
「あー。飴もらってたね。それは甘い食べ物だよ。包み紙から出して、口の中に入れるの。噛んじゃ駄目。舐めていると甘い味がするから」
「こう?」
「うん。噛んだり呑みこんだりしないように、口の中で転がしてて」
「うん!」
「さーてと。まずは自転車を買うことに決めたんだよな? 店員さんに教えてもらった店はあっちかな」
「こっちだよ」
「お。シルは方向感覚有るんだな。偉いぞ」
「えへへ」
その時、お昼時で賑わい始めた歩道に、自転車かバイクか原付か分からないが、とにかく1人乗りの二輪車が猛スピードで走ってきた。
歩行者すれすれをすり抜けてきて非常に危険だ。
「ああいうの、真似しちゃ駄目だからね?」
「うん」
二輪車がふたりに接近する。
すれ違う瞬間、トッシュは二輪車を運転する男の服に一瞬だけ触れ、耐久値を0にした。
しばらくすると背後から「きゃー、痴漢」「変質者!」「全裸の男だ!」と叫び声が聞こえてきた。
ふたりは自転車屋に行き、シル用の自転車を物色した。
荒れ地を走ることを想定して、タイヤが太くて頑丈なマウンテンバイクを買った。
さっそく練習のために、車の走っていないファンタジーエリアへと向かう。
「荒野は人にぶつかる心配もないから、好きなだけ乗って。さっきみたいに人間がいっぱいいるところじゃ、乗ったら駄目だからね」
「う、うん! 頑張る!」
シルは自転車初心者だが、補助輪なしのマウンテンバイクでいきなり荒れ地デビューだ。
普通の自転車みたいな後部の荷台がないから、トッシュが後ろから支えることもできない。
ぶっつけ本番だ。
なんというか、現代日本人の感覚とはちょっとズレてるからしょうがない。 彼ら異世界人は『スキル覚えたしダンジョン行くか』くらいのノリで生きている。
「やってみる……! う、動いた! 動いたよ! トッシュ! 見て! 動いてる!」
「見てる。見てる。その調子で頑張って」
「分かった! 絶対に目を離したら駄目だからね!」
初めて自転車に乗ったシルは大興奮だ。いきなり全力で漕いでいるし、かなり度胸がある。
トッシュは後方を走ってシルを見守る。
思い切りの良さが功を奏したのか、シルは初めて乗った自転車を普通に乗りこなした。
「凄い! トッシュ凄い! 早い!」
「もっとスピード出せるよ。頑張って」
「凄い! 楽しい!」
「あー。これだったらなんの心配も要らないな」
一方その頃、トッシュの元上司日人は昼休憩中に街を歩いていた。
突如、宅配代行サービスの自転車が日人の眼前ギリギリを通過。日人は驚いて転んで、犬のうんこの上に尻餅をついた。
不機嫌になった彼はもうその日の業務を終えて家に帰ることにした。次期ギルマスの彼は、8時間勤務しなくても誰も何も言わない。
日人はトッシュの業務を引き継いだのだから、「依頼主が土日にダンジョン探索」できるよう、平日のうちに事前にルートやトラップの位置を確認をしたり、危険なモンスターを排除したりして、ザコモンスターや宝箱を配置するなどの業務をするべきなのだが、まだ何もしてない。
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