5話 ロリエルフをシャワーでビビらす

「朝食も済んだので、シャワーを浴びてもらいます」


「シャワー?」


「水浴びとか沐浴って言えば通じる? その、ね、ほら、何処から旅してきたか分からないし、部屋の前に座り込んでいたから、ね?」


「わたし、臭い?」


「臭くないよ! 人が気を遣って遠回しに言っているんだから、気付かないでいいからね?! シルは綺麗だけど、衛生的にちょっとね」


「わたし、綺麗?」


「綺麗だよ。可愛い! 綺麗! さすがエルフ! だから、シャワー浴びようね」


「うん」


「こっち。ここがシャワールーム。服、脱いで」


「うん」


 ポンッと音が鳴り、シルの着ていたクマのぬいぐるみが消えた。

 シルは白いシャツ一枚になった。手元には、クレーンゲームで取ったようなぬいぐるみがある。


「あれ? 今の着ぐるみって、スキルだったの?」


「うん。ぬいぐるみを着ぐるみにするスキル」


「へえ。面白いスキルだね。俺のもそのうち見せてあげるよ」


「うん」


 シルが全裸になったので、トッシュは浴室に移動する。


「エルフ的に、冷たい水って平気だよね?」


「うん」


「これが、シャワー。雨を降らす魔道具です」


「雨を?!」


「万歳して。こう、両手を上に上げるの」


「うん!」


 はあはあ……!

 トッシュはめっちゃ興奮している。

 ロリエルフの裸を見てるからではない。これから、異世界人が地球の文明に触れて驚き散らかすのが楽しみで興奮しているのだ。


「精霊へお祈りを捧げるから、よく聞いて覚えてね(うく。うくくく。ダメだ。笑うな……)」


「うん!」


 トッシュが操作しようとしているのは、現代日本に普及している普通のシャワーだ。


「水の精霊シャワーよ。我に恵の雨を授けたまえ!」


 トッシュがハンドルを回すと、シャワーヘッドから温めの水がシャワワァと出てきた。


 シルが限界まで目を大きくかっぴらいた。


「わあっ! 凄い! トッシュ凄い! 雨を降らせた! 凄い! トッシュはエルフじゃないのに精霊使いなの?!」


「くっくっくっ……。驚くのはまだ早いぜ。炎の精霊よ、水を暖かくしたまえ!」


「わ、わ、水が温かくなってきた! 凄い! トッシュ凄い! 水と火の精霊を同時に使えるなんて!」


 シルが驚きのあまりに後ろに倒れそうになったので、トッシュはお尻を支えて助ける。


「ふっふっふっ。凄いだろう。我が精霊魔術は!」


「す、すごい。温かい雨を降らせるなんて、長老もパパもママも出来ない……」


「髪がいい感じに水分を吸ったら、これだ。シル、目を閉じて」


「うん」


「泡の精霊シャン・プーよ、髪を綺麗にしたまえ」


「あ、あれ」


「さあ、驚け!」


「や、やあ! これ、やだぁ! 頭ピリピリするー!」


 シルは頭をブルブルした。

 思いっきり水と泡が跳ねてトッシュの顔にかかる。


 さすがに、ちょっと申し訳なくなった。おふざけ終了だ。


「男用のスーッとするシャンプーは、駄目かあ。ごめんね。洗い落とすからじっとして」


「やー」


 シルが逃げようとするからアッシュは腕を掴んで阻止。


「洗い落とせばスースーするの収まるから我慢して」


「うー」


 トッシュはシャンプーブラシを使おうかと思ったが、女の子の長い髪をブラシのツンツンでゴリゴリやってもいいか分からないので、シャワーを優しく当てて丁寧に泡を洗い流した。


「うー。シャン・プーは良くない精霊。邪霊だよ……」


「ごめんごめん。別にシャン・プーは邪霊じゃないから。男用のを使った俺のミス。あとで女性用か子供用を買おう。それと、ごめん。シャワーの精霊っていうのも嘘で、これは日本の道具。ここを回すと水が出て、こっちのを回すと温度が変わるの。この青い方が冷たくて、赤い方が暖かいの。すっごい熱いお湯も出るから、ゆっくり回して調節してね」


「お、覚える」


「大丈夫。慣れないうちは手伝ってあげるから」


「うん!」


「水が冷たくて赤が暖かいのは、だいたい日本の共通ルールみたいなところあるから、覚えておいて。自販機とかね」


「自販機?」


「いつか見せてあげるよ。というか、シルの反応が面白いから絶対に見せる」


「??」


「自販機はまたこんどで、これ、ボディソープで、こっちがスポンジ。スポンジに、少し出してこすると泡になるから、これで体を洗って。これはスースーしないから安心していいよ」


「うん」


「泡だらけになったら、シャワーで泡を流す。できる?」


「で、できると思う……」


「じゃあ、あとはひとりで頑張って。困ったら呼んで」


「や、やだ。ひとり、不安……」


「洗ってあげたいんだけど、なんか日本だと、小さい女の子は男と一緒にシャワーやお風呂を使ったらいけない決まりがあるらしいんだよ。だから、ひとりで頑張って。一応、俺、そういうのを護る職業だから」


「分かった……」


「俺以外に裸を見せたら駄目だからね?」


「うん」


「狭い部屋だし直ぐ隣にいるから、何かあったら呼んで」


 トッシュはシルを残してシャワールームを出た。


 洗面台の下の棚を漁る。


「シルの着替えは、買ったけど着てないアニメTシャツを渡すとして、まずはバスタオル……。何処かに新聞勧誘かなんかで貰った新品が有った気が……。あったあった。くくくっ。バスタオルで拭いた後、炎と風の融合精霊ドライヤーを使うのが楽しみだ」


 シルの父は火と風の精霊を同時に召喚して炎の嵐を起こすことができるが、温かい風を作ることはできない。きっと、シルはドライヤーに驚くはずだ。

 ほんの数秒前「ちょっとからかいすぎたかな」と反省していたのに、もうこれだ。


 数分後、トッシュの期待どおり、シルはドライヤーに驚きトッシュのことを空前絶後の大精霊使いだと絶賛してくれた。


「すごい! すごい! 夏が来た! 夏が来た!」


 トッシュはシルの髪にドライヤーを当てながら、ニヤニヤと笑う。


(くっくっくっ。次はスマホで動画を見せてやる……! 小便ちびるぞぉ……! その後はコンビニに行ってトイレのウォシュレット! 買ってきた弁当をレンチン! いや、レンチンするなら冷凍食品か? 反応が、楽しみすぎる……!)


 無職トッシュはちょっと調子にノっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る